†chapter16 綺羅星の街06
「VOLTもいいけど、私たちが狙うのはこの人たちでしょ」
雫は諭すように言うと、手に持った手配ポスターの束をカウンターの上に並べた。上条と拓人は、それにゆっくりと目を通す。
「ほう、B-SIDEは『帝王』鳴瀬光国に『闘牛』辻堂辰也、スコーピオンは『魔弾』梶ヶ谷鉄二に『怒髪天』東正親か」
B-SIDEとスコーピオンはそれぞれ2人づつ賞金首がいる。いずれも危険度の高い連中だ。
「この瑠撞腑唖々の『獄卒』氏家時生と、闘神の『神風』相楽清春ってのは、不破と戦った時にいた奴らだな?」
拓人が下になっていた手配ポスターから、その2人を見つける。
「そうや。知ってるだろうけど、そいつらも強いぞ。後は夢魔の『女郎蜂』松岡千尋と、ボーテックスの『月狂』乾信悟、それにさっきの八神透を合わせて全部で9人。これが今のところ渋谷区で賞金首になってる奴らやな」
上条がそう言ったところで、みくるが新しい飲み物を持ってきた。上条と拓人の前に烏龍茶を置き、雫の前にはグレープフルーツジュースを置いた。
「そのレベルに手を出すのはまだ早いんじゃないの?」
「いや、そうでもないでみくるちゃん。俺は拓人の強さなら、この連中と十分やり合えると思っとる」
上条はそう言うが、拓人は烏龍茶を口にしつつ苦笑いを浮かべた。
「この中で1番強いのは、やっぱりB-SIDEの鳴瀬なのか?」
「勿論そうや。けどこの面子やったら、それほど強さに差異はないかもしれへん。唯一、夢魔の松岡だけは戦闘系の能力やないから、1番弱いんちゃうかな? まあ、あそこはガールズモッブやから、あんまり手出しはしたくないんやけどな」
「女は厄介ってわけか……」
拓人がそう呟くと、雫は飲んでいたグレープフルーツジュースのストローから口を離した。
「夢魔はそもそも喧嘩とかするような組織じゃないけど、一応戦争に備えて用心棒を雇ったみたい」
「用心棒? どんな奴?」
「『鼎武人』って知ってる?」雫は上条と拓人の顔を窺う。
鼎武人。それは京劇の仮面を被った恐ろしく強い3人組の武人で、上条は以前魔窟大楼でその内の1人と戦闘になったのだが、その時はまるで手も足も出ず一方的にやられるだけであった。
「鼎武人って、あの仮面の奴らか。それこそ厄介やな……」
上条は天井を仰いだ。薄暗い店内にオレンジ色の照明が浮かんでいる。
「うん。けど鼎武人はどうでもいいとして、もう1人、強い用心棒を雇ってるって話を聞いたわ」
上条が手も足も出なかった鼎武人を雫はどうでもいいと言い切る。そのもう1人の用心棒とはそれほどに強いのだろうか?
「あの3人組以上に恐ろしい奴がおるんか!? どんな奴や?」
「確か『吉祥天女』と呼ばれてる人」
「吉祥天女?」
その通り名はどこかで聞き覚えがあるような気もするが、残念ながら今は思い出すことができない。
「若い女性みたいだけど凄腕の用心棒みたい。ただ松岡さんのことだがら、わざと大袈裟な情報を流して敵を牽制してる可能性もあるけど」
「雫ちゃんは、夢魔の松岡のこと詳しく知っとるんか?」
上条が聞くが、雫は首を横に振る。
「いえ。けど、渋谷にいれば彼女の悪い噂なんていくらでも聞こえてくるから」
「確かに……」
松岡千尋と言えば政治家や暴力団にもパイプを持ち、この街の裏社会に多大な影響を及ぼす女性フィクサーだ。100人程の会員の頂点に立ち、ビジネスとしてガールズモッブを運営しているのだという。
「悪い噂って何だ? なんちゃら詐欺でもしてんのか?」拓人はグラスに付着した水滴を指でなぞりながら聞いてくる。
「詐欺かぁ。結婚詐欺とはちゃうけど、富裕層相手にサクラだらけの婚活パーティーはしょっちゅう開いてるらしいで。松岡がやってるんは、ようはグレーゾーンビジネスやな」
「グレーゾーン?」
「せや。実際は真っ黒やけどな」上条は1つ溜息をつく。
「婚活パーティーもそうだけど、夢魔の1番の収入源は場所代。渋谷で女性を相手にする商売がしたかったら、彼女に協力費という名目のみかじめ料を払う必要があるのよ。それを拒否すれば、彼女たちが利用するクラブやSNSでその店に対するネガティブキャンペーンを流されて、あっという間に廃業しちゃうだって」
みくるはグラスを洗いながら物憂げにそう語る。まさにヤクザの真似ごとといったところだ。
「いけ好かない連中だな。ストリートギャングを商売にしてるのが気にいらねぇ!」
静かにグラスをいじっていた拓人が、怒りに身を任せ勢いよく立ち上がった。
「落ち着けや。でかいチームならどこでもやってることなんやで。拓人も知っとるやろうけど、スコーピオンは脱法ドラッグを資金源にしとるし、B-SIDEも宇田川町と道玄坂の飲食店やらパチンコ屋からみかじめ料を取っとるからな。この店かて例外やないで」
「マジかよ!? そんなことされて圭介くんは腹立たないのかよっ!」
拓人に上から圧倒され、上条は思わずたじろいだ。
「腹立ててもしゃーないやん。言うても俺が払っとるわけやないしな」
「何言ってんだよ、絶対だめっ!! ズルして儲けた金で旨いもん食うとか許せないだろ。その3つのチームは真っ先に潰してやろうぜ!」
拓人は拳を握り固く決意する。まあ、犯罪が許せないというよりかは、単なる貧乏人の僻みっぽい気がする。
「まあ、物事には順序ってもんがあるやろ。スコーピオンや夢魔はともかく、B-SIDEはメインディッシュにしようや。旨いもんは最後に残しといた方がええやろ?」
上条はいきり立った拓人の背中を撫でながら、己の気持ちも落ち着かせていた。B-SIDEを真っ先に潰したい気持ちは、上条も同じなのだ。




