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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter15 華の咲く場所
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†chapter15 華の咲く場所02

 「何の騒ぎだ?」

 大きな声に反応した拓人は、いぶかしげな顔を作りエレベーターから歩みでる。近くに人を捜してみるが、左手に伸びる廊下にも、右手にあるナースステーションにも人の姿は見られなかった。


 誰もいないか……? そう思った丁度その時、左手から入院患者と思われる腰の曲がった年輩の女性がたどたどしい様子で走ってきた。

 「おばちゃん、何かあったんか?」

 上条が聞くと、その老年女性は言葉を失っているのか魚のように口をパクパクとさせ後方を一生懸命指差した。それはシャワー室のある方角だ。


 「あかん。シャワー室の方で何かあったみたいや」

 「マジか……?」

 何かがぶつかるような音と共に、女性の悲鳴が耳の奥に飛び込んでくる。気付くと2人は廊下を左の方角に走り出していた。


 急ぎ足で廊下の角を曲がっていく。何故なのか拓人は頬に冷やりとした感触を感じた。病院内であるのにも関わらずこの寒さは何だろう? これはもしや、琴音の持つ『クリオキネシス』の能力では?


 進むにつれ寒さは徐々に強まり、壁に並ぶ窓ガラスは白く凍りついていた。悪い予感を感じつつ廊下を走っていくと、曲がり角の手前で震えている女性を発見した。琴音の母、竹村亜樹だ。


 「何があったんですか、竹村さん!」

 拓人が呼びかけると、壁にもたれていた竹村は身体を震わせひざまずいた。彼女を支え「大丈夫か?」と尋ねたのだが、竹村は「琴音が、琴音が……」と言うばかりで肝心の事は何もわからなかった。


 「とりあえずここから動かないでくださいね」

 竹村をその場に座らせ、拓人と上条はそのまま廊下を先に進んだ。角を曲がるとその奥に、病院食を運ぶ大きな配膳ワゴンが放置されいる。シャワー室はその向こうだと思い出しつつ端に移動すると、その隙間から覗く廊下の向こう側にドット柄のワンピースを着た幼女が怪しく立っているのが確認できた。禍々まがまがしい気を放っているが、それは正しく竹村琴音であった。


 「こ、琴音ちゃん、氷解けたのか?」

 足を止めた拓人は恐る恐るそう尋ねたが、琴音はそれに対し冷たい微笑を返した。茶色と黒のオッドアイが不気味に光りだす。

 「あなたたちも氷の中で眠りなさい……」

 冷たい白い息が、琴音の口から広がっていく。


 「あかん! 拓人っ!!」

 近づこうと足を1歩前に踏み出したところで、上条に首根っこを掴まれた。つららの様に尖った氷の矢が、目の前を通り過ぎ背後の壁に激突した。コンクリートの壁が僅かに崩れる。


 2人は背丈ほどあるワゴンの陰に身を隠し、事なきを得ていた。

 「何なんだこれは!?」

 「どうも琴音ちゃんのクリオキネシスみたいやな」

 上条は隠れながらもそっと廊下の向こうを覗き見る。瞬間、冷気の風が一気に廊下を駆け抜け、上条は驚いた顔のままこちらに振り返った。すごい表情。お尻から血が出てきてしまった時のような表情だ。


 「か、顔が凍った!」

 上条は手で顔を何度もこすりつけた。摩擦の熱で暖めているようだ。


 「何されたんだよ!?」

 拓人が聞くが、上条は首を横に振る。

 「いや、わからん。けど間違いなく琴音ちゃんが攻撃してきたわ」

 「冗談だろ?」

 半信半疑の拓人が続けて廊下の向こうを覗き込む。するとやはり、拓人の顔も一瞬で凍りついてしまった。


 「痛い痛い痛いっ!!」

 同じように拓人も手で顔を擦った。

 「だから俺が言ったやんか! アホか!?」


 「つーか、こんな状況普通に考えて想像できないだろ!」

 一体彼女に何があったというのだろうか? 若獅子による洗脳ならすでに解けていて然るべきであるし、そもそも若獅子は女性には洗脳攻撃をしないという話であったはずだ。


 「あっ!?」突然上条が大きな声を上げた。

 「どうした?」

 「そういえば前にみくるちゃんが言うてたわ。琴音ちゃんが氷漬けになる直前に、どういうわけかいきなり性格が豹変したんやって」

 そう、琴音は渋谷のスクランブル交差点でデーンシングに襲われた時、突然人が変わったように好戦的になり、幼児とは思えない動きで構成員を氷漬けにしたということがあったのだ。


 琴音の身体からは白い気体が舞い上がり、廊下一帯に冬の朝のような冷えた空気が漂っている。

 「つまり仮死状態の間から今に至るまで、その豹変状態がずっと継続してるってことなのか……?」

 恐怖からなのかそれとも寒さからなのか判別は付かないが、拓人の奥歯は終始カタカタと震え続けていた。

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