†chapter20 人の消えた渋谷03
共に手を組み夢魔を倒そうと言う瀬戸口。しかし急に擦り寄られても困ってしまう。
「同盟って瀬戸口それ、本気で言うとるんか?」
「何で一々あんたに嘘の報告をしなきゃいけないのよ。本気よホンキ。マジ本気、マジ」
瀬戸口はそれが本当だということを、過剰に念を押し言ってくる。
「こんな状況とはいえ、俺らは別にガールズモッブと戦う気はないねんけどなぁ」
それはそうだった。この戦争でのスターダストとして狙うべき相手は、主にB-SIDEとスコーピオン、そしてVOLTの3チーム。夢魔は規模だけならその3チームを凌ぐものがあるが、ストリートギャングとしての力は正直中の上といったところだ。倒したところで称賛が得られるとは思えない。
「あんた、夢魔のこと舐めてんでしょ? いや、あんな奴ら舐めていいんだけどさぁ。けどあいつらアホだから舐めてかかると死ぬよ」
瀬戸口は自分の意見を二転三転させる。最早何が言いたいのかわからない。
「どっちやねん。お前らは自分たちだけで夢魔倒せへんのか?」
「バッカじゃないの? 夢魔はあの鼎武人を仲間に引き入れたのよ。倒せるわけないじゃない!」
そう夢魔は魔窟大楼の用心棒、鼎武人を雇っているという噂がある。そして、それだけじゃない。
「あの『吉祥天女』もおるしなぁ」
「誰、吉祥天女?」
瀬戸口は松岡千尋が雇った、『吉祥天女』こと財前ヒカリ子のことを知らないらしい。これは知らない方が幸せかもしれないが、教えてあげたほうがいいだろうか? しかし夢魔に戦いを挑むなら、これは知っておかないと命取りになりかねない。ガチ死活問題。
「吉祥天女言うんは、本職の殺し屋さんや」
「本職の殺し屋!?」瀬戸口は大袈裟に顔を歪ませる。
「そうや。しかも歌舞伎町のチャイニーズマフィアを1人で壊滅させてまう程の凄腕の殺し屋や。会うても絶対に手ぇ出したらあかんで」
「何よそれ、フリ? ウチらに死ねって言ってんの? マジでありえないんだけど」
「だから手ぇ出さんほうがええねん。殺し屋って聞いたら、さすがに怖気づいたやろ?」上条はそう言って肩をすくめる。
「はぁ? 殺し屋雇うとか、ビビってる証拠でしょ。こっちとしては激アツ、鬼アツよ! そもそもウチらは、あのデーンシングから仲間を奪い返した実績ってもんがあるのよ。今更殺し屋が1人、2人現れたところで、仲間を見捨てるわけないじゃない!」
小さな拳を握り熱く力説する瀬戸口。だけど仲間って何の話だ?
「何や、お前ら今度は、夢魔に仲間でもさらわれたんか?」
上条が質問すると、瀬戸口は急に魂が抜けてしまったかのように表情が消え目を細めた。
「ほんとバッカじゃないの? あんた、松岡の能力知らないの?」
松岡千尋の能力は有名だ。『魅了』という人心を操る能力。彼女の光る瞳に目を奪われてしまうと、盲信的に従うようになってしまうという一種の洗脳能力だ。しかしながらデーンシングの首領、『若獅子』ことチャオ・ヴォラギアットの持つ『ブレインウォッシング』ほど強力なものではなかったはず。
「松岡の『魅了』で仲間でも奪われたんか? けどあいつの能力やったら、2、3日で正気に戻るんちゃうか?」
「知ってるわよ、それくらい。けど側近として常に側に置いておいたら、洗脳状態をキープされちゃうでしょ」
呆れたように嘆息をつく瀬戸口。その奪われたメンバーは、常に側に置いておきたいような人材なのだろうか?
「そいつはそんな有能な奴なん?」
「当たり前でしょ。ALICEに無能なメンバーなんていないし、特に『FC』は今の松岡にとって無くてはならない存在なのよ」
瀬戸口は言う。そのFCとかいうのが奪われたメンバーのことなのだろうか?
「エフシーって何やねん」
「エフシーはFCよ。うちのおしゃれ番長、嶋村唯を知らないの?」
これまた呆れたように瀬戸口は言う。けど知らないものはしょうがない。
「ああ、嶋村さんか。おしゃれやから、ファッションセンターでFCなんやろ。知っとる、知っとる」
上条は『暴露』の能力でFCが何の略かを暴いた。また、つまらぬものを暴いてしまった。
「そうそう、知ってるなら話が早いわ。今からそのFCのバイト先に行くから、あんたにも付いてきて貰うよ」
瀬戸口は有無を言わさず上条の手を握ってくる。
「えっ!? ちょっと待てや。俺はお前らと手を組むなんて、一言も言ってへんやろ!」
「うっさいわねっ! 暴れると時空の狭間に取り残されるわよ!」
瀬戸口はそう言うと、目を静かに閉じた。亜種の放つ奇妙な波動がカトラリーの散らばる店内に広がる。
「いや、せめて落ちてるシルバーだけ片付けさせて……」「うるさいっ! せーの、ジャンプ!」
その瞬間、上条と瀬戸口は綺麗さっぱり店の中から姿を消してしまった。




