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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter16 綺羅星の街
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†chapter16 綺羅星の街02

 「はぁ、ここまで来れば平気やろ」

 道玄坂を下って来た上条と拓人の2人は、路地に身を隠すと来た道を覗き見た。とりあえず追ってくる者はいないようだ。


 「拓人、何か飲むか?」

 上条は横にあった落書きだらけの自動販売機でホットの缶コーヒーを購入した。缶だけがやたら熱くて、甘ったるいいい加減なコーヒーだ。

 「じゃあ、レッドブル」


 「何で一番高いやつ選ぶねん。拓人もコーヒーでええやろ」

 上条は拓人の選択を無視して、同じ缶コーヒーのボタンを押した。ガタガタという音と共に、ショートサイズの缶が取り出し口に落ちてきた。香り立つ厳選豆、こだわりのバリスタブレンド。くどいネーミング。


 「あー、何でコーヒー押しちゃうんだよ。せめてオロCにしろよな」

 拓人は缶コーヒーを手に取るなり不満を口にする。折角の好意が無駄になったようだ。

 「そんなん言うたって、オロCないやんけ。奢りなんやし、文句言わんとコーヒー飲んだらええやんか」


 「缶コーヒーなんて大して旨くないだろ。何が悲しくてこんなもん飲まなきゃいけないのか……」

 拓人はプルトップを開け1口飲み込む。やっぱりまずい。そんなことを言いたげな表情だ。

 「アホやなぁ。そら淹れたてのドリップコーヒーと比べたら味は落ちるかもしれへんけど、缶コーヒーには缶コーヒーの良さがあるやろ」

 「例えば?」

 そう聞かれ上条は答えに詰まる。手軽に買えると言おうと思ったのだが、コンビニのコーヒーも手軽に買えるし缶コーヒーより遥かにおいしいということに気付いたからだ。ただ上条は、この缶に入ったチープな味のコーヒーが大好きなのだ。


 「缶コーヒー持ってると、手があったまるやろ?」

 「何だよそのしょうもない理由。だいたいまだそんなに寒くないだろ」

 その意見はもっともだった。今はまだ11月の上旬。寒くなるのはこれからの話だ。


 上条は缶コーヒーを口に含み、そして飲みこむ。缶は異様に熱いけど、やっぱり旨い。ほっと一息ついているその横で、拓人は缶コーヒーを一息で飲み干し空き缶をダストボックスの中につっこんだ。

 「そんなことより、とっとと『スモーキー』に行こうぜ」


 拓人の言うスモーキーとは上条と、佐藤みくるがアルバイトで働いているカフェバーのことだ。今日は午後4時からそこで、『スターダスト』のミーティングをやる予定なのだ。

 腕時計に目を向ける。時刻はまだ午後3時を少し過ぎたばかりだった。

 「また絡まれても面倒やし、ちょっと早いけど行くとするか」

 上条は缶コーヒーを一口飲みこむと、井の頭通りに向かって歩き出した。


 「そういえば、さっきの蛭川ひるかわいう奴は何者や?」

 「ああ、あれか? あいつは他人を頭痛にさせる能力を持ってんだよ。だけど能力の副作用で自分も常に片頭痛を患ってるんだとさ」拓人は答える。

 「ふーん、それであいつ急に吐き出したんか。難儀なやっちゃな」

 先程の痛みを思い出し額を撫でる。わずらわしい能力ではあるが、付けいる隙はどんなところにもあるのかもしれない。


 「貞清さんが能力のせいで目ぇが見えへんようになったみたいに、強力な能力を持つ者は必ずそれなりのリスクってもんがあるやなぁ」

 「私がどうかしましたか?」

 突然背後から声を掛けられ、上条は思わず缶コーヒーを零しそうになった。

 「うわっ、びっくりしたっ!!」

 振り返ると、そこにいたのは警視庁捜査一課の刑事、貞清誠司だった。


 「ああ、貞清さんやんか。パトロール中ですかぁ?」

 「道玄坂で若者たちが喧嘩しているという通報が入ったので、ちょっと冷やかしに行ってきただけです」貞清は言う。

 巡査が亡くなった後、渋谷地区を管轄する警官の後任が決まらなかったため、現在貞清が仮にこの地区の担当を引きうけているのだ。白髪にサングラスという風貌のため、真新しネイビーブルーの警察服が悲しいほどに似合っていない。


 「喧嘩はもう終わってたんちゃう?」

 「そうです。よくわかりましたね。もしかして喧嘩していたっていうのは上条くんたちですか?」貞清はサングラス越しに見えない目で威圧してくる。

 「いやいや、まさか。俺らは善良な一般市民やで。さっき拓人と一緒にコーヒー飲んでたら、道玄坂の上からB-SIDEビーサイドとスコーピオンの連中が駅の方に走って行くのを見たんや。なあ、拓人?」

 話を振ると、拓人は挙動不審気味に相槌を返す。「お、おう」


 「それならいいんですけどねぇ。不破征四郎が引退してからこの街のストリートギャングたちは一触即発状態のようですが、せめててい巡査の後任が決まるまでは面倒事は起こさないようにしてくださいよ」

 貞清の手のひらの上でバチバチと火花が散る。彼の持つ『ライトニング』の能力は、触れるだけで人の命をも奪うことができるのだ。これ以上ない脅し文句。手のひらがしっとりと汗で滲む。


 「君たちのことは琉王るおう氏によろしく頼むと言われておりますのでね。我々の厄介になるようなことは避けてください」貞清はそう言って踵を返した。

 「えっ、琉王さんに? ホンマか?」


 上条が聞くと貞清は振り返りもせず小さく頷き、そして宇田川交番の方角に去って行った。

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