†chapter19 冬告げのエトランゼ12
「最近は喧嘩売られることも少なくなってきたから、ちょっとだけ嬉しいんだな」
大関はそう言って尻を掻くと、巨漢とは思えないほどのスピードで真っすぐに突っ込んできた。しかし速度なら拓人の方が上をいく。身を翻すと風と共に高く飛び上がり、大関のタックルをかわした。
勢いに乗り、5メートル程飛び上がる拓人。高所恐怖症のため普段なら上空に逃げることは避けるのだが、今はどういう訳か恐怖心が鈍くなっている。
空中で静止した拓人は、前屈みの状態で下を見下ろした。だが地上にいるはずの大関の姿が確認できない。
どこに消えた? 言いようのない焦りが脳裏に過ぎる。
まさかと思い空中で振り返ると、拓人より高い位置に体を大きく反らせる大関の姿があった。
「いつの間にっ!?」
「おおおおおっ!!」
雄叫びを上げる大関。彼は高く掲げた両腕を、拓人目掛けて一気に振り下ろした。
咄嗟に避けることができないと悟った拓人は、両腕を交差させその攻撃に備える。
空中でぶつかる鉄槌のような大関の拳。圧倒的なパワーに押されると、拓人はそのまま地上に落下していった。
辛うじて起こした上昇気流を使い減速しつつ、縦に回転して足から地面に着地する。ダメージは極めて少ない。だが、攻撃を加えてきた大関は、同時に落ちてくると大きな音をたて尻もちをついた。高く飛び上がる筋力はあっても、着地の反射能力はいい加減なようだ。
ここはチャンスだとばかりに今度は拓人が攻める。地面を蹴ると一足飛びに大関に接近し、竜巻のような回し蹴りを顔面に見舞った。2メートルはあろうかという巨躯が派手に吹き飛び、辺りに土埃が舞う。
拓人は『スターイエロー』のポテンシャルに高さに困惑すら覚えた。今の状態なら、スピードはおろかパワーにおいてもこちらに分があるようだ。
目の前に倒れる大関は、拓人を睨みながらゆっくりと立ち上がる。すると辺りに異様な雰囲気が広がり始めた。これが亜種が放つという波動というものだろうか?
「グオオオオオオオオッ!!」
再び声を上げる大関。常人とは思えないほどの声量に、拓人は思わず身を引いた。
大気を震わせる苦しげな声。気がつくと大関の顔や頭部が白毛で覆われだした。これは亜人系能力。他の手や足元の肌が露出しているところも白い体毛が生えてくる。
「なるほど、この能力は見覚えがある。代々木体育館で不破征四郎が白い毛で覆われたのは、お前の能力だったんだな……」
拓人が体勢を整える。大関は一回り大きくなった体を慣らすように、左右の拳を振った。
「『イエティ』。つまり雪男が、おいらの能力なんだな」
そう言い終ると大関は予備動作なしで突っ込んできた。予期せぬ体当たりが拓人を襲う。
「うわっ!」
強い衝撃を受け、ゴロゴロと後ろに転がる。管理室の壁に当たり止まったところで、拓人は慌てて立ち上がった。しかし、目の前に大関の姿はない。また上か?
すぐに見上げると案の定、体を反らせた大関が宙を舞っている。この攻撃は予測できた。
風を起こし横に逃れると、管理室から大きな破壊音が鳴った。大関の振りあげた巨大化した拳が、管理室の天井の一部を破壊したようだ。速度も力も先程の比ではない。
着地した大関はこちらに振り向き白い息を吐いた。
「運が悪かったな、風使い。冬の戦いで、おいらに勝る奴はいないんだな」
それははったりではないだろう。先程のんべえ横丁にいた蛭川は大関の強さをキョージンクラスだと言っていたし、以前、上条は肉弾戦なら鳴瀬光国より強いと評価していた。
拓人の体がぶるぶると震える。寒いからなのか、恐怖から起こるそれなのかいまいちわからない。恐らく武者震いだろうと結論付け、拓人は雪男と化した大関と対峙した。
「この俺が冬の戦いでお前に勝つことに意味があるんだよ。覚えておけ、俺は『疾風』使い、山田拓人だ!」




