†chapter20 人の消えた渋谷04
あっという間に、見知らぬ場所へと移動した上条。隣には、力尽きてへたれ込む瀬戸口の姿がある。この状況は勿論、彼女の『瞬間移動』の能力によってもたらされたものなのだが、ここは一体どこなのだろう?
目の前にはエレベーターの扉があり、その横には4という数字が記されていた。そして建物の中だというのに、やけに電車の音が近くに聞こえてくる。恐らく線路沿いの安い雑居ビルの4階ではないかと推測できる。
「どこのビルやここは?」
後ろに視線を移すとそこには擦りガラスの扉があり、ガラス部分には『a la mode』と書かれていた。何かのお店みたいだ。
すると、その擦りガラスの向こうに人の姿がぼんやりと映りこんだ。こちらの気配を感じて中から誰かが出てくるようだ。体勢と整え身構える上条。
ガチャリと音を立て扉が開く。そこから出てきたのは、頭のてっぺんで髪を緩くまとめた、20代半ばくらいのおだんごヘアの女だった。
「あっ、坊主頭! あんた、スターダストの下条さんやな!」おだんごヘアの女は、テンション高めにそう叫ぶ。
「上下がちゃう、上条や!」
「うわ、つっこんだ。関西やん! 嬉しいわぁ、ウチも大阪やねん」
明るい笑顔で手を握ってくるおだんごヘアの女。目を細めたその顔は、通天閣のビリケンさんに似てなくもない。
「俺は大阪やあれへん。兵庫や」
上条の出身地は兵庫県尼崎市。同じ関西圏だが、大阪ではない。
「ああ、兵庫か。まあ、兵庫も広義で言うたら大阪やんな?」
おだんごヘアの女は真面目な顔でとぼけたことを言う。当然のことながら、広義でも狭義でも兵庫は兵庫だ。
「いやいやいや。そんなん言うたら、奈良とか京都も大阪になってまうやん」
「あ? 何で京都が大阪になんねん。アホちゃうか?」
突然キレるおだんごヘアの女。笑ったらビリケンさんなのに、怒ったら般若のような顔に変化する。喜怒哀楽のスペシャリストだ。
「けど、お前の言ってることはそういうことやねん。横浜を東京って言ってるようなもんやで」
横浜は言わずと知れた神奈川県の県庁所在地。新幹線で10分の距離だが、東京ではない。
「まあ、細かいことはええやんか。とりあえずグッチのこと起こさなあかんから、中条さんも肩貸して」
「上中下がちゃう。上条や!」
まずい。これは非常に面倒な、名前間違いパターンのボケだ。会うたびに言われそうで怖い。そんなことを考えつつ、上条は瀬戸口の右肩を持ち上げた。反対の左肩はおだんごヘアの女が担いでいる。
「いやーそれにしても、あのスターダストが手ぇ貸してくれるんやったら百人力やな」
おだんごヘアの女は瀬戸口に話しかけるが、彼女は未だぐったりとしていて、返事をする余裕はなさそうだ。
「お前も、ALICEもメンバーなんか?」
そう言いながらガラス扉を通り、担いだ瀬戸口を中に入れる。
「ちゅうちゃう。一応あたしは、この店の経営者や」
「経営者?」
瀬戸口を抱え店の中に入っていくと、入口の近くに小さな受付があった。白い壁にピンクの小物が並べられた、女子受けしそうな装飾。奥には大きめのリクライニングチェアが4台並んでいる。
「ここあんたの店なん? 立派なもんやな。足裏マッサージか何かの店か?」
「あー、惜しい。うちはまつげエクステのサロンやねん」
おだんごヘアの女はそう言って目を細める。まつエクと足裏マッサージは全然違う気がするが、何をもって惜しいと言ったのかは定かではない。
「まあ、今は営業でけへん状態やけどなぁ。あ、そこのリクライニングに寝かそか」
2人は、抱えている瀬戸口を手前のリクライニングチェアにとりあえず寝かせた。
肩の荷が下りた上条は、「はぁ」とため息をつこうとしたが、何故か寝かされた瀬戸口の方が盛大に「はあぁ」と息を吐いた。瞬間移動とは、よほど体力の使う能力なのだろう。
「あれ、ツカサは?」瀬戸口は横になったまま首を左右に動かす。
「ツカサちゃんは巡回に行っとる。何や、さっき表で女の怒鳴り声が聞こえたんや」
「ふーん。夢魔の連中かなぁ?」
「今、それを見ててん」
おだんごヘアの女は、受付にあるノートパソコンを指差した。近づいて画面を覗きこむ上条。その画面上には何やら動画が映されていた。これは映像をライブ配信するサイトだ。
「女同士の喧嘩みたいです」
空撮の映像と共に、パソコンから女の声が聞こえてきた。『空中浮遊』の能力がある逆月ツカサが、空から映像と共に実況しているようだ。
「誰やろな? 1人は夢魔のメンバーみたいや。あたし見たことあるわ。確かクレストガールズの女ちゃうかな?」
おだんごヘアの女が横から覗きこみ、そう言ってくる。
「クレストガールズ?」
上条が画面を良く見ると、現在1人だけアップで映っていている女がいる。それはティアラのような髪飾りをつけた、大きな目の女だった。




