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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter20 人の消えた渋谷
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†chapter20 人の消えた渋谷05

 「あっ、こいつ間々田ままだとかいう奴やんけ!」

 ノートパソコンの画面に映る女を見て、上条は息を荒げる。間々田と喧嘩しているということは、その相手はもしや?


 そこでカメラが動き、もう1人の女にピントが定まった。黒髪ショートボブの若い女。

 「あ、天野さんだ! 天野さんが夢魔サッキュバスのメンバーと戦ってるみたい!」

 スピーカーから逆月の声が響く。やはり、間々田と戦っているのは雫だったようだ。


 「まだ追いかけっこしとったんかいな。けどまあ、そろそろ決着つくやろ」

 食い入るように画面を覗きこむ上条。それとも助けにいった方がいいだろうか?


 スクリーン上の間々田が人差し指を天に向けると、周りに落ちている空き缶などの鉄くずが一斉に宙に浮いた。

 「うわっ! 何や、この能力?」おだんごヘアの女は口を大きく開ける。

 「これは間々田の『マグネティズム』いう磁力を操る能力や。これで金属を飛ばしたりすんねん」

 上条の言葉通り、その鉄くずは空中で回転すると、雫に向かって勢いよく飛んでいった。


 しかし『同調』を使って能力をコピーしたであろう雫は、飛んできた鉄くずを弾きながら間々田との距離を詰めていく。

 「ほう、あれが噂の『黒髪』さんか。さすがやなぁ。他人の能力を自分のもんみたいにつこうとるやん。まあ、あたしの能力は真似のしようがないと思うけど……」おだんごヘアの女が哀しげに独り言ちる。


 「ん、ねーさんも亜種なんか?」

 言葉に気付いた上条は、『暴露』の能力で密かにおだんごヘアの女の能力を暴こうとしたのだが、どういうわけか彼女の能力は暴くことができなかった。


 「うん。けど、昔の話や。それと、ねぇさんって極道みたいで嫌やから、ちゃんと名前で呼んでくれるか? あたしの名前は西蓮寺さいれんじ美奈。みんなからはミーナって呼ばれてる。あんたも特別にそう呼んでええで」

 おだんごヘアの女は、それが名誉であるかの如く言ってくる。だが当然、光栄に感じることは何もない。


 「ミーナさんな、了解。俺の名前は上条圭介や。よろしく」

 「よろしく。ほんで圭介は兵庫のどこなん?」

 「尼崎や」

 上条が改めて出身地を言うと、西蓮寺は大きく口を開けてこちらを指差した。

 「何や、あんたアマか! それやったらもう大阪やん!」


 どういう理屈でそうなってしまうのかはわからないが、彼女にとって、尼崎市は大阪府になってしまうらしい。

 「いや、確かに県境で市外局番も06やけど、尼崎は兵庫や!」


 そんなどうでもいいやりとりをしている内に、モニターの中の喧嘩が終わってしまったようだ。車のまるで走っていない道路の上に立つ雫。そしてその足元には、頬を赤く腫らした間々田が倒れている。 


 「あ、やばいかも……」

 パソコンのスピーカーから逆月の実況が入る。倒したのにやばいとはどういうことだろう?

 一拍置いて、視点が変わった。今までいなかった3人の女が映り込む。


 「ま、松岡千尋がきた。FCもいる!」

 逆月のその言葉に反応した瀬戸口はリクライニングチェアから転がるように落ちると、床を這うように近づき、そして上条と西蓮寺がいるノートパソコンの前を占領した。

 「松岡ぁっ!!」

 松岡千尋は夢魔サッキュバスの会長。いきなり大ボスの登場ってわけだ。


 「FCの奴、ホントに松岡の側近みたいになってるじゃない! それでもう1人いる、黒いコートのスカした女は誰よ!?」

 瀬戸口が言うとこちらの声が聞こえているのか、逆月は「わかんない」とだけ答えた。


 「そのロングコートの女は、さっき言った殺し屋の女や!」

 上条がそう断言すると、瀬戸口の体が小刻みに震えだした。

 「あ、あれが……?」


 「ああ、そうや。あれがたった1人でチャイニーズマフィアを撃退したっちゅう、凄腕の殺し屋。財前ヒカリ子や」

 モニター越しに『暴露』の能力は使うことができないが、上条はその小さく映るロングコートの女を、間違いなく財前ヒカリ子であると確信することができた。何故なら彼女は、腰に日本刀を帯びていたからだ。こんな状況とはいえ、あからさまな銃刀法違反を犯す女もそうそういないだろう。恵比寿コンチネンタルタワーのエントランスで初めて財前に会った時の恐怖が、にわかに蘇る。


 「こ、殺し屋……?」

 西蓮寺の顔が青白く変化する。それも無理もない。ストリートギャングの喧嘩で、まさか本職の殺し屋が出てくることなど誰も予想していないだろう。


 画面の中の雫は、倒れる間々田から特殊警棒を奪い返すと、反対側に振り返り財前と対峙した。そのまま戦うつもりだ。

 「アカン! 財前とやりあうつもりや。瀬戸口、瞬間移動でこの場所まで連れてってくれ!」


 「バッカじゃないのっ!? 空気読んでよ! この状態で瞬間移動なんてできるわけないじゃない!」

 受付のカウンターにもたれ掛かっている瀬戸口は、そう叫ぶと膝を揺らしそのまま床に崩れ落ちた。どう見ても使いものにならない。


 「これ、渋谷モディの前やっ!」

 西蓮寺は鬼気迫る表情でそう言うと、入口に立て掛けてあった1メートル程の細長い木綿の袋を手に取り、ガラス戸を開け勢いよく出て行った。


 「ミーナさん、行ったらアカン! 殺されるでっ!!」

 上条も倒れる瀬戸口を残し、全速力で西蓮寺を追いかけた。

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