†chapter19 冬告げのエトランゼ24
スクランブル交差点内の緊張感が最高潮に達している。B-SIDEの副長、辻堂辰也と、スコーピオンの副長、東正親が対峙しているためだ。
「不破征四郎は引退し、停戦協定は破棄された。俺たちが戦わない理由はもう何もない」
亜人系『ミノタウロス』の能力で牛頭人身の化け物と化した辻堂は、荒く鼻息を鳴らし上半身を震わせた。
「いずれこうなる運命だったなら、何故俺たちはこんなにも耐え忍ばなければいけなかったのか……?」
『激情』の能力の副作用により髪の毛を逆立てた東は、反吐でも出すかのように地面に唾を吐いた。
周りにはまだ戦える人間が複数いるようだが、このタイマンを割って入る程の度胸がある奴はいなかった。この戦いがそのまま、チームの勝敗になるだろう。
睨み合う2人の横に、不意にスキンヘッドのキモい奴が吹き飛んで来た。男は口から泡を吹き、手足を痙攣させ、その場に倒れる。そしてそれを合図に、実質ナンバー2同士の戦いが始まった。
「雌雄を決しよう、東。俺とお前、どっちが強いのか?」
「上等だ、辻堂。俺はお前にも、『VOLT』の氏家時生にも負ける気がしねー!」
2人は高い位置で両手を合わせた。まずは単純な力比べをするつもりだ。
腕の筋肉を引きつらせながらも、1歩もその場を動かない辻堂と東の2人。いや、しかし辻堂の方が僅かに押しているようだ。
「くくくっ、ナンバー2でこの程度か。これではスコーピオンの底が知れるな」
「何だと、この野郎……」
その一言で火が点いたのか、押されていた東が徐々に巻き返しだした。そう彼は怒りでエキサイトするタイプの能力なのだ。
東の顔が赤く染まっていく。激情で頭に血が上っているようだ。
そして形勢が逆転すると、東は辻堂の腕を低い位置で押さえつけた。
「腕力でこの俺に勝てると本気で思ってるのか?」
「ぬかせっ!!」
辻堂は苦し紛れに頭突きを見舞った。頭から生えた硬い角がおでこの下を掠め、東は左目の上から計らずも出血してしまった。
足をふらつかせる東。血で視界が乱れているのかもしれない。
「くそっ、家畜野郎が。今すぐミンチにしてやるよ!」
「挽肉になるのはどっちかな? 『宇田川エンシエロ』の開演だ!」
辻堂は鼻から大きく息を吹きだすと、東に対し闘牛のような特攻を仕掛けた。身を屈め頭から突っ込んでいく辻堂。視界が定まっていない東は避け切れずに、その攻撃を何度も何度も喰らってしまう。
「くっ、上等じゃねぇか……」
東は目を擦ると、まっすぐに辻堂を睨みつけた。ようやく視力を取り戻した気配。
「上等なら、俺の本気を喰らってみろ!」
辻堂は更に勢いをつけて加速する。東は正面を見据えたまま仁王立ちの体勢。避けないつもりか?
交差点の周りで観衆たちが息を呑んだその時、東は突っ込んできた辻堂の角を両手で掴み、その攻撃をピタリと止めてみせた。
「手ぇ離せ、東! 俺はこの角を他人に握られんのが一番嫌いなんだ!」
「お前の好き嫌いなんて、知ったことか。嫌なら引っ込めたらいいだろう」
「男が一度出した角を簡単に引っ込められるかよっ!!」
辻堂が首を上げると、角を掴んでいた東はリフトアップされ、そのまま遠くに投げ飛ばされてしまった。やはり亜人系の力は侮ってはいけない。
「喰らいやがれっ!」
辻堂はアスファルトを蹴り、走り出した。そして倒れている東を角ですくうと、首の力で真上に放り投げた。数メートル宙を泳ぎ、そして地面に落下する東。これで勝負あったか?
「ふん。ナンバー2とはいえ所詮、朴程度の男に踊らされてる奴だからな。まあ、こんなものか……」
そう言って振り返る辻堂。しかし、うつぶせに倒れていた東は、そこから這うように立ち上がった。
「殺すぞ」
顔を真っ赤に染めた東は、異常に吊り上がった目で辻堂を睨みつける。彼の『激情』のボルテージは最大値まで膨れ上がっているようだ。
「まだ、やる気か? これ以上続けても、仕方ないだろ」
辻堂がそう提案するも、東は聞く耳も持たずこう続けた。「殺す殺す殺す殺す殺す!」
「どうも、会話ができなくなっちまったみたいだな。ならば止めを刺してやる」
再び走り出す辻堂。東はまだ念仏でも唱えるように「殺す殺す」と続けている。
「これでラストだっ!」
角を前にした前傾姿勢で駆ける辻堂を、東は直前で飛び上がり真上から後頭部を殴りつけた。東、怒りの鉄拳。
カウンターを喰らった辻堂は体勢を崩して地面を転がると、交差点の端で大の字に倒れた。この一撃でかなりのダメージを与えた模様。
するとその時、交差点の端のアスファルトの中から人間の上半身が水に浮かぶように現れた。不気味な引き笑いと奇妙な髪型。油坊主の那智秀樹だ。
「ヒィヒィヒィヒィヒィ。我慢できずに、うっかり出てきちまったぜぇ!」




