†chapter19 冬告げのエトランゼ05
音も無く公園管理室に近づく拓人と蛭川の2人。周りにいるB-SIDEのメンバーに気付かれぬよう、拓人は小さく呟いた。
「それじゃ、とりあえず中に入ってみるか?」
「いや、ちょっと待て。中にもB-SIDEの奴らがいるかもしれないだろ? ここは一旦、天パーくんが中を覗いて、何か合図的なものを送ってくれ」
自分勝手な蛭川の申し出。まあ、B-SIDEメンバーがいたところで、叩き潰せばいいだけの話のような気もするが、わざわざ敵陣で暴れるのも賢い選択とは言えなくもない。
「じゃあ、オッケーそうなら左手の指を1本立てて知らせるよ。そんで、やばそうな奴がいたら左手の指を2本立てる。これで完璧だろ?」
拓人の提案に、蛭川は上出来だとばかりに親指を立てた。なんかむかつく。
「言っとくけど、俺たちだってB-SIDEとは敵対してるんだから、見つかれば厄介なことになるからな」
それだけはしっかりと伝え、拓人は小さく扉を開けた。
開いた隙間から中を除くと、小さなセンターテーブルを中心にして、奥側に飛澤、黄、六角。そして手前に三つ編みの女が座っていた。
「おい、どうだ? B-SIDEの人間はいるか?」
蛭川が小声で聞いてくるが、果たしてあの三つ編みの女がB-SIDEの人間なのかどうかわからない。とりあえず拓人は左手の指を3本立てた。たった今考えた、三つ編みがいたことを示すサイン。
「おいっ! 何だよそれ!」
思わず大きな声を上げる蛭川。そしてそのつっこみの声が管理室の中にも聞こえてしまったのか、奥に座る黄がむくりと顔を上げた。
「あっ、拓人くんじゃないですか!」
すると、中にいる他の人間もこちらに視線を向ける。飛澤、六角が順に顔を上げ、そして最後に三つ編みの女がこちらに振り返ると、拓人は驚きのあまり「うわっ!!」と声を上げてしまった。何故ならその女だと思っていた人物が、実はヤバい目つき顔をした男だったからだ。
「ヒィヒィヒィ、誰か来たみてぇだな」
三つ編みの男は奇妙な引き笑いをしながら、立ち上がった。舌をぶらりと垂らし、不気味な目でこちらを睨みつけている。悪人顔に三つ編みという、最悪の食べ合わせ。
「客が来たんなら、俺は帰るぜ」
席を立ち管理室から出ようとする三つ編みの男に、黄は極めて穏やかに声を掛けた。
「那智くん、約束は守ってくださいねぇ」
男は振り返るとまた「ヒィヒィヒィ」と笑った。
「俺はぁ、金の上での約束は守るぜぇ」
手にしている封筒を懐に仕舞うと、三つ編みの男はこちらには目もくれずに管理室から出ていった。目の下の弛んだ大きなクマが印象的な男。ブルーのカラーバンドはしていないので、B-SIDEメンバーではないようだ。
「さて、今日は一体どういった用件ですかぁ?」
黄にそう声を掛けられるまで、拓人は呆然と立ち尽くしていた。
「あ、ああ。ちょっと黄くんに聞きたいことがあって。けどその前に、もう1人、ここに呼んでもいいかな?」
それに対し、黄は素早く頷いた。
「外に誰かいるのはわかってますよぉ。どうぞ、中に入ってください」
そう言われると、外にいた蛭川が不貞腐れたような表情で姿を見せた。そしてその瞬間、奥に座る飛澤と六角が急に立ち上がり戦闘態勢を取る。
「お前はスコーピオンのメンバーか?」
B-SIDEメンバーがブルーのカラーバンドをしているように、スコーピオンメンバーは血しぶきがデザインされた服を着ていることが多い。そしてこの時、蛭川はダウンベストの下に血しぶき柄のトレーナーを着ていた。
「ああ、俺はスコーピオンの蛭川ってもんだ。だが、別にあんたらと喧嘩しに来たわけじゃない。ちょっと、聞きたいことがあるんだ」
蛭川はそう言うと、断りも無く前のベンチに腰を下ろした。中々厚かましい奴だ。
黄は、未だ臨戦態勢の飛澤と六角に座るように促し、そして蛭川に顔を向けた。
「何の用かはわかりませんが、折角来ていただいたのですから、話くらいは伺いますよぉ」




