†chapter20 人の消えた渋谷02
特殊警棒で殴られた箇所が痛むのか、間々田は今も右手で脇腹を押えている。
「これが黒髪の持つ『同調』……。うざっ!」
雫は再び特殊警棒を掲げた。恐れた間々田が抵抗するように左手を前にかざすと、発生させた磁力を使い雫の特殊警棒を吸い寄せ奪い取ってしまった。
「あっ! 私の警棒っ!?」
奪い返そうと雫もその手に磁力を発生させた。しかし間々田も、これだけは放してなるものかと力強く握る。変わりに雫の前には、金属製のカトラリーが大量に集まっていった。
「私の警棒、返しなさい!」
雫の前で塊と化したカトラリーが、今度は勢いよく前に飛び出した。対する間々田も磁力を操り、向かってくるカトラリーを次々に弾き返す。
「食事で使う道具を人にぶつけてくるなんて、無粋な女ね。バーカッ!」
間々田は己の行為を棚に上げて難癖をつけると、雫の特殊警棒を持ったまま店の外に出ていってしまった。これは警棒泥棒だ。
「ちょっと、待ちなさいっ!」扉を出て、すぐに後を追う雫。
「いや雫ちゃん、今1人で街を歩くんは危険やで! 警棒はまた買うたるから、その女は放っておこうや!」
上条は声を上げたが、雫の耳にそれが届いていたのかいないのか、彼女はそのまま風のように去って行ってしまった。まあ、危険とは言っても、雫なら問題ないだろう。
とりあえず、奥に隠れている『FAKE LOTUS』の鈴江リクを守れたことだけでも良しとしよう。上条は己にそう言い聞かせながら厨房に移動したのだが、いるはずの鈴江リクの姿がそこになかった。
「あれ? おれへんやん。エリック何処行った?」
戸棚の隅にも目をやる上条。しかしいないので奥の方に目を移すと、普段は施錠されているはずの裏口の扉の鍵が開いていることに気付いた。
成程、裏口から逃げたのか。そう思い少しだけ扉を開ける上条。すると突然、その隙間を覗きこむように若い女がフェードインしてきた。驚いた上条は一旦扉を閉め、今のは何だと反芻しながらもう一度扉を開く。やはり見間違いではなく、そこには金髪縦巻きドーリーヘアーの女が立っていた。その女はALICEのリーダー、瀬戸口倫子だった。
「中に天野がいるでしょ。入らせて貰うよ」
瀬戸口はそこが裏口にも関わらず、我が物顔で侵入してくる。知った顔とはいえ、この不遜な態度は正直頂けない。
「何やねん、お前? ここは裏口や。店の入り口は反対側の通りやで」
「一々細かい男ね。向こうの通りはエレキングがうろちょろしてるから、無理なのよ」厨房を通り抜けながら瀬戸口は言う。
「エレキングって、夢魔の間々田とかいう女のことか?」
上条がそう聞きい返すと、瀬戸口は細い眉を寄せて振り返った。
「あの女のこと知ってるの?」
「いや知らんけど、さっきまでこの店に来とったんや」
「えっ、この店に!?」
そう言って振り返り、店内を見渡す瀬戸口。そこには大量の金属製カトラリーが床に散らばっていた。
「ふん。エレキングが暴れていったみたいね。それよりも天野はどこに行ったの?」
「雫ちゃんなら、そのエレキング追いかけてどっか行ってもうたで」
上条は雫と間々田が出ていったガラス戸を指差す。すると瀬戸口は「へぇ」と口にして微かに口角を上げた。
「さすが、ALICEの研究生ね。あのエレキングを倒してくれたら、正規メンバーに昇格してあげてもいいわ」
何故か自信満々に腕を組み、勝手な言い分を口にする瀬戸口。
「誰のこと言うとんねん。雫ちゃんは俺らの仲間やからな」
「バッカじゃないの? 冗談に決まってるでしょ。天野はあなたたちの作ったチームに入ったんでしょ。チーム名は確か、スターダスト」
そう言うと、瀬戸口は上条の全身を上から下まで舐めるように見回した。
「何やねん、気色悪い。欲求不満か?」
半歩身を引く上条。瀬戸口は言葉を遮るように、手を前にかざした。
「黙っててツッコミ三等兵! 私は今、大事な話をしようとしてるのよ」
「大事な話?」
ツッコミ三等兵って何やねんと思う上条であったが、それはスルーしてただ不安げに目を曇らせる。そしてそれとは対照的に、瀬戸口の顔は笑顔で満ちていた。10代特有の、無駄に溢れ出るキラキラ感。
「ねぇ、スターダストのリーダーさん。私たちと同盟を組まない? そして夢魔を共に倒しましょ!」




