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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter18 ワンヒットの法則
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†chapter18 ワンヒットの法則07

 宣伝用の大型トレーラーがBGMを流しながら公園通りを通り過ぎていく。人気バンド『FAKE LOTUSフェイクロータス』の新作アルバムの宣伝のようだ。アドトラックと呼ばれるこの手の広告宣伝車は、東京都の条例で規制されているはずなのだが、今日も何食わぬ顔で繁華街をぐるぐると周回している。


 「色々とご迷惑掛けてすみませんでした」

 藤崎は改めて頭を下げた。渋谷の駅前で瀬戸口たちと別れた上条は、藤崎を家まで送り届けるため2人で公園通りの坂を上っている。

 「いやいや、別にかめへんよ。それにしても、あれ? 自分、下の名前何てゆうたっけ?」


 「梨々香りりか。藤崎梨々香です」

 「そうや、梨々香ちゃんやったな。けどまさか、梨々香ちゃんもかすみ園に住んどるとは思わんかったわ」

 そう。家を聞いて驚いたのだが、藤崎は過去に佐藤みくるが暮らしていた児童養護施設かすみ園で生活していると言うのだ。世間とは実に狭いものだ。


 「私もびっくりです。上条さんはみくるさんとお知り合いなんですね」

 「せやねん。バイト先が一緒なんや」


 共通の知り合いである佐藤みくるや天野雫の話をしながら、2人はかすみ園に向けて歩いて行く。日曜の渋谷はとても賑やかで多くの人たちとすれ違ったが、幸い伊丹たちと遭遇することはなかった。この街において、夢魔サッキュバスほど面倒なグループはないので、瀬戸口はともかく藤崎の今後のことが心配でならない。


 渋谷の奥に進むにつれ、歩く人の数が明確に少なくなっていく。そしてかすみ園に続く細い路地に入りかかった時、藤崎が小さく「あっ」と声を発した。

 「いけない、門限の時間過ぎちゃってる」

 そう言われ、上条は反射的に腕時計に目をやる。時計の針は5時31分を指していた。


 「そういえばみくるちゃんも門限破って、よくキム子ママに怒られてた言うとったな」

 キム子の恐ろしさを知る上条は、藤崎に対し深く同情した。園の外で伊丹たちから守ってやることはできるが、さすがにあのキム子からは守ってやることはできない。戦闘力が違いすぎる。


 「けど最近、少しくらいなら時間を過ぎても回避できる方法が編み出されたから、それがうまくいけば大丈夫かも」

 藤崎はそう言って、道の先にあるかすみ園の庭を覗き込む。それに合わせて上条も目をやると、小さな庭に1人の子供が立っているのが見えた。見覚えのあるシルエット。


 「裕太!」藤崎が大きく手を上げた。

 「梨々ねえ、何やってんだよ! もう門限過ぎてるからっ!」

 正面から声が返ってくる。やはりあれは知った顔だった。庭の中央で背伸びしながら手を振っている坊ちゃん刈りの男の子。それは『魔術師』という通り名で恐れられていた、くすのき裕太だ。


 「おう、裕太!」

 上条も藤崎を真似て、下の名前で呼んでみる。最初こそ戸惑いの表情を見せた裕太だったが、上条のことを認識するや否や烈火の如く怒りを露わにした。

 「てめー、性懲りもなくまた来やがったのか! 梨々姉に近づくんじゃねぇよ、クソがっ!!」

 相変わらず口が悪い。かすみ園での教育は今のところ大した効果が現れてないようだ。


 「ちょっと待って、裕太。この人は私が今日、危ない思いをしたからここまで送ってくれたのよ」

 藤崎は間に入り、そう諭した。だが、裕太の顔から怒りの表情は消えない。

 「何だよ、危ない思いって?」


 それに対し藤崎は答えない。恐らく同じかすみ園の住人に、迷惑を掛けたくはないという配慮だろう。

 「まあ、いいじゃない。それより、キム子ママはどこにいるの?」

 話をはぐらかされた裕太は釈然としない顔のまま、建物の奥を指差す。

 「ああ。丁度、僕が出したイケメンたちの幻術に惑わされてるところ。今のうちに入れば、門限過ぎたのバレないよ」


 それが先程、藤崎が言っていた門限破りを回避できる方法のようだ。以前ここに来た時は、鬼のような魔物の幻術を出現させてもキム子のげんこつ1つで打ち消されてしまっていたが、中々どうしてキム子のあしらい方を理解してきたようだ。さすがは魔術師。


 「何や、裕太。お前ほんまは優しい奴なんやなぁ。女の子を守るとか偉いやないか」

 上条の言葉を受け裕太は表情を強張らせるが、藤崎に「そうなんですよぉ。裕太は優しくて可愛くて、本当の弟みたいなんです」と更に称賛の言葉を浴びせられ、とうとう頬と耳が赤く染まりだした。


 「梨々姉までやめろよ! 言っとくけど齢だって1つしか変わらないんだからなっ!!」

 裕太は我を忘れてしまったかのように声を上げる。


 魔術師とか言っても、やっぱりまだガキだな。上条がそんな思いで空に向かって1つ息をつくと、今度は建物の中から野太い別の声が響き渡った。

 「あーっ!! また幻術に騙されたっ!! 裕太、テメー出てきやがれっ!!」

 これはキム子の声のようだ。裕太の心が乱れたので、幻術が解けてしまったのだろうか? ともあれ、普段の声より男度が増している。これはかなり危険なシグナル。


 「やばい、キム子にバレた! 梨々姉、早く、早くっ!!」

 裕太は慌てた様子で手招きをする。

 「うん。それじゃあ上条さん、今日は色々ありがとうございました!」

 最後に深く礼を言う藤崎に、上条は軽く手を振り見送った。

 「かめへん、かめへん。梨々香ちゃんも色々気をつけるんやで!」


 藤崎は玄関に入る前にもう1度お辞儀をし、そして建物の中にそそくさと入っていった。

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