†chapter17 幻想のウィザード12
拓人は身振り手振りを交えて説明している。
「デパートの屋上から落ちたところにたまたまマッドクルーの奴がいて、ぶつかった挙句妙な因縁つけられ、最終的にはちぇけらっちょされるという、まあ最悪な展開だったわけよ」
ここはドーナツプラネット渋谷店の店内。一通り先日の出来事を説明した拓人は、そのテーブルの上にがっくりとうな垂れた。目の前に座る天野雫は我関せずといった感じで、小動物が食事するようにドーナツを両手で持ち大きく頬張っている。
「雫、俺の話聞いてる?」
そう聞くと、雫は咀嚼を早めドーナツを飲みこんだ。
「ちぇけらっちょされたって、どういうこと?」
ちぇけらっちょの部分は流してくれてよかったのだが、雫はそこを追求してくる。マッドクルーにボコられたことを言葉のあやでそう言ったのだが、確かに意味のわからない言葉だ。拓人は頬にできた痣に手を触れ、苦笑いを浮かべた。
「マッドクルーのメンバーに殴られたの?」
「まあ、それは良いんだ。こっちにも非があったし」
けじめをつけるために自ら殴られた。とりあえずそういうことにしておこう。高い所からから落ちたせいで腰を抜かしていて、反撃も逃走することもできなかったとは恥ずかしくて言えやしない。
「ふーん。けど、キョージンにやられた上条さんは大丈夫だったの?」
雫はそう聞くと、カフェオレのカップに口をつけた。一応聞いてはいるのだが、雫が上条のことを本気で心配してるのかどうかは定かではない。
「圭介くん、キョージンにテンナイ、ハシルナって怒られて1発小突かれたけど、運良くそれだけで済んだって言ってたよ」
拓人は上条から聞いたキョージンの喋り方をものまねして言ってみた。正直キョージンの声など聞いたことないから、本当にこんな原始人みたいな喋り方をしていたのかは定かではない。さすがにこれは上条の創作だろう。
「そうなんだ。よかったね」
無感情にそう言うと、雫は再びドーナツを口にした。ただキョージンの場合、その1発が致命傷になり兼ねないから安心はできないだろう。
「しかし問題は魔術師の奴だ……」
拓人はダッフルコートを着た魔術師の姿を思い出す。恐ろしい相手だが、貞清に自分たちが捕まえると言ってしまった手前、放置しておくわけにもいかない。「第一、負けっぱなしやったらプライドが許さへんやろ」というのは、上条の言い分だ。まあ、雫に泣きついている時点でプライドも糞もないのだが。
「魔法ってそんなに厄介なの? 魔術師って子供なんでしょ?」
そう聞かれると、拓人は難しい顔をしてまた頬の痣に触れた。確かに雫の言う通り魔術師はまだ子供なのだが、持っている能力が強力過ぎるのだ。そして幼さが故の危うさのようなものも兼ね備えていて、対峙するとむき出しの刃を持った相手と喧嘩しているような感覚に陥ってしまうのである。
「魔術師の使う魔法は、なぜか他の亜種の能力の影響を受けないみたいなんだ」
彼の生み出す黒い炎は疾風の能力で跳ね返すことも、B-SIDE三浦の障壁の能力で防ぐこともできなかった。全くもって意味不明な能力だ。
しかしそれを聞いている雫は、懐疑的な様子で眉を寄せている。確かに魔術師の能力は常識から逸脱しているのは間違いなかった。拓人もそれを目の当たりにしていなかったら、信じてはいないだろう。
「信じられない?」
そう聞くと、雫は首を横に振った。
「ううん。ただ、うまく『同調』の能力でコピーできるかなぁって思っただけ」
いくら雫でも初めて同調する能力は、使いこなすまで時間がかかる。それは拓人の疾風の能力を初めてコピーした時もそうだった。
だが魔術師を倒すには雫の力を借りるしかない。
拓人が祈るような気持ちで雫のしっとりとした前髪を見つめていると、突然テーブルの下から鳥のさえずりが聞こえてきた。これは拓人のスマートフォンのメール着信音だ。1つ咳払いをして、拓人はズボンのポケットからごそごそとスマートフォンを取りだした。
「おお、グッドタイミング! みくるから魔術師の位置情報がきた」拓人はスマートフォンの画面を雫に見せる。
「佐藤さん、千里眼で捜してくれてたの?」
「うん」
まさにその通りだった。四六時中渋谷を監視しているわけではないと思うが、圭介くんに言われて渋々捜索してくれていたのだ。
雫は目の前に出されたスマートフォンの画面を目を細めて見つめる。
「行くの?」
「勿論。雫も魔術師の討伐、手伝ってくれる?」
そう聞くと、雫は珍しく笑みを浮かべカフェオレを飲み干した。
「興味あるわ」
拓人も笑みを返し、椅子から立ち上がった。
「行こう。あのクソガキにリベンジだ!」
拓人はマグカップと皿の乗ったトレイを下げ台に片づけ店の外に出ると、雫の手を握り猛スピードで公園通りを駆け下りて行った。




