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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter19 冬告げのエトランゼ
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†chapter19 冬告げのエトランゼ04

 『疾風』の能力を使用した拓人は、上条の手を取り共にキョージンから逃げてきたつもりだった。だが今、拓人の横にいる灰色の髪の男は断じて上条ではない。足を止めた時3度見して確認したが、それはどう見てもスコーピオンの蛭川ひるかわ英二だった。


 「うん。連れてくる奴を間違えた」

 「間違えたじゃねぇよ! 犬くん、置いてきちゃったじゃんかって……おえーっ」

 蛭川は文句の途中でしゃがみ込むと、口から吐瀉物としゃぶつを吐き出した。全く持って『ヘッドクエイク』とは不憫ふびんな能力だ。


 「今日も片頭痛が酷いみたいだな」

 拓人は頭の周りを飛び交う羽虫を手で追い払った。昨日暖かかったせいか、やたらと虫が飛んでいる。

 「ちげーよ。お前の走り方が荒いから、少し気持ち悪くなっただけだ」

 口から胃液を垂らし、蛭川はゆっくりと立ち上がった。謎の強がり。


 「ところでどうする。戻るか?」

 拓人は提案する。良く考えると、上条だけでなく裕太も連れて逃げなくてはいけなかったのに、あいつのことなどすっかり忘れていた。まあ、悪知恵の働く奴だから心配はしていないのだが一応気にはなる。


 「何の罰ゲームだよ! わざわざキョージンのとこに、戻るわけねぇだろ。そもそもあの辺りは、調べつくしてたんだ。少し場所を移動しようかって、さっきも犬くんと話してたところだし」

 「ああ、『パコ』とかいう奴、捜してんだっけ?」


 「そうだよ。だけどその前に、犬くん捜さなくちゃいけなくなった。全部、お前のせいだ」

 蛭川はうだうだと苦言を言いながらスマートフォンを耳に当てる。犬塚に電話しているようだったが、しばらくすると耳から離し画面を睨みつけた。繋がらなかったらしい。


 「冬だってのに虫が多いな!」

 蛭川は苛立った様子で頭の周りの羽虫を追い払う。人捜しは上手くいかないは、電話は繋がらないは、羽虫が飛び回るはで、能力の副作用以外にも頭痛の種には事欠かないようだ。さすがに少しだけ同情する。


 「昨日、あったかかったから、昆虫も春と間違えたんじゃね? それと、公園も近いしな」

 「あぁ? 公園?」

 そう言うと蛭川は急にキョロキョロと辺りを見回しだした。


 「おい、ここ宮下公園じゃねぇか。何でこんなとこに来たんだよっ」

 蛭川は小声になりながらも、強い口調で言ってくる。そう、キョージンに追われて逃げてきたこの場所は宮下公園。だが正確には、2人がいるのは宮下公園に入るための階段の下のところであって、公園内ではない。


 「宮下公園だと、何か問題があるのか?」

 「大ありだ。俺はスコーピオンだぞ。ファンタジスタの拠点に、のこのこ入っていったら大問題だろ!」

 蛭川は階段の上を指差す。そこには以前、黄英哲ファンヨンチョルに連れられて訪れたことのある、公園管理室があった。


 「そうだ。ファンくんなら、お前らが捜してるパコとかいう奴のこと知ってるんじゃないか?」

 拓人が言うと、蛭川はいぶかしげに顔をしかめた。

 「お前、あの『神童しんどう』と知り合いなのか?」


 「新藤?」

 「いや、アクセントがおかしい。苗字みたいに言うな。神のわらしと書いて神童。黄英哲ファンヨンチョルの通り名だよ」


 「ああ、ファンくんとは友達だよ」

 拓人がそう認めると、蛭川は何も言わなくなった。まあ、三大勢力の1つであるファンタジスタの代表なら、言わばB-SIDEビーサイドの鳴瀬光国や、元スコーピオンの不破征四郎と同じレベルの大物なのだから、友達と聞いて少し引いてしまったのかもしれない。


 「スコーピオンとファンタジスタは敵対関係にあるんだっけ?」拓人は聞く。

 「いや。別に俺らスコーピオンからファンタジスタに喧嘩売るつもりはない」

 きっぱりとそう宣言すると、蛭川は目の前の階段を上りだした。拓人もその後をついていく。


 「だけどあれを見てみろ」

 階段上部から頭だけを出して公園を覗き見る蛭川は、あごで管理室の裏手を指し示した。そこにはブルーのカラーバンドを手首に着けた男たちが立っている。


 「渋谷で戦争が起きたとしても参加しないことを表明した関係で、ファンタジスタは今やB-SIDEビーサイドの支配下になり下がっちまったんだ」

 そのことが不快なのか、頭痛が酷いからなのか、蛭川は頭を押さえ苦々しい表情を浮かべた。


 「ふーん。けど、これじゃ渋谷のパワーバランスが無茶苦茶だな」

 拓人の言葉に、蛭川はその通りだと言わんばかりに手を叩いた。しかしそんなことをしたらB-SIDEビーサイドの奴らに見つかってしまうということに感づいたのか、慌てて階段の下に身を隠す。


 「危ねえ。間一髪だったな」

 屈んだまま蛭川はため息をついた。ただ、ずっと正面を向いていた拓人にはわかるのだが、ブルーのカラーバンドを着けた男たちは、先程から何の反応もなく呆然と立ち尽くしている。蛭川の喜劇のような動きだけが、無駄に脳裏に焼きついた。


 蛭川は身を起こすと、ファンタジスタが詰め所として使用している公園管理室に目を向けた。

 「ファンの奴、均衡きんこうを壊すようなことしやがって……。あいつには一言、言ってやりたいことがあるんだ」


 何を言うのかと思い下の段から顔を見上げると、蛭川は頭痛が治まったかのようなすっきりとした頬笑みを浮かべた。

 「なあ、天パーくん。悪いけど俺をファンのところに案内してくれないか」

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