†chapter19 冬告げのエトランゼ16
拓人の見ているその目の前で、犬塚は泡のように消えてしまった。一体、三つ編みの男はどんなトリックを使ったというのか?
「何なんだよ、その能力は?」
そう聞くと、三つ編みの男はにやけた表情で横に大きく腕を振った。その軌道上に真っ赤な閃光が走る。一瞬、どういうことかわからなかったが、どうもそれは炎のようだった。
「あちちちち。使い方が難しい能力だな、これは」
三つ編みの男は炎を放った手を、上下に振った。奴の使った能力は、間違いなく犬塚の持つ『パイロキネシス』だ。
「お前が何故、火を操れる?」
「勘の悪い野郎だな。俺の能力は『融合』。あいつ諸共、能力を奪ってやったんだよ!」
三つ編みの男は言葉と共に口からの火炎を放射する。驚きと共に拓人と大関は後方に退いた。本当に『パイロキネシス』が使えるようになったようだ。
「融合?」
拓人はチカチカと光る己の目を擦る。三つ編みの男は勝ち誇った顔をして、手のひらに炎を宿した。
「ああ、基本生き物とは融合したくねぇんだが、面白れぇ能力を持った奴は別腹だ。炎を操れるとか最高じゃねえか!」
三つ編みの男の両手から炎が舞い上がった。初冬とは思えない熱気が公園に漂う。
炎使いとは上等じゃないか。『パイロキネシス』との戦いはすでに経験済みだからな。
拓人が前に駆ける。三つ編みの男は前のめりに構えると、右腕を大きく振ってきた。炎は宿していない普通のパンチ。それを確認した拓人は素手で防いだのだが、どうも奴の腕に違和感がある。見ると三つ編みの男の腕が、革靴を履いた足に変化してしまっていた。
「な、何だコレ?」
呟いたのも束の間、今度は三つ編みの男の胸の辺りから1本の腕がにょきにょきと現れて、拓人の胸倉を掴んだ。その腕に引き寄せられると、拓人は強烈な頭突きを喰らわされた。これは滅茶苦茶な戦闘だ。
「『融合』で手に入れられるものは、何もそいつの特殊能力だけじゃねぇ。俺は自由自在に取り入れた物を活用することができるのさ」
三つ編みの男の肩から4本の腕が生える。魔物のようなその姿を目の当たりにし、拓人の背中に鳥肌が立った。
しかも魔物は1人ではない。『イエティ』の亜人、大関夏生もまさに魔物だ。拓人、大関、そして三つ編みの男という三つ巴戦。思わぬ展開になってきた。
大関と三つ編みの男、魔物2人がこちらに向かって走ってくる。しまった。狙われたか?
上昇気流を起こして飛び上がり、空へと逃げる拓人。攻撃目標を変更した三つ編みの男は、大関に向かって口から火を吐いた。火を恐れなくなった大関だったが、至近距離からの炎にはさすがに怯んだ。顔を覆い隠し身を伏せる大関。
化け物2人が勝手に潰し合いをしてくれれば都合が良いのだが、中々そううまくはいかない。三つ編みの男は引き笑いで肩を揺らせると、突然こちらに向かって顎を上げた。攻撃の体勢。
しかしこれはチャンスでもあった。向かい風で炎をはね返してやれば、三つ編みの男は勝手に自滅するだろう。以前犬塚と戦った時、有効だった戦法。
空中で体勢を整え、待ち構えていると、案の定、三つ編みの男は空に向かって口から特大の火を放った。こちらの読み通り。
熱気が足元に伝わってきた瞬間、拓人は下に向かって強い風を起こした。宙を焦がした大きな炎は、風に煽られ逆流すると三つ編みの男の全身を包み込んだ。
「うわっ!! クソッ、あちいっ! あちぃよぉぉっ!!」
炎の熱さに地面をのたうち回る三つ編みの男。しかし、火は消えることなく、あろうことか燃えていた服が突然大きな火柱を上げ大炎上を起こした。能力が暴走でもしたか?
「うー、これは参ったぜぇ。ヒィヒィヒィヒィヒィ」
炎に包まれた三つ編みの男はゆっくりと立ち上がった。炎は全身を覆っており、そして三つ編みの男の足元にはぐったりと倒れる犬塚の姿があった。これはどういう状況か?
「今度は炎を取り入れさせて貰った。こんなものと融合できるとは思わなかったぜ。最高の気分だ!」
三つ編みの男は融合していた犬塚を吐き出し、燃え盛る炎と融合を果たしたのだ。乾いた空気を焦がす熱気と共に、三つ編みの男の不気味な引き笑いが静かな公園に響いた。




