†chapter17 幻想のウィザード15
「お前の能力、何かおかしくないか?」
拓人がそう言うと、魔術師の目の色が変わった。
「おかしい? 僕の能力がおかしいんじゃない。お前らの能力がしょぼ過ぎなんだ!」
魔術師の身体の周りが白い気体で覆われ、辺りに冷めたい空気が広がる。氷の魔法を使うつもりだ。
「闇凍え!」
拓人が身構える間もなく、魔術師は手のひらから冷気を放った。その霧状の白い帯は、目の前にいる拓人の真横を通り過ぎていく。
頬に引きつるような寒さを感じた後、拓人はハッとして振り返った。一瞬氷の魔法の直撃を避けられたと思ったのだが、魔術師の狙いは始めから拓人ではなかったのだ。
「冗談だろ……?」
拓人の視線の先には、氷の塊に閉じ込められた雫の姿があった。
クリオキネシスの能力を持つ竹村琴音は氷の中でも仮死状態で生き延びることができたが、その能力を持たない者が氷の中に閉じ込められればどうなってしまうのだろう……?
微かに震える拓人を無視して、魔術師は次々と冷気を放ってきた。何本もの白い帯が放射状に広がると、背後にいるマッドクルーのメンバーを全員氷漬けにしてしまった。
「氷中花……」
魔術師は呟くと、震える拓人を睨みつけた。この囲われた舞台で身動きが取れるのは、もはや魔術師と拓人しかいなかった。
「何の力も持たない普通の人間が亜種に喧嘩売ってくるとか、怒りを通り越して失望すら覚えちゃうよ。お兄さんもそう思わない?」
そう聞かれたが、拓人は押し黙り視線を返した。拓人も亜種なのだが、彼は亜種の持つ選民意識が大嫌いなのだ。
「まあ、君に僕の思想を理解して欲しいわけじゃないからいいんだけどね」
魔術師が腕を天に掲げると、頭上に直径5メートルはあろうかという黒い炎が出現した。その炎は不死鳥を思わせる巨大な鳥のような姿に徐々に形を変えていく。あれはさすがに避け切れないか?
自分の力ではどうすることもできないと判断した拓人は、疾風の力で一度このアスファルトの囲いの中から脱出しようと試みた。拓人の足元に旋風が吹く。
しかし丁度その時、突然聞き覚えのある関西弁が右の鼓膜を揺らした。
「おーい、拓人。天下の往来で何しとんねん?」
ギョッとして振り返る拓人。するとそこには、傘を差している上条圭介が立っていた。
「圭介くん、どうやってここに入って……」
そこまで言って拓人は気付いた。周りを囲っていたアスファルトの壁が綺麗さっぱり無くなってしまっていることに。
上条は面倒くさそうな顔を浮かべ、坊主頭をぽりぽりと掻いている。
「そのガキは何や?」
「馬鹿っ! そいつが魔術師だよ!」
拓人がそう警告すると同時に、痺れを切らした魔術師が声を挟んできた。
「どうやってここに入って来たんだお前はっ!」
そう言われた上条は、魔術師とその頭上にある鳥を象った炎に何度か目をやり、深く嘆息をついた。
「……成程な。話のオチが見えてきたで」
巨大な炎にも怯まない上条を見て、魔術師は怒りの咆哮を上げた。
「お前から死ね! 獄炎の翼っ!!」
鳥型の炎が羽を揺らしながら上条に向かって突っ込んでいく。しかし上条は落ち着いた様子で左手を前にさす出した。そして手のひらに炎がぶつかった瞬間、まるで霧が晴れるかのように鳥型の炎はその場から消えてなくなってしまった。
自慢の能力を簡単に防がれ、魔術師はわなわなと震えている。拓人も何が起こっているのかわからず、そこから動けずにいる。一体、上条はどんな手品を使っているのだ?
「ぼ、僕は選ばれた人間だ。お前ら街のチンピラなんかに負けるはずがないっ!!」
続けて魔術師の身体の周りに白い冷気が渦巻いた。雫やマッドクルーの連中を氷漬けにした技を放つつもりだ。
「やばい! 圭介くん、氷漬けにされるぞ! 逃げろっ!!」
しかし拓人のそんな言葉も空しく、上条は一瞬にして氷の塊に閉じ込められてしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ、馬鹿め。冷たい氷の中で反省しろ!」魔術師は余裕のない顔で嘲笑う。
「馬鹿はお前やろ。こんな子供騙し通用する思うなよ」
上条を覆う氷の中からそう声が発せられると、その氷はパーンという音を立てて破片も残らぬほど粉々に砕け散った。中から仁王立ちの上条が現れる。
「な、何なんだよお前は!?」
魔術師と拓人の声がハモった。今戦っている敵とも思わず心をシンクロさせてしまう。そんな無茶苦茶さが、上条の凄いところだ。
上条は道路に転がる大きな氷の塊に手を触れていく。すると氷は次々に砕け、中から夢でも覚めたかのような表情の雫とマッドクルーの連中が姿を現した。
「残念やな。ほんまに魔法使いやったら俺らの仲間にしたかったんやけどなぁ」
どうやら上条は、『暴露』の能力で何かを掴んだようだ。
「どういうことだよ?」
未だ理解できない拓人は、上条にその答えを求める。
「このガキは魔術師でも何でもない、ただの『幻術』使いやで」
「げ、幻術……?」
拓人は上条の言葉を反芻した。つまり上条の言うことが正しいのなら、今まで見てきた炎や氷の魔法は全て幻に過ぎなかったというのだ。




