†chapter19 冬告げのエトランゼ06
「俺が聞きたいことは2つある。まず1つは、何でファンタジスタはB-SIDEの軍門に降っちまったのかってことだ」
蛭川は高圧的な態度で質問したが、ファンタジスタ側はそれに答える義務はないとばかりに口を閉じている。
「別に軍門に降ったわけじゃなくて、黄くんたちは戦争が起きたとしても参戦しないことを鳴瀬に宣言しただけだろ?」
拓人が代わりにそう答えると、黄は大きく相槌を打った。
「そうですねー。別に軍門に降ってはいないですよぉ」
「そうは言っても、実質支配下に落ちているじゃないか」
蛭川は窓の外をチラリと見やる。管理室の外にはブルーのカラーバンドを着けた男が数人たむろしていた。
「僕らから頼んでいるわけじゃないですが、一応、我々を守ってくれているというのが彼らの言い分ですねぇ」薄く笑みを浮かべながら黄は言う。
「なんだそれ? どこぞの大国みたいな言い分だな。そもそもお前らが本気になれば、B-SIDEとも互角に戦えるはずだろ?」
「それは過大評価ですよ。やはり数という大きな力には勝てません。大体僕たちはパルクールというスポーツの愛好団体に過ぎませんからねぇ」
黄がそう嘯くと、蛭川は白けたように目を細めた。
「じゃあいい。後もう1つ聞きたいことがあるんだが、そっちが本題だ。今『パコ』って呼ばれている奴を捜してるんだが、あんたら何か知らないか?」
それを聞いた黄は、首を捻ると横にいる飛澤と六角の顔を交互に見た。しかし彼らもわからないのか、じっと眉をひそめている。
「そいつがどうかしたのか?」と六角。
「ウチの若いのが世話になっちまってるんだ」
蛭川はそう言うと苦虫を噛み潰した。世話になっているというのは、要するに暴行を受けたかそういう類の話なのだろう。
続けて飛澤が口を開く。「一体、何者なんだ?」
だがそれはわからないのか、蛭川は首を横に振った。黄はそのやりとりを左手親指の爪を噛みながら聞いている。
「パコさんですかぁ。スペインにそういうファミリーネームがあったはずですが、その方はスペインの方ですかねぇ?」
「スペイン人? いや、パコと呼ばれているだけで、外国人じゃないだろ」
蛭川がそう言うと、それを受け黄は急に己の手のひらを打った。
「ああ、そう言えば昔、ウチのチームに朴くんというメンバーがいましたねぇ」
「朴……?」蛭川の顔から表情が消える。「朴って、もしかして朴潤一のことか?」
「さすがにご存知ですか。彼はスコーピオンと因縁がありますからねぇ」
黄はそう言って腕を組むと、何かを思い出すように遠くを見つめた。
「誰だよ、朴? パクとパコを聞き間違えたのか?」拓人が聞く。
「いや、朴潤一のことは俺もよく知らねえ。先輩から昔話で名前を聞かされただけだ。若いメンバーも知らないだろうから、聞き間違えた可能性はある」
拓人と蛭川は前の席に目を向ける。向かいに座る黄は組んでいた腕を外し、アイスグリーンの髪を手でとかした。
「少し前の話ですが、朴くんにはとある事件がきっかけでファンタジスタから脱退して貰ったんですよぉ」
そう前置くと、黄は朴潤一のことを話しだした。
今から3年ほど前にファンタジスタに加入した朴は、身体能力が高くすぐにチーム内で頭角を現したのだが、元々の勝気な性格が災いしスコーピオンとトラブルを起こしてしまい、遂にはファンタジスタ脱退に至ったのだという。そしてしばらくの間渋谷から姿を消していたのだが、最近になりB-SIDEのメンバーとしてこの街に戻ってきたらしい。
「彼はパルクール実践者としては非常に有能だったのですが、何分気性の荒い性格だったので、僕たちも苦労させられたんですよぉ」
黄はそう言うと、また左手親指の爪をそっと噛んだ。




