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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter17 幻想のウィザード
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†chapter17 幻想のウィザード05

 「遅刻の理由が、ビルの屋上から下りられなかったって何なの? あんた、馬鹿でしょ」

 井の頭通りを歩く佐藤みくるは、呆れたようにそう言い放ちシュークリームを頬張った。クリスピーな生地の中に、濃厚なキャラメルソースと甘さ控えめなカスタードクリームがたっぷりと入った、今渋谷で1番人気のあるシュークリームだ。


 「馬鹿じゃねえっつうの。本当に下りられなかったんだから仕方ないだろ」

 朝から降っていた雨はもう止んだのだが、怒られているため気分は晴れない。何故怒られているかと言えば、待ち合わせの時間に遅れてしまったのが原因だ。まあ、みくるは四六時中怒っているので、いつも通りと言ってしまえばそれまでなのだが。


 ちなみに何故遅刻してしまったのかというと、事の顛末はこうだ。


 1時間程前、ハチ公前広場でB-SIDEビーサイドメンバーに囲まれてしまった拓人は、地下鉄入口の屋根の上に潜伏しながら脱出の時を窺っていた。

 どうやって逃げようか考えていた丁度その時、突然地下へ続く階段から妙な能力を使う子供が現れた。それは以前雫が言っていた、『魔術師』と呼ばれる少年だった。

 

 話に聞いていた魔術師が目の前に現れ、思わず立ち上がってしまった拓人は川久保兄弟に見つかってしまうという失態を犯してしまう。

 ゾンビ映画さながらに、わらわらと屋根の上を登ろうとするB-SIDEメンバー。焦った拓人は疾風の能力を使い、駅舎の上部に向かって飛び上がり、そこから更に屋根を蹴り隣接する東急百貨店の屋上へと着地した。

 下にいるB-SIDEメンバーは、建物を越え反対側の駅西口方面に逃げたと思ったようで、そちらに向かって走って行った。

 

 ここまでは良かった。何故なら拓人は駅西口方面には行かず、東急百貨店屋上に留まっていたからだ。だがB-SIDEメンバーの裏をかいたわけではない。勢い余ってこんなところまで飛び上がってしまったのだが、拓人は高所恐怖症だったためそこから飛び降りることができないというだけのことだった。

 仕方なく階段から降りようと階段室に行ったのだが、その扉には内側から施錠されており押しても引いても開くことはなかった。


 困った拓人は泣く泣く上条に電話で連絡して助けてもらい、現在に至るのである。


 「だから俺が言うたやろ。みくるちゃんは時間にめちゃめちゃ厳しいねん」

 歩道を歩く拓人の斜め後ろから、上条が小声で言ってきた。恐らく怒って待っているであろうみくるのために、お土産を買っていこうと提案したのはこの男だ。ただ、そのお土産の効果は今のところゼロに等しい。


 「だいたい、下りられないところに、何で上るのよ? 上れるくせに、何で下りられないのよ!? いい、あたしはあんたのせいで、1時間近く待ちぼうけ喰らったんだからねっ!」

 みくるは大きな口を開けシュークリームにかぶりつく。生地から溢れたクリームが頬についたがお構いなしだ。カスタードクリームの中のバニラの甘い香りが、ふわりと広がってきた。


 それにしても、絶対に30分くらいしか遅れてないはずなのだが、みくるは1時間待ったと頑なに言い張ってくる。立場的にこちらの方が弱いので、今は大人しくそれを受け入れるしかない。不条理に屈するのが大人だと言うのなら、俺もいつの間にか成長を遂げたのかもしれない。


 「まあ、まあ、そう怒らんでもええやん。拓人と煙は高いところが好きやからしゃあない」

 上条はそうフォローしてくれたが、よくよく考えると盛大にディスられていることに気付いた。

 「だから、馬鹿じゃねえっつってんだろっ!」


 みくるに怒れない代わりに、拓人は上条に対し怒りをぶつけた。だが、奴はつっこまれることが嬉しいらしく大きく口を広げると、声を裏返らせて笑っている。この文化の差が本当に腹立たしい。


 「圭介、何笑ってんのよ! だいたいあんたがしっかり教育してないから、こういうことになるんでしょ!」

 怒りの矛先を変えたみくるは、最後の1口を頬張り、手に付いた粉糖を叩き落とした。


 「みくるちゃんが怒るんもしゃあないけど、もうええやんか。そんなことより、1つ聞きたいことがあんねんけど」

 上条が言うと、みくるは頬についたカスタードクリームを指で拭き取り、そのまま口の中に入れた。

 「何よ?」


 「みくるちゃん、最近警察のお世話になるようなことしてへんよね」

 上条は優しい口調でそう言ったのだが、みくるは極めて不機嫌な様子で踵を返した。何故彼がそんなことを言ったのかというと、拓人が上条に相談をしていたからだ。ハチ公前広場で貞清は、琉王の妹と会うのであれば宇田川交番まで来てほしいと言っていた。相談はそのことに関してだ。


 「どういう意味?」

 みくるの表情が怒りを通り越して笑顔になる。これは絶望の時間の始まりだ。

 「ちゃ、ちゃうねん。さっき拓人が……、うっ!!」

 そう話す途中で、上条はみくるに足を踏みつけられた。踵のとても硬そうなウエスタンブーツ。上条は声にならない声を上げ地面に跪いた。


 「……拓人が何だって?」

 みくるはホラー映画さながらに、ゆらりと振り返る。色違いの瞳が違和感となり、拓人に更なる恐怖を与えた。


 「いや、あれだよ。貞清さんが……」「佐清すけきよみたいにしてあげるわっ!」

 額に走る衝撃と共に、梵鐘ぼんしょうの様な音が耳元に鳴り響いた。一瞬の出来事でよくわからなかったが、みくるに頭突きを喰らわせられたようだ。目眩がして後ろにひっくり返る。女って、超怖い。

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