†chapter19 冬告げのエトランゼ11
拓人の足元に大きな旋風が舞い上がる。怒りがエスカレートしたせいか、己の能力がうまく制御できない。こんな経験は初めてなのだが、どこか既視感のようなものも感じている。
「風を起こすことしか能の無い扇風機野郎が。風だったら俺の蹴りでも起こせるぜ!」
その場で半回転した朴は軽く飛び上がると、後ろ回し蹴りを放ってきた。
何故か時の流れが凄く穏やかに感じる。スローモーションのようなその蹴りを両手で掴んだ拓人は、懐に潜り込み背負い投げの要領で足を担ぎ地面に投げつけた。
「ぐあっ!!」
苦しげな声を上げる朴。彼は自分がどうして地に伏しているのか理解できないのか、そのまま動けずに呆然としている。
「お前の起こす風と、俺の『疾風』。その違いを教えてやるよ……」
拓人がそう言うと、朴は慌てたように立ち上がり半身に構えた。先程の攻撃的な構えとは違い、今度は守りを重視しているようだ。
「お、お前何だ、その目……?」
それは因縁をつけるように言ったわけではない。朴は何か恐ろしい物でも見てしまったかのように、そう言ってきた。
「目?」
拓人は左手で目元を押さえる。そしてそこでようやく思い出した。己の中で起きているこの感覚が以前、代々木体育館で起こった現象と酷似していていることに。確認することはできないが、恐らく今自分の瞳孔は黄色く変色し光輝いているだろう。それは『スターイエロー』と呼ばれている後天的異形だ。
代々木体育館で不破征四郎と戦った時のようなパフォーマンスが発揮できるというのなら、それほど頼もしいものはない。
「成程。これでもう、お前如きに負ける理由は何1つなくなったな」
拓人はゆっくりと距離を縮める。朴は三白眼を細め、ジリジリと後退していった。警戒を強めているようだ。
「朴、俺が変わろうか?」
大関は何処から出したのかあずき味のアイスバーをかじりながらそう言ってくるが、朴はそれに対し首を縦に振らない。
「お前はもう下がれよ。こっちも三下には用がねぇんだ」
自分でも驚くほど冷徹な言葉が口から出た。『スターイエロー』は性格すらも変えてしまうのだろうか?
「舐めんな! 三大勢力の争いに、弱小チームが首突っ込んでんじゃねぇよっ!!」
覚悟を決めた朴が仕掛けた。回し蹴りのモーション。美しい蹴りだが、今はそれが仇になっている。一切軌道のぶれない蹴りは、動きが読みやすいのだ。
1発目の上段の蹴りを潜り、2発目の中段蹴りが襲いかかってくるその瞬間、拓人は朴のみぞおちに肘鉄を喰らわせた。その動き疾風の如し。
嗚咽のような声を漏らした朴は膝が崩れると、そのまま前のめりに地面に倒れた。勝負あったようだ。
「あーあ、やっぱり朴じゃ無理だったか……」
大関はゆっくり近づくと、倒れる朴の顔を確認した。意識はあるが、しばらくは立ち上がれないようす。
「おいらはお前になんか興味なかったけど、仲間がやられたんなら話は別なんだな」
とぼけた面持ちを消すと、大関の黒目は野生動物のように大きくなった。思考の読み取れない眼差し。
「駄目だ……。拓人くん逃げろ。大関くんには勝てない……」
管理室入口に伏している黄が、か細い声で忠告してくる。だが今の拓人は、黄の言葉に従うつもりもなかった。
「大丈夫、黄くん。悪いが今は誰にも負ける気がしない。勿論お前にもだ『冬将軍』」
光る目で睨む拓人。対する大関は、半分程残るあずきバーを一気に平らげた。
「アイスも食ったし、おいらも絶好調だ」
「なら話が早い。蛭川のことはともかく、黄くんの仇は取らせて貰う。覚悟しろよ」
対峙する2人。体格差が大人と子供ほどある上に、どんな能力を持っているのかさえ知らない相手だ。もしここにギャラリーがいたのなら、その全員が大関の勝利を予想しただろう。
「俺はお前を倒して、鳴瀬に宣戦布告する!」
拓人の周りから風が消え去った。そして訪れる暫しの静寂。近くに走る電車の音すらも、今は耳に届かない。




