†chapter18 ワンヒットの法則26
上条、みくる、裕太、朝比奈の4人は、塔のように天高く造られた建造物の前で呆然と立ち尽くしている。その入口の横には『恵比寿コンチネンタルタワー』と書かれた大きなプレートが掲げてある。つまりここが目指していたマンションというわけだ。
「うん。やっぱりこの建物で間違いないわ」
『千里眼』の能力で今一度透視したみくるは、そう断言した。彼女の目には、軟禁されている藤崎梨々香の姿がはっきりと映ったのだろう。
「梨々香ちゃんの他には誰かおるん?」
上条は上層階を見上げた。ここは恐らく溝畑エレナの住居。彼女がまだここに戻ってきていないことを、密かに祈る。
「いや、今は梨々香しかいないみたい」
みくるはそう言ったのだが、上条は少し困ったように腕を組んでみせた。
「ほんなら、今がチャンスなんやけどなぁ」
彼の視線の先にはインターホンを備えたオートロックの機械がある。そこには『touch ID』、『face ID』という表記があり、その下に液晶画面とカメラのようなレンズが備えられている。指紋認証か顔認証で扉を開けられるシステムなのだ。
「かなわんなぁ、鍵穴があれへんタイプや」
上条はそうぼやく。錠前破りは得意技の1つなのだが、さすがに生体認証の鍵が相手では分が悪い。『暴露』の能力を持ってしても、電子機器を暴くのは非常に困難なのだ。
「圭介でも開けられないなら、誰か他の住人が出てくるまで待つしかないわね」
みくるはそう言って、ため息を漏らした。しかし、4人が雁首そろえて入口が開くのを待っていたら、不審者として通報されかねない。
「これ裕太の『幻術』で騙せへんかな?」
上条は考えていた。裕太が『幻術』で溝畑エレナに化ければ、この生体認証も突破できるのではないだろうかと。だが裕太本人は渋い顔で首を傾げる。
「さあ、それはどうだろう? けどもしかしたら、顔認証なら機械を欺けるかもな」
鼻の頭を掻いた裕太は目を閉じると、己の能力で溝畑エレナの姿に形を変えた。
「これでいけるかしら?」
裕太は女性口調で言う。こいつ絶対にこの姿が気にいってるだろ。この瞬間、上条はそう確信した。
顔を近づけた裕太は、モニターの中央に顔が映るように小刻みに調整する。すると数秒の後、ピーという電子音が鳴り「認証しました」という音声が流れた。
それを聞いた4人は歓喜の表情が浮かべたのだが、それも束の間「暗証番号を入力してください」とスピーカーが告げてきた。
「はぁ? 顔認証だけやなしに番号も入力せなあかんのか。どないしよ?」
上条の『暴露』の能力なら、溝畑の使用している暗証番号を探り出すことは不可能ではない。しかし、前述の通り電子機器を暴くには長い時間を要するため、現在の状況では有効的な手段とは言えなかった。
それでも何もしないよりはましだと、上条が『暴露』の能力でオートロックを調べかけたその時、不意にみくるが口を開いた。
「もしかして、3202じゃない?」
「えっ? 何でその数字なん?」
「単純に部屋の番号が3202号室だったから。あの溝畑エレナって女、ちょっとアホっぽいから暗証番号もそのまま使ってそうじゃない?」
みくるは溝畑のことを無駄にディスる。だが、言われてみれば確かに誕生日とかを暗証番号にしてそうな雰囲気は無きにしも非ずだ。
時間をおいても入力が始まらないため、業を煮やしたかのように「暗証番号を入力してください」と機械が再び訴えてくる。上条はそれならと思い、液晶画面を指で触れた。
「3、2、0、2と」
数字を入力して確定を押すと横の自動ドアが音も無く開いた。ビンゴ。部屋番号そのままで当たっていたようだ。
「うおっ、開いた! みくるちゃん、凄いやん!」
驚いている上条を尻目にエントランスになだれ込む3人。いつの間にか元の姿に戻った裕太が、いち早くエレベーターの前に駆けつけ上のボタンを連打している。
「梨々姉、すぐに助けてやるからな!」
裕太の強い決意のような独りごとが、広いエントランスに小さく響いた。




