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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter18 ワンヒットの法則
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†chapter18 ワンヒットの法則27

 「この部屋で間違いないんやな?」

 上条は扉の横にある部屋番号を確認する。そこには3202と表記されていた。


 「うん。ドア、開けられそう?」

 みくるにそう聞かれ、上条は鍵穴に目を移した。ディンプルキーの鍵穴のようだ。ピンタンブラー錠よりピッキングが難しいとされている鍵だが、『暴露』の能力を使用すれば簡単に開けることができるだろう。


 上条は扉の前でしゃがみこむと、ヒップバックから道具を取り出した。

 「ここからはいよいよ俺の出番や。上条圭介が今宵、その構造を暴いたるっ」

 口上を述べるとさっそく解錠作業に取り掛かった。ぐずぐずしていては、溝畑エレナが帰ってきてしまう。


 小さな鍵穴に細い針金を差す。すると上条の頭の中に内部の形状がぼんやり浮かんできた。

 「ふむふむ、なるほど」

 上条はそう呟きながら、特殊な鍵山を持った鍵をバックから取り出した。


 「何だ、その変な鍵は?」と裕太。

 「これは『バンプキー』いう魔法の鍵や。これがあれば、あら不思議!」

 鍵を回すと扉の奥でロックが外れる音がした。あっと言う間にピッキング成功。


 「ざっと、こんなもんや」

 得意気な顔で上条が扉を開けると、それを押しのけて裕太が中に入っていった。一刻も早く藤崎の無事を確認したいのだろう。上条を含めた他の3人も後に続こうとするが、その束の間、部屋の中から大きな炸裂音が鳴り響いた。


 銃声のような音。みくるの透視では藤崎しかいなかったはずだが、まさか何者かが潜んでいたというのか?

 脈拍数が急激に上昇する。顔を赤くした上条は慌てて部屋の中に侵入した。


 「裕太、大丈夫かっ!?」

 玄関から真っすぐに伸びる廊下の先で、尻もちをついて倒れている裕太。彼の顔は血で赤く染まっている。いや、あれは血ではない。赤くて細い紙テープのようだ。


 「ハッピーバースデー! エレナさん!!」

 正面の部屋に明かりが灯ると、突然そこからメイド服姿の女が現れた。手には使用済みのパーティー用クラッカーを持っている。


 「び、びっくりしたぁ! 何すんだよ、梨々ねえ!」

 腰を抜かし倒れている裕太が声を上げる。よく見ると、そのメイド服の女は藤崎梨々香だった。


 「えっ、エレナさんじゃない?」

 藤崎はどこからか眼鏡を取り出し、素早くかけた。純朴そうな顔が更に強調される。

 「あ、裕太! それにみくるさんも? 一体どうしたんですか?」


 裕太は顔にかかったクラッカーの紙テープを払いのけ、そこから立ち上がった。

 「どうしたもこうしたもないよ! 何だよ、その格好!?」

 「こ、これはエレナさんの趣味というか、何というか……。でも、可愛いでしょ」

 藤崎はフリルの入ったスカートの端を両手で軽く持ち上げ、衣装をアピールした。これがアイドルの生きざまだ。


 「誘拐されたんじゃなかったのか? 俺は心配したんだぞ」

 背後にいた朝比奈が顔を出した。彼は藤崎の路上ライブ仲間で、彼女が攫われた時の目撃者でもある。さすがにこの状況には、腑に落ちないといった表情をしている。


 「あ、朝比奈さん……」

 藤崎はスカートの端を下ろすと、申し訳なさそうに顔を下げた。

 「あの、説明しますので、皆さんこちらへどうぞ」


 藤崎に誘われ、4人は白い革張りのソファーが置かれたリビングルームに入る。広い部屋だ。奥にはダイニングもあり、そこのテーブルの上には豪華な食事が並べられている。藤崎が用意したのだろうか?


 高級そうなソファーに4人を座らせると、藤崎はことの経緯を説明しだした。

 「朝比奈さんが目撃した通り、私がエレナさんと乙村おとむら香織さんに連れ攫われたのは事実です。伊丹さんに反感を買ってしまったのが原因だと思います」


 彼女の説明によると、渋谷駅前でライブしてることで伊丹たちから目を付けられてしまい、それがきっかけで伊丹の所属する夢魔サッキュバスの直属の先輩に当たる溝畑エレナに誘拐されたのだという。

 だが溝畑自身はとても優しく、軟禁はされているものの、それ以外は何不自由なく衣食住を提供されていたようだ。


 「それに見てくださいよ、この衣装! 可愛くないですか?」

 藤崎は目を潤ませながら訴えてくる。その手の服はSanctuaryサンクチュアリでも見てきた通り、完全に溝畑の趣味なのだろう。まあ、そこは正直どうでも良いのだが、問題は溝畑が同性愛者疑惑があるということだ。一体何のつもりで少女を誘拐して、自分の趣味の服を着せ、側に置いておいたのだろうか? 考えただけでも身体の一部が熱くなる。


 「溝畑に何か酷いことされへんかったんか?」上条は表現をぼかして聞く。

 「酷いことって? あんな綺麗な人が酷いことなんてするわけありません!」

 藤崎は少し怒ったようにそう答えた。心底溝畑に陶酔しているようだ。誘拐がとてつもなく酷いことだということに、全く気付いていない。


 「まあ、無事やったら別にええねんけどな」

 上条が想像していたようなことは起きていないようだ。肩の力を抜きソファーにもたれかかる。するとその時、玄関の方から扉が開く音が聞こえてきた。


 しまった! 部屋のあるじが、帰ってきてしまったか? リビングでゆっくりしている場合ではなかったということに今更ながらに気付く。


 「あれ? 何なの、この靴は?」

 帰って来た人物も異変に気付いたようだ。しかしここはタワーマンションの上層階。逃げ場もないので、大人しくその人物が来るのを待ちうける。 


 花のような甘い香りが漂ってくると共に、近づいてくる足音。そして廊下から出てきたのは、バリバリのハーフ顔。その人物は、夢魔サッキュバス幹部の溝畑エレナだった。


 「お、男っ!?」

 溝畑の瞳孔が猫のそれのように大きく広がる。上条たちがソファーから立ち上がると、溝畑は大きく顔を歪めた。

 「……何で私の家に害虫がいるのかしら?」

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