†chapter19 冬告げのエトランゼ14
前に立つ犬塚を拓人は呆然と見ている。このままこいつに大関を押しつけられればラッキーだな。という思いと、いや、黄くんのかたきは自分で取らなくてはいけない。という2つの思いが脳内でせめぎ合っている。
「いきなり来て、何しゃしゃってんだよ。ここはお前の出る幕じゃねえ!」
そんな中、不意に出てきた言葉が何故かそれだった。プライドを優先させてしまう、俺の馬鹿!
「へへっ、無理すんな。相手が冬将軍なら、逃げても恥ずかしいことじゃねえ」
犬塚は足を肩幅に開き、どっしりと身構えている。対する大関も犬塚のことを敵と認識したのか、じっとその姿を睨み返す。
「さっき、朴がやった奴の仲間かな? おいらは別に、2対1でも構わないぞ」
言葉と共に突っ込んでくる大関。これはまずい。油断していたため、慌ててタックルをかわす拓人と犬塚。
「うわっ、危ねえ! とりあえず俺から離れろ、風使い! 戦いにくくなる!」
「命令すんな! お前が俺に近づいて来たんだろっ!」
納得はいかないものの、拓人は犬塚に従い向かい風に乗って後ろに跳んだ。3人の位置が三角形状に離れる。ここからどう戦うか?
「おい、冬将軍。てめえは熱いのが苦手らしいな」
犬塚が躊躇いもせずに大関に近づいて行く。そして2メートルの距離に近づいた瞬間、大関の拳が犬塚に向かって飛んできた。それに合わせ、巨大な炎を口から吹きだす犬塚。予想以上に驚いた大関は尻もちをついて転ぶと、地面を這うように後退していった。こちらが引くくらい、効果てき面。
「あ、熱いんだな。何の能力だ!?」
大関の動揺した声を聞くと、犬塚は指先に火を纏わせた。
「俺の能力は『パイロキネシス』。炎を生み出し操る能力だ。獣にはよく効くみたいだな」
勝利を確信したかのような不敵な笑みを浮かべると、犬塚は手の中に炎を宿し、大関を向かっていった。大きな図体を揺らし逃げ出す大関。
「待てコラァッ!」
「ちょっと、タイム! 待ってほしいんだな!」
追いかける犬塚。逃げる大関。これではもはや勝負にならない。圧勝の予感。
しばらく追いかけっこが続いていたが、数分後大関が急にその足を止めた。予想外の行動に犬塚も合わせてその場に留まる。
「な、何だ!? とうとう諦めたか?」
犬塚がそう問いかけたが、大関は唸るだけで何も答えない。
「だったら、これで終わりにしてやるよ」
犬塚の手の中の炎が燃え上がる。大きく腕を振ると、炎が帯となり大関の体に襲いかかった。
「グオオオオオオオオオオオオッ!!」
大関は振り抜いた犬塚の腕を、その大きな拳で握っていた。炎がジュッという音と共にその中で消えると、大関はもう片方の拳で犬塚の側頭部を殴り飛ばした。
肉の潰れる鈍い音と、派手に吹き飛ぶ犬塚。
「お前、大丈夫かっ!?」
絶対に大丈夫じゃないと思ったが、以外にも犬塚はすぐに体を起こしファイティングポーズを取った。致命傷は避けられたようだ。
「おい、炎が効かなくなったぞ。話が違うじゃねぇか!」
「知らねえよ! お前が追い詰めるから豹変したんじゃねえか!」
しかしここで言い合いをしている場合ではない。大関はすぐにこちらに向かって、攻撃を仕掛けてくる。
拓人は両腕で防いだが爪によって皮膚が引き裂かれてしまった。鮮血を流しながら、拓人は上昇気流に乗り天高く跳び上がる。
「こんなことなら、1人で戦ってた方がましだったよっ!!」
地上にいる大関の脳天に、上から振りおろした拓人の踵が突き刺さった。
頭部への攻撃をまともに喰らった大関だったが、ダメージはないらしく、真下に落下した拓人の顔面を大きな口で噛みつこうとしていた。これはまずい。
風の力で何とか逃げようと腰を浮かせると、突然、目の前の大関の顔が炎で包まれた。背後から犬塚が攻撃したようだ。さすがに苦しい声を上げる大関。その隙に距離を取ると、再び3人は三角形状に対峙した。大関は自らの顔を手で叩き炎を消しとめる。
「ヒィヒィヒィ、さすが渋谷。凄ぇ喧嘩してやがるぜ」
不意にどこからか声が聞こえてきた。見ると大関の背後に、悪人顔の男が背を丸めて立っている。公園管理室を尋ねた時にいた不気味な三つ編みの男だ。
「な、那智くん、まだこんなところにいたんですか?」
管理室の前で倒れる黄が、顔をしかめそう言った。
「なぁに、俺の仲間がここにいる誰かの世話になっちまったみたいでなぁ」
三つ編みの男は前屈みの状態で、喧嘩中のこちらをジロジロと見回す。まさかこいつが、さっきボコった虫々コンビの仲間か?
その時、野獣化した大関が問答無用に三つ編みの男に殴りかかった。しかし男は落ち着いた様子で右腕を差し出した。大関の大きな拳が、三つ編みの男の腕をくの字にへし曲げる。
骨が折れているかのような状態だったが、見ると少し様子がおかしい。三つ編みの男の右腕は、肘から先が交通標識の付いたアルミ製のポールに変わっていたのだ。
「挨拶にしては強烈だ。止まれの標識が折れ曲がっちまった。ヒィヒィヒィ」
三つ編みの男は奇妙な引き笑いをし、その折れ曲がった標識で大関に殴りかかった。表示板が大関の脇腹をえぐり、赤い血が吹き出した。「グオオオオッ!」と苦しい声を上げる。
「那智くん、話が違う! 渋谷では暴れないと、さっき約束したじゃないですか!?」
黄が普段聞かないような悲痛な声を上げると、三つ編みの男はまた奇妙な引き笑いをした。
「ヒィヒィヒィヒィヒィ。あんた、わかってねぇな。約束なんてもんは、破るためにあるんだぜぇ」




