†chapter19 冬告げのエトランゼ13
乾燥した冬の風を正面に受け、拓人は全力で突っ込んだ。迎え撃つ大関は格の違いを見せつけるかのように、前を見据えただじっと待ち構えている。
「くたばれっ!」
一気に懐に入り込んだ拓人が左肘を打ち込む。だが大関は1歩身を引くと、大きな拳でそれを弾き返した。
「おお、スピードは速いんだな」
立て続けに数発の拳をお見舞いするが、体が一回り大きくなった割に動きの速い大関に、ことごとく防がれてしまった。
「ふーん。じゃあ、今度はおいらの攻撃だ」
言葉と共に飛んでくる強烈な拳。紙一重で攻撃を避けたが、首元に強い風圧を受ける。やはり『冬将軍』の異名は伊達じゃない。
腕を大きく振り何度も攻撃してくる大関。すぐに疲れてしまいそうなモーションのパンチだが、この男、顔色1つ変えず攻撃を繰り返してくる。見た目だけでなく、スタミナも化け物クラスというわけだ。
いくら『スターイエロー』が覚醒しているとはいえ、やはり大関が相手では近接戦闘では分が悪いらしい。それならばと拓人は後方に跳んだ。風の力で高く舞い上がる。大関との距離は4メートル。ここがキルゾーンだ。
「喰らえ、鎌鼬っ!!」
宙に浮かんだ状態で拓人は右手を強く振った。鋭利な風が流線型を描いて走り出す。正面に立つ大関がその風を浴びると、カミソリで切られたかのように皮膚が数か所裂かれた。
「おっ! 何だこれ!?」
大関は裂かれた腕に目をやった。白い体毛が真っ赤に染まっている。
「どうだ、俺の冬限定秘密兵器の味は? 冬に強くなるのはお前だけじゃないんだよ」
拓人が言うと、大関は腕に流れる血をペロリと舐めた。
「まずい。大した傷じゃないけど、少し怒ったぞ」
そう言い終ると、大関はいきなり突っ込んできた。弾丸のような特攻。拓人はその風圧を利用して巧みに避けると、大関は背後の木に正面から激突した。真っすぐに伸びる木が、めきめきと音を立て横倒しになる。
あれを直接喰らっていたらどうなっていただろうか? こめかみに冷や汗が流れる。雪男に変身する前とは、別次元のパワーだ。
その後も、次々に繰り出される大関の攻撃を紙一重でかわす拓人。自分のペースに持っていかないと、このままでは防戦一方だ。
攻撃をかわし高く跳び上がった拓人は、隙だらけの大関の頭頂部に踵落としを喰らわせた。
「がっ!!」
苦しげな声を上げ、足をふらつかせる大関。これは追撃のチャンスと、拓人は続けて地面を蹴った。目の焦点が合わず意識が朦朧としている大関であったが、拓人が近づくと虫でも払うかのように大振りのバックナックルを放った。
右肩に衝撃を受け、横に吹き飛ぶ拓人。転がった先にいた何者かの足にぶつかり、拓人は動きを止める。誰だと思い見上げると、そこにいたのはドレッドヘアーの強面の男。スコーピオンの犬塚だった。
「随分おもしれー奴と喧嘩してんじゃねぇか、風使い」
犬塚は額にある火傷の痕に手を触れる。強がりなのかはわからないが、大関を恐れている様子は感じられない。
「全然面白くねえよ。相手は『冬将軍』だぞ」
「大関か……」
犬塚は大関に目を向ける。奴は意識を取り戻そうとしているのか、首を強く振っている。
「それよりお前、蛭川のことはいいのか?」
そう質問するが、犬塚は睨んだまま表情を変えない。
「ああ、英二は他の仲間が病院に連れて行ったから大丈夫だ。それよりこの喧嘩、俺に譲れ。あいつとは一度、やりあってみたかったんだ」
拓人の聞き違いでなければ、確かに犬塚はそう言った。
「えっ? お前、正気か?」
突然現れた勇者に、拓人はたじろいだ。大関夏生は誰もが恐れる人物で、拓人も身を持ってその強さを実感したのだからそれも当然だ。
犬塚はゆっくりと前に歩き出る。彼の左手の指先には薄らと赤い炎が灯っていた。
「俺の『パイロキネシス』は大関には有効だと思ってる。開戦の狼煙を上げるのは、お前じゃない。この俺だ!」




