†chapter18 ワンヒットの法則23
「高さ100メートル以上のところは、まだ『千里眼』で調べてへんってこと?」
上条の問いに、みくるは黙って頷く。この近辺にはいないと思われていた藤崎だったが、そういうことなら渋谷周辺のタワーマンション上層階に軟禁されている可能性が十分にある。
みくるは気持ちを落ち着かせるように深呼吸し、そして瞼を閉じた。『千里眼』の能力を使用し、藤崎の探索を行っているのだ。
やがてエントランスからの人の流れが治まる頃、集中力の切れたみくるが突然その場でへたりこんだ。
「大丈夫か、みくるちゃん?」
そう上条から呼び掛けられると、みくるは虚ろな目を開き小さく肩を震わせた。
「大丈夫、ただの立ち眩みだから。それよりわかったわ、梨々香の居場所。渋谷橋の近くにある恵比寿コンチネンタルタワーの3202号室……。そこで間違いないはず」
先程の四月一日の情報と違い、今度ははっきりと部屋の番号まで割りだしてきた。さすがはみくるちゃんだ。
「渋谷橋やな。すぐに行こう」
上条はみくるに肩を貸し、そこから歩きだした。裕太と朝比奈の2人もそれについてくる。
「お前、本当に藤崎梨々香の居場所を突き止めたのか? どんな能力を使ったんだ?」
背後から四月一日が質問してくるが、今はそれどころではない。言葉を無視して人波を掻きわけていく。
「ちょっと待て。いまいち信用できないけど、僕も一緒に行くぞ」
ゴスロリ衣装の群衆の隙間を縫い、四月一日もまた上条の後を追ってくる。
「わたぬー、一緒に来んならパトカー出してくれや」
「僕に命令するな! タクシーを捕まえればいいだろ。タクシーを!」
四月一日は警察車両に向かう素振りも見せない。恐らく彼もこの場所まで歩いて来たのだろう。
「何やねん。刑事のくせに、ほんま使えへん奴やなぁ」
上条は小走りで駆けながらひっそりと呟く。ここから渋谷橋までは2キロメートル以上ある。四月一日の言う通り、その辺でタクシーを拾って行った方が良さそうだ。
「おい坊主頭! 使えないって、どういうことだ。藤崎梨々香がタワーマンションに居ることを突き止めたのは、この僕の功績だろ!」
四月一日が背中越しに叫んでいるが、面倒なのでこれもとりあえず無視でいいだろう。
路地を抜け道玄坂に出ると、さっそく右手から空車の個人タクシーが走ってきた。すぐに手を上げて車を呼び止める。
「グッドタイミングやで」
停まったタクシーの前の扉を開き、助手席に乗り込む上条。後から後部座席にみくる、裕太、朝比奈の順で乗り込んでくる。
「ごめんやけど、渋谷橋までいって貰えるか?」
上条は聞かれる前に行き先を伝えた。運転手の男性は短く「あいよ」と答える。
近い距離だったためか、運転手の顔に笑みは見られない。だが上条が一言「超特急で頼むで!」と言うと、運転手は急に口元が緩み狂気に満ちた笑みを浮かべた。
「ほう、超特急ねぇ……」
運転手は無駄にエンジンを吹かし、後部座席のドアを閉めるためのレバーを引く。しかしその寸前、四月一日がドアの間に手を挟み込み、それを阻止してきた。
「ちょっと待て! ここはどう考えても僕を乗せるべきだろ!」
ドアを押さえた四月一日がそう主張する。だがタクシーは、ドアが開いたままの状態で少しだけバックした。開いたドアに押され、道路に倒れる四月一日。開いていたドアは、停まった反動でバタンと閉まった。
「ドアの開閉を邪魔されると、イラッとすんだよな」
運転手はさらっとした態度でそう言う。ちょっとした交通事故。まさか倒した男が刑事だとは思っていないのだろう。
「運ちゃん、無茶するなぁ」
上条は窓越しに倒れている四月一日を確認する。何かワーワーと訴えているので、とりあえず大きな怪我はしていないようだ。
「無茶が売りのタクシーだからな。まあ、超特急に乗りたかったんなら、これで正解だよ。あんちゃん」
アクセルを踏んだ運転手は一気にハンドルを右に切った。タクシーは走り出すと同時に後輪を滑らせ、反対車線にUターンする。
絶叫マシーンのような内臓の揺れに、軽く尿意を催してしまう。幸か不幸か、かなりいかれたタクシーに乗ってしまったようだ。
だがすぐに信号があったためタクシーは停止する。運転手の男性は窓を開けると、道路の反対側にいる四月一日に向かって大きく声を掛けた。
「悪いな、このタクシーは5人乗りなんだ!」
どこかで聞いたことがあるような呑気な煽り文句の直後、信号は青になりタクシーは勢いよく前に飛び出した。運転手さん、これ以上わたぬーをいじめないであげて! さすがの上条も四月一日のことが少し気の毒になってきた。
「おのれ、坊主頭! 一度ならず二度までも。僕は今日の恨みを一生忘れないからな! 覚えておけよぉっ!!」
残された四月一日は怒りの感情を爆発させそう叫んだのだが、タクシーで去って行ってしまった上条たちの耳には、当然届いていなかった。




