†chapter18 ワンヒットの法則13
「これは、誤算やったな……」
Club Sanctuaryを前に立ち止まった上条は、しみじみとした口調でそう漏らした。この時点で上条とみくるの2人は、この近辺を2周ほど歩きまわっていた。
「全くの無駄足だったわね。最初から『千里眼』で調べればよかったわ」
当てつけるようにみくるは言ってくる。何故2人がこの周辺を探索していたかというと、隠れて侵入するための裏口を探していたからだ。みくるはまだ未成年なので、さすがに正面から入ることはできないだろう。
「千里眼はごっつ精神力使うから、こっちも気ぃ使ったんやで」
「あのさぁ、能力で疲れなくても、歩き疲れさせたら意味なくない?」
またも正論で返され、ぐうの音も出ない上条。「はぁ……」とやるせなく息をつき、建物の正面に目を向けた。
道路との境界には正門があり、偉そうに腕組みをしたスキンヘッドの大男がそこを警護している。正門のすぐ奥にはClub Sanctuaryの建物があるのだが、先程確認した結果、正面以外はいかがわしい宿泊施設に囲まれてしまっており、裏口に入るにも1度正門を抜ける必要があった。
「正門でIDチェックされるわけじゃないやろし、とりあえず中に入ってみよか」
そして素知らぬ顔で裏口に侵入しよう。そんな考えで正面のゲートを通り過ぎようとする上条。しかしスキンヘッドの大男は、その成り行きを瞬きもせずに凝視している。
「お前確か、上条とかいう奴だな」
突然、スキンヘッドの大男が低い声で言ってくる。肝を潰した上条は、ゆっくりと振り向き大男の顔をまじまじと見つめ、そして人差し指を差し出した。
「あー、どっかで見覚えがある思うたら、お前『HEAVEN』で黒服やってた奴やんけ! HEAVEN潰れたからSanctuaryに再就職したんか?」
渋面の大男は1歩前に出ると、指を差す上条の手を軽く払いのけた。
「横の女は構わないが、お前は入店できない」
「何でやねん! この店は客を差別するんか?」
そう反論すると、大男は正門の内側にあるイーゼル看板を見てみろと指で合図した。そこには「本日、女性限定イベント! GOTHIC & LOLITA NIGHT」というポスターが貼られている。
「女性限定イベント? 嘘やん!?」
上条は何度もポスターを見返す。当然何度も見たところで女性限定が覆るはずもない。
「そうだ。理解したらとっとと家に帰れ」
大男は、犬でも追い払うかのように手を振った。その態度にムッとした上条が大男を睨んだ丁度その時、前を通る道路の先から「おい、坊主頭っ!」という威勢のいい声が聞こえてきた。
言葉に反応し、共に振り返る上条とスキンヘッドの大男。道路の先にいたのは警視庁捜査一課の四月一日だった。
「誰だお前は?」
そう唸る大男を見て、焦る四月一日。上条のことを呼んだつもりが、スキンヘッドの大男まで一緒に網に掛かってしまったようだ。まさかの入れ食い状態。
「何や。わたぬーか……」
渋谷駅近くの高架下で会った時、四月一日は朝比奈雄二郎を捜しているようだった。彼もどうやらSanctuaryに朝比奈がいることを嗅ぎつけたらしい。
「何やとは何だ! それと、わたぬーと呼ぶのはやめろと言ってるだろっ!」
息巻きながら正門の中に入ろうとする四月一日。だがそこはやはり、大男によって遮られてしまう。
「何故通さない。僕はこう見えても二十歳超えているぞ」
四月一日は強く主張するが、大男はまるで聞く耳を持たない。
「わたぬーは警察やで。通した方がええんちゃう」
「警察?」
大男の顔が一瞬強張る。しかしそれよりも、こちらに振り返った四月一日の顔の方がもっと恐ろしい顔をしていた。とっちゃん坊やの未だかつてない怒りの形相。身バレNGだったようだ。
「令状は?」
大男に聞かれると、四月一日はわかりやすくため息をついた。
「そんなものはない。客として来ただけだ」
四月一日はそう言うが、どの道今日は女性限定のイベント。男性は店に入ることできない。
大男に変わり上条がそのことを四月一日に説明したのだが、彼は一歩も引かなかった。
「入らせてもらう!」「いや、入れさせない」という小男と大男の押し問答。四月一日は背伸びをし、大男は腰と首を曲げて言い争いをしていると、急に大男の背筋が真っすぐに伸びた。
「お、おかえりなさいませ」
大男は厳つい見かけに似合いもしない言葉を口にする。
誰が来たのかと思い振り向く上条をみくる。2人の背後にいたのは先程、西野かれんを追いかけていた夢魔幹部の溝畑エレナだった。




