†chapter19 冬告げのエトランゼ19
拓人と雫の目の前には、スコーピオンのメンバーと思われる男たちが3人ほどいる。両脇の2人は警戒の表情だが、真ん中にいる長髪の男は何故かニコニコと笑みを浮かべている。昨日の一件で争いが始まろうとしているのに呑気なものだ。
「こんな状況だ。そっちがその気なら相手してやってもいいぞ」
敢えてこちらから誘い水を向けたのだが、真ん中の男は飽くまで笑顔を崩さない。
「君が噂になっているスターダストの山田拓人くんだな」
「そ、そうだけど……」
戦うことも辞さない覚悟だったが、存外柔らかい物腰だ。噛みあわない歯車。これでは何だか調子が狂ってしまう。
「それと賞金稼ぎの天野雫さん」
真ん中の男に呼び掛けられ、雫は肩をぴくりと動かした。
「何か用ですか? 東正親さん」
「東正親……?」
言葉を繰り返す拓人に、雫は東の手配ポスターを手渡した。そこには第3種手配犯『怒髪天』東正親と書かれていた。このニコニコ笑っている男が、スコーピオンに2人いる賞金首の内の1人のようだ。
「狩るの?」
やはり賞金首を狩ってこその賞金稼ぎ。当然、東のことも狙っているのだろうと思いそう言ったのだが、雫から返ってきた答えは想像していたものと少し違っていた。
「誰を?」
「誰をっ!?」
思わず雫の台詞をオウム返しにしてしまう拓人。彼女は賞金首なら誰でも狩っているわけではないようだ。確かに全員一律に狙われたのでは、本日付で賞金首になった拓人も狩りの対象になってしまう。
「東さんは私の通っている高校のOBなの」
隣にいる雫はそう呟いた。随分薄らとした関係性だが、狩りの対象になっていないのは、そういう理由みたいだ。
東は笑みを湛えたまま、こちらに近づいてくる。
「ほう。天野さんと出身校が同じだったとは初耳だ。いつか学校の話でもしたいところだが、今は山田くんと話がしたい」
「俺と?」
警戒の色を強める拓人をよそに、東は己の距離感で接してくる。
「君は昨日、宮下公園で朴潤一と会ったらしいね」
「ああ、会ったよ。けど、あの朴って男は、あんたらが捜してるパコって奴とは無関係だぞ」
拓人は昨日知った情報をそのまま伝えたのだが、東はそんなことは知っているとばかりに口角を上げた。
「朴とは古い知り合いでね。あいつがB-SIDEに入ったという話が本当なのか知りたかったんだ」
そう言うと、東は表情を消しこちらの顔を真っすぐに見つめてきた。
黄くんから聞いた話だが、元々ファンタジスタのメンバーだった朴は、スコーピオンとトラブルを起こしファンタジスタを脱退した後しばらく渋谷を離れ、そしてB-SIDEに加入したとのことだった。
「朴は左手にブルーのカラーバンドをつけてた。古い知り合いなのかもしれないけど、あいつはB-SIDEとしてスコーピオンを潰すつもりみたいだったぞ」
表情を変えずにそれを聞いていた東は、ただ静かに鼻から息を出した。
「あいつは喧嘩っ早い奴だからな。ウチのメンバーもやられたが、B-SIDEの奴らも冬将軍という巨大な戦力を潰された。これを皮切りに大きな争いになるのは、最早避けられないだろう……」
「喧嘩腰なのは朴だけじゃなかったからな。そん時にいた那智秀樹って奴の異常性は病人レベルだ」
拓人がそう口にした直後、空から突然、大きな男が降ってきた。アスファルトに叩きつけられバウンドする筋肉質の男。その場にいた全員が身構えると、突然上空から苦しげな笑い声が響いてきた。
「ヒィヒィヒィヒィヒィ。俺の噂をしてるみてえだな。渋谷のチンピラども!」
声の主を検めるため、皆が首を上げた。その視線の先、雑居ビルの屋上には那智秀樹率いる油坊主の3人がそこに立っている。
「誰だ、あれは?」
東がそう言ってきたので、拓人は質問に答えた。
「あの3人は杉並区を制覇した油坊主とかいうチーム。そんで真ん中にいる三つ編みの男が賞金首にもなっている那智秀樹。あんたらが捜してる『パコ』って奴だよ」
「あいつがパコか……」
東は那智を一瞬睨んでから、地面に視線を移した。そこに倒れる筋肉質の男はうつぶせのまま、ピクリとも動かない。
「彼は『フラッグス』の柿崎凛太郎じゃないか。これはあんたらがやったのか?」
東は言う。どうも見覚えがあると思ったら、この筋肉質の男は代々木体育館で会っていた人物だった。確か彼の能力は、『ダイナモ』という無限の体力だったはず。それが今や虫の息だ。
那智はその言葉を受け、また不気味に引き笑いを上げた。
「ナイトメアに続いて、フラッグスも潰してやった。これなら思ったより早く渋谷を制覇できそうだぜ」
「お前が渋谷を制覇だと……?」
顔を紅潮させた東の髪の毛が徐々に逆立ちだした。隣にいる2人のスコーピオンメンバーからは焦りが感じられる。
「ヒィヒィヒィ、お前らスコーピオンだな。こいつは運が良い」
笑う那智をよそに、般若の如く怒りを露わにする東。
「幸運と不運はいつだって紙一重だ。何故ならお前は俺を怒らせたんだからな……」
地上と雑居ビルの屋上で視線がぶつかり合う。緊迫した空気が流れていたが那智が笑うことでその静寂を破った。
「今夜1時にスクランブル交差点に来い。そこで決着を着けよう、スコーピオン。ヒィヒィヒィ」
那智はそう言い残すと、屋上から引っ込み拓人たちの視界から消え去った。




