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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter19 冬告げのエトランゼ
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†chapter19 冬告げのエトランゼ22

 「すでに前座が始まってたみてえだなぁ」

 ギョロギョロと周りにいる大勢の敵を威嚇する那智。彼らは3人しかいないのにスコーピオンはおろか、B-SIDEビーサイドにも平気で喧嘩を売ってくる。正気の沙汰とは思えない。


 「テメーが『パコ』かっ!!」

 叫ぶや否や、梶ヶ谷の持つ拳銃から閃光が放たれた。ガンガンッという金属音と共に地面に倒される那智。


 「おーおーおー、ガキの喧嘩でチャカが出てくんのか? やべーな」

 膝をつき、ゆっくり立ち上がる那智。まともに喰らったようだが、ダメージはさほど無いようだ。


 「ありゃあ、子供用の玩具だ。安心しろ」

 続けてミノタウロスと化した辻堂が突進してくる。那智の背中に辻堂の角が突き刺さると、またガンッという金属音が鳴った。那智は1メートル程体が浮き上がり、そして地面に落下した。致命傷にも見えたその攻撃だが、那智はまた平然とした様子で立ち上がって見せる。


 「やれやれ、渋谷の連中は血の気の多い奴らばかりだな」

 にやけた表情でそう語る那智。何かカラクリがありそうだ。


 「良し。赤服の連中もリストバンドの連中も喰ってやるぜ!」

 スキンヘッドのキモい奴は背中の翅を大きく広げた。同時に衛生マスクをつけた男が右手を天に掲げると、どこからかイナゴの大群が押し寄せてきた。

 「俺の『蟲道こどう』の力も、とくと味わえ!」


 おびただしい数のイナゴが渋谷駅の方角から飛んでくると、交差点に集まる者たちの体に大量のイナゴが付着する。しかもそのイナゴどうも凶暴な種らしく、顔や手など直接肌につくと皮膚を遠慮なく食い千切ってしまうようだ。あちこちで顔を押さえた者たちが悲鳴を上げる。正に地獄絵図。混沌と化したスクランブル交差点を横目に、拓人は蛭川の顔色を窺った。

 「どうする? 行くのか?」


 「いや。行きたいところだが、俺の出番じゃないみたいだ。見てみろ」

 蛭川の向ける視線の先から、スコーピオンの軍団がぞろぞろとやってきた。あれはスコーピオンのもう1人の副長、東正親とその一派だ。いよいよ役者が揃ってきた。


 「油坊主もB-SIDEビーサイドも皆殺しにして良いんだよなぁ?」

 髪の毛を逆立て怒りを露わにしている東は、狂気に満ちた台詞を口にしイナゴが飛び回る交差点内に入っていく。昼間に会った時の温厚なイメージが一気に崩れ去った。


 「東って奴はああいうキャラなのか? もっと優しそうな男だと思ってたけど……」

 「天パーくんの言う通り普段は優しい人だよ。けどあの人の能力は『激情』。怒りによって発生するアドレナリンの量が常人の数十倍で、怒っている時はまるで別人みたいになっちまうんだ」

 蛭川は青褪めた顔でそう言う。相当危険な男のようだ。能力のせいで、VOLTボルトの八神透みたいな多重人格者になっているらしい。


 乱闘の渦に入っていく東。その中心にいる梶ヶ谷とは目も合わせないが、各々目の前の敵と好き勝手戦っている。まあ、今はいがみ合っている時ではないだろう。


 「これが戦争の序章か……」

 拓人の言葉に蛭川も頷いた。

 「ああ。厄介な異邦人が起こした、渋谷の冬の始まりだ」


 その時、交差点内にくぐもった笑い声が上がった。笑っているのは油坊主の衛生マスクの男。

 「ぐへへへへ。随分、エロい女がいるじゃねぇか」

 マスクの男の前にはヒッピーバンドを頭に巻いたソバージュヘアーの女がいる。あれはB-SIDEビーサイド幹部の西野かれんだ。


 「気色悪い男ね」

 西野が不敵に笑うと、マスクの男も釣られるように目元に笑みを浮かべ、そして両手を上げた。

 「強がっていられるのも今のうちだ。その服を食い千切ってやる」

 するとそれを合図に、交差点上空を旋回していたイナゴたちが一斉に西野に襲いかかった。


 「下らない能力だわ」

 だが西野が指笛を吹くと、上空から数羽の鴉が滑空してきて、そのイナゴの群れを一気に蹴散らしてしまった。


 「何だと……?」

 天敵の襲来に焦るマスクの男。掲げた腕を振り、残ったイナゴを操る。しかし更に集まってきた鴉たちに捕食されてしまい、イナゴはほぼ全滅に近い状態になった。


 「私は鳥を操る『鳥狩とがり』の能力の持ち主。あなたは所詮、私のペットに餌を運ぶだけの能力。どう考えても勝ち目なんてないわ」腕を組み、上から物を言う西野。

 「女の分際で生意気な口を利くなっ!」

 マスクの男は歯ぎしりをしながら直接西野に飛びかかったが、すぐに両脇から出てきた川久保兄弟の蹴り喰らい、そのまま地面に沈んだ。


 「お嬢、お怪我は?」

 川久保兄弟の鷹志と隼斗が声を合わせる。


 「あるわけないわ」

 西野はしっとりとしたその髪を、気だるそうにかき上げた。

 「虫を使って女の子を脅かすなんて、今どき小学生でもやらないんじゃない? 本当に残念な男ね」

 そう吐き捨てると、西野は川久保兄弟を従え次の敵を捜しだした。

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