†chapter19 冬告げのエトランゼ23
やはり、亜種と普通の人間では喧嘩にならないようで、非亜種の者たちは次々に亜種の餌食になっていった。総勢100名は下らないと思われる大喧嘩だったが、今や既にそのほとんどが地面に倒れてしまっている。
現在生き残り戦っているのは勿論、亜種の兵ども。『魔弾』梶ヶ谷鉄二もその1人だ。
「今宵のデッカードブラスターは、まだまだ血を欲している……」
梶ヶ谷は右手に持つ拳銃の銃身に付着した己の血をペロリと舐めた。本物の拳銃ならば舌を火傷してしまうところだが、そこはやはり偽物の拳銃のようだ。熱そうなリアクションはまるでない。
「なあ、あの梶ヶ谷の銃は何なんだ?」
拓人が聞くと、蛭川は非常に煩わしそうな表情を浮かべた。
「何だよ、天パーくん知らねぇのかよ。あれは昔のSF映画に出てくる拳銃のレプリカ。まあ、言ったらおもちゃの拳銃だな」
どうもそれは、架空の銃のレプリカらしい。しかし遊戯銃とは思えないほどの殺傷力があるのはどういうわけなのか?
「随分、威力があるみたいだけど?」
「それは梶ヶ谷さんの『チューンナップ』の能力。あの人が持つと、道具でもおもちゃでも性能が飛躍的に上がるだ」
蛭川がそう言うと、梶ヶ谷の銃から銃声が鳴り響いた。銃口を向ける相手は油坊主に所属するスキンヘッドのキモい奴。
「喧嘩で銃を撃ってくるとは少々面食らったが、これはこれで面白い戦いだ」
斜めに構えるスキンヘッドの男の皮膚が玉虫色に輝いた。
「誰だって遠距離から攻撃したくなるだろ。何だよ、お前のその気持ち悪い能力は?」
梶ヶ谷は続けて引き金を引く。しかし次々に撃ち込まれる銃弾は、すべてその輝く皮膚が弾いてしまった。甲虫類のように硬い皮膚。
「気持ち悪いとは初対面で失礼な奴だな。俺の能力は『妖蟲』。虫に擬態してその能力を模倣することができるんだよ」
スキンヘッドの男は、光の具合によって色身を変えるその皮膚を自慢げに見せつける。本来なら美しく感じなくもないものなのだろうが、彼がやると何故か生理的嫌悪感が半端ではない。
「とにかく近づくな。俺は虫が苦手なわけじゃねえが、お前は無理だ。キモい」
拳銃の乱発で威嚇する梶ヶ谷。しかしスキンヘッドの男はその全てを弾くと、高く飛翔し一気に距離を詰めた。
「喧嘩中に近づくなもないな」
スキンヘッドの男は宙から降りてくると、腕をカマキリのような鎌状に変え、梶ヶ谷の左肩を捕らえた。実際の鎌のように裂傷を負わすことはできないが、無数の棘があるため一度喰い込んだら簡単には離れなそうだ。
「イナゴ共に皮膚を喰われちまったみたいだな」
梶ヶ谷の頬に流れる血を目を見つめるスキンヘッドの男。大きく口を開けると共に頭部の形状が逆三角形に変化していく。
「まあ、人間の頭も俺は嫌いじゃない」
緑色に変色したスキンヘッドの男はそのまま首元を噛みついた。苦しげな声を上げ拳銃を乱射する梶ヶ谷。銃弾はスキンヘッドの男の頭部に命中していたが、皮膚が硬いのと、しっかりと掴んでいるため梶ヶ谷の体からは離れることはなかった。
「クソッ、頑丈な頭だな!」
拳銃を下ろした梶ヶ谷は何を思ったのか、コートの下に着ているシャツをまくり上げ、お腹を丸出しにした。何をする気かと思っていたら、突然スキンヘッドの男の体が後方に吹き飛び、梶ヶ谷の体からあっさりと剥がれた。
「うげえぇぇ……。な、何だそれは?」
「特別に教えてやる。1発限りの秘密兵器だ」
梶ヶ谷は得意気に腰に着けたごついベルトを見せびらかした。バックルの中心で風車のような物がぐるぐると回っている。特撮変身ヒーロー物の玩具のようだ。密着していてわからなかったが、風車部分から何かが飛び出すギミックになっていて、スキンヘッドの男はそれを喰らって飛ばされたらしい。侮れない『チューンナップ』の威力。
「ガキのおもちゃじゃねぇか。ふざけやがって!」
スキンヘッドの男は口から出た粘液を手で拭う。挑発を受けた梶ヶ谷は、その玩具である拳銃を構えドヤ顔を浮かべた。
「ふざけた能力はお互い様だ。そろそろ決着をつけるぞ」
再び斜めに構え皮膚を玉虫色に変化させるスキンヘッドの男。拳銃は通用しないかと思ったが、梶ヶ谷は構わずに回り込み引き金を引いた。
「ぐふっ!!」
腹部に銃弾を喰らい口から体液を漏らすスキンヘッドの男。弾くことに失敗したようだ。
「さっきの攻撃で、お前の弱点がわかったぜ。一般的な甲虫類同様、腹までは硬くないようだな」
ニヤリと笑みを浮かべ拳銃を構える梶ヶ谷。これで勝負が決まるかと思ったが、どうも様子がおかしい。梶ヶ谷は引き金を引いたのだが、拳銃はうんともすんとも言わないのだ。
「こんなところで弾切れかよ!」
慌てて身を退く梶ヶ谷。しかし追い詰められていたスキンヘッドの男も、ここで反撃しないわけにはいかない。
「決着つけるんじゃねぇのかっ!」
梶ヶ谷の皮膚に黒と黄色の警戒色が浮かぶ。今度はスズメバチに擬態したようだ。
翅を羽ばたかせ突っ込んでいくスキンヘッドの男。逃げる梶ヶ谷に体当たりすると、そのまま薬品店のシャッターに激突し鎧戸を内側に倒した。所狭しと並べられていた店内の商品があちこちに散乱する。
「クククッ、勝負ありだ」
スキンヘッドの男はゆっくりと立ち上がる。警戒色だった皮膚が今度は青黒い色に変化した。
「もう、好きにしろよ」
梶ヶ谷は諦めるように手をだらりと床に垂らした。本当に勝負ありなのか? 蛭川は拓人の横で未だ見守り続けている。
「お前らスコーピオンが、蠍の毒を喰らうってのもオツなもんだろ?」
針の付いた黒い尻尾を揺らし歩いてくるスキンヘッドの男。ギリギリまで近づいた次の瞬間、梶ヶ谷は落ちていた何かの缶を振りかざし上部のトリガーを力強く引いた。
それはジェット式の殺虫スプレーだった。『チューンナップ』の能力により高噴出された薬剤を浴びるとスキンヘッドの男は小さな羽虫の如く遠くに吹き飛んだ。
「へへっ。害虫が相手ならデッカードブラスターよりも、こっちの方が効果があるみたいだ」
梶ヶ谷は殺虫スプレーを持つ手を下ろし、静かに目を瞑った。隣で見守っていた蛭川が急ぎ足で梶ヶ谷の元に駆けて行く。
「いよいよ、佳境だな……」
拓人は交差点に押し戻されたスキンヘッドのキモい奴に目を向けた。口からは泡を吹き、手足を痙攣させながら仰向けに倒れている。残る油坊主のメンバーは、那智秀樹ただ1人だ。




