†chapter17 幻想のウィザード02
ハチ公前に停まっていた宣伝用のワゴン車は、片づけを終えると桜丘町方面に走り去った。だがそこに集まる若者たちは、未だ興奮したように先程の演説について自分なりの考えを語り合っている。
「それでは私の役目は終わりましたで、この辺で失礼しますよ」
貞清は手のひらを広げ雨量を調べる。先程より少し弱まったが、相変わらず纏わりつくような雨が降り続いていた。
スクランブル交差点に向けて歩き出そうとした貞清だったが、不意に何かを思い出したかのように足を止めた。
「そう言えば今日は琉王くんの妹さんとはお会いになりますか?」
拓人は頷く。今日は上条圭介と佐藤みくるの2人と合う約束があるのだ。
「会うよ」
「でしたら、今日もし時間があったら宇田川交番まで来てください」
貞清はそれだけ言って会釈すると、返事も聞かずにそこから去って行ってしまった。
拓人は傘を差しながら貞清の後ろ姿を見送る。交番に来てくれとはどういうことだろう? みくるの奴、何か悪さでもしたのか? 不安な気持ちを頭の中で巡らせていると、ハチ公像の方から白のスウェットと黒のスウェットを着た2人組がこちらに向かってくるのが見えた。
「やっほー。ねーねー、君はB-SIDEのメンバーじゃないの?」
その2人組は雨だというのにやたらと陽気な感じで話しかけてくる。ブルーのカラーバンドが左手首に見えたので、B-SIDEのメンバーであることは理解できた。
「違うよ」
一言そう交わしたのだが、2人は10年来の友達のように親しげに手を握ってきた。
「まー、言ってもチームなんて関係ないよ」白いスウェットの男が右の肩を組んでくる。
「そうそうそう。君も勿論、日本平等党の物部雲海に投票するんでしょ?」
そして黒いスウェットの男は反対側に周り、左の肩を組んできた。何だかうっとおしい展開になってきてしまった。寄り添う3人の男達の傘がぶつかり合い、水滴がだらだらと地面に垂れた。
このスウェットの2人組、アウトローのくせに目がキラッキラッに輝いている。先程の演説ですっかり物部雲海のことを心酔してしまっているようだ。
「俺、選挙とか行かねえよ。まだ未成年だから」
そう言うと、2人は至極残念そうに「あー」口を開いた。
「けど成人の知り合いがいるなら、物部雲海に1票入れるように言ってくれよな。頼むぞ!」
「ああ、そう言っとくよ」
少し面倒だったので適当に話を合わせた。この2人は一体どういう立ち位置でそんなことを言ってくるのだろう? すっかり選挙運動員気どりだ。
このうざい2人組から何とかして逃れたかったのだが、双方から肩を組まれてる上に、気を良くした2人は更に何かを歌いだしてしまった。選挙とは全く関係ない、最近のヒットソングだ。
「灰色ぉのぉ街を背ぇにぃー 僕らはー ダイブすーるぅぅぅ……、うおおおぉぉっ!!」
スウェットの2人は歌の途中急に叫び声を上げると、持っていた傘を落としゆっくりと膝が崩れた。2人とも股の間を押さえている。背後から股間を蹴りあげられたようだ。
後ろから蹴ったであろう人物が正面に回り込んできた。黒地に銀色の刺繍が入ったジャージに、大量のピアスが目立つ男が2人。知った顔だ。B-SIDEの武闘派、川久保兄弟である。
「たっ、鷹志さん! 何すか、急に!?」黒スウェットの男は、痛みに耐えながら声を絞り出す。
「敵と慣れ合ってんじゃねぇ。こいつは『スターダスト』のメンバーだぞ」
右耳にピアスをつけた川久保兄の鷹志は、そう言うと眉根を寄せ斜めから睨んできた。拓人も負けずと睨み返す。川久保兄弟には一度不意打ちを喰らって負けたことはあるが、まともにやりあえば負ける相手ではないはず。
「スターダストッ!?」
白スウェットの男が声を上げると、周りにいる大勢の若者たちが一斉に反応した。どうやらここいらに集まっていたのは、そのほとんどがB-SIDEメンバーだったようだ。ここは彼らの縄張りなのだから、考えれば当然のことだ。
「よう、川久保兄弟。今日は鴉のねーちゃんのおもりしなくていいのか?」
拓人の言う鴉のねーちゃんとは『鳥狩』の能力を持つ女幹部、西野かれんのことだ。
「おい、風使い。言葉には気をつけろ。お嬢に喧嘩を売られたんじゃ、俺らは手加減出来ねぇぞ」
左耳にピアスをつけた川久保弟の隼斗が、指の関節を鳴らしながらそう言ってくる。不意打ちにしろ1度負けたのがよくなかったようだ。完全に舐められている。
「フンッ! 上等だよ。本気で来たらいいさ」
拓人はじっくりと周りを見渡した。ハチ公前広場にいるB-SIDEメンバーと思わしき人間は、ざっと見て30人程。全員の相手をするのはさすがに厄介だが、どうしたものか……?
足元に渦巻くつむじ風の影響で、拓人の差しているビニール傘が大きく揺れだした。




