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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter14 コロシアムの怪人
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†chapter14 コロシアムの怪人22

 迫りくる黒煙こくえんに侵入した拓人だったが、煙の中は真っ暗で何も見えずバタバタと藻掻いた。この中心に不破がいるはずだが、手を伸ばしても殴りつけても正に暖簾のれんに腕押し。煙の中はそれほど広い範囲ではないはずなのに、まるで手ごたえがない。異空間にでも迷い込んでしまったかのようだ。


 「あかん、拓人! 黒煙の中に長いことおると、視力を奪われるで!!」

 下から上条の声が聞こえてきた。視力を奪われる……? 拓人はその場で咄嗟に旋風せんぷうを巻き起こす。黒い煙は風を受けて八方に吹き飛び消えていったが、それでも尚拓人の視界は真っ暗なままだった。


 「駄目だ、煙の中から出られない!」

 視線をキョロキョロと動かしながらまごついていると、また上条の声が聞こえた。

 「いや、もう煙は消えとるけど、その『闇雲やみくも』のせいで視覚能力が低下したんや。一旦降りてこっちに来いっ!」


 「くそっ! そういう能力か!」

 目の見えぬ拓人が、風に乗りよろよろと下降する。だが敵に背中を見せてしまったその瞬間、空中を猛スピードで飛んできた不破が右手を大きく振りかぶった。

 鋭い爪が拓人の背中を引き裂く。

 「あっ!!」と声を漏らしたのも束の間、続けざまに放たれた衝撃波を受け拓人の身体は大きくのけ反った。鮮血を撒き散らしながら回転すると、そのままアリーナの端まで吹き飛んでいった。


 壁への衝突は避けられないかと覚悟し目を瞑った拓人だったが、その直前で運よく何者かに受け止められた。

 「……全く、世話が焼ける」

 その人物が言う。未だ目は見えないが、そのイントネーションで誰が助けてくれたのか理解出来た。それは恐らく巡査だろう。


 「あ、ありがとう」

 そう礼を言うと、巡査は受け止めた拓人を床に投げ捨てた。

 「うっ!!」ぶつかった拍子に、裂かれた背中が悲鳴を上げた。


 「山田くん!」

 手負いのため巡査と共に避難していた雫の声がする。

 「雫か?」

 薄らと視力が戻りつつあるが、まだはっきりとその姿を捕らえることは出来ない。


 「大丈夫なの?」雫が心配そうに声を震わせる。

 「ああ、そっちこそ大丈夫なのか?」

 「うん。ていさんが応急処置してくれたから」

 拓人は目を細め、雫の右足と思われる場所を見る。何やら包帯のような布が巻きつけられているようであった。


 「そうか、良かった。ところで不破は?」

 「今また天井に浮上して虫を集めてる」

 雫に言われ、拓人は首を上げる。目が霞み良く見えないが、天井の中央に黒い塊が確認出来る。飛来したバッタの集まりか、不破が放つ黒煙のどちらかだろう。


 「やはりここにいる全員が束になってかかったところで、敵う相手ではないようだな」横にいる巡査が無情に言い放った。

 しかしそれは、拓人も感じていることであった。『疾風』の能力が使えるようになった今でも、どう戦えば良いのかわからない。拓人は再び不破と拳を交えることを考えただけで、心臓が張り裂けるような感覚を覚えていた。


 「今の俺たちじゃ、どうしてもあいつに勝てねえのか?」

 拓人が思わずそう漏らすと、巡査がこちらの顔をじっと見つめてきた。

 「スターイエローを持つ者でも、勝てないと言うのなら絶望的だろうな」

 巡査の言葉に3人は沈黙した。不破の唸り声と、亜種たちのときの声が広い体育館の中に反響している。


 「どうすればいいの。私たちはもう死ぬしかないの?」

 雫が小さな声で言うと、巡査がすぐに「いや」と言葉を返した。

 「心配するな。あの怪物グゥアイウーウォが倒す」


 拓人は驚いて巡査の顔を見た。その時点で視力はほぼ回復しており、偽りのない真っすぐな巡査の顔がその目に映った。能力を使える拓人ですら半ば諦めていたのに、この男はまだ不破を倒すことを断念していなかったのだ。

 「何か秘策でもあるのか?」

 「ああ」

 巡査はそう答えると、大きく溜息をついた。


 「秘策って何?」

 今度は雫がそう聞く。巡査はしばらくその場で立ち尽くすとゆっくり振り返り、そして雫の頭に優しく手のひらを乗せた。

 「雫のためなら……」

 そう言って目を合わせる。巡査は少し照れ臭そうに薄くはにかんだ。


 「死而无憾スーエァウーハン


 雫は不思議そうな目で巡査を見つめる。「……それ、どういう意味?」

 しかし、巡査は何も答えない。そっとその手を外すと、宙に浮かび不気味な呻き声を上げる不破と対峙した。

 「風使い。お前の力でウォをあの怪物グゥアイウーの近くまで運んでくれっ!」


 「拓人だよ。ちゃんと名前で呼べ!」

 そう言い返すと、巡査が目を釣り上げながら近づいてきた。拓人のスターイエローと、巡査の蛇のような視線がぶつかりあう。だが数秒間も睨み合わない内に、巡査は拓人に対して素直に頭を下げた。


 「……拓人、頼む」

 拍子抜けした拓人の肩の力が抜ける。「わかったよ。倒せる手立てがあるんだったら連れていかない理由はないからな。良し、俺の手を掴めっ!」

 「恩に着る」

 巡査は拓人の左手を掴んだ。拓人と巡査の周りに旋風が巻き上がる。


 「ていさん、待って。何をするつもりなの?」

 背後から雫にそう聞かれたが、やはり巡査は何も答えない。ただ少しだけ振り返ると、一言だけ口を開いた。


 「再見ザイジェン


 巡査は再び視線を前に戻す。「行くぞ、拓人。怪物グゥアイウー退治に」

 「おう、望むところだっ!」

 風が全身を舐めると身体が軽くなった。宙に浮きあがった拓人と巡査は横から吹く風に乗ると、不破に向かって一直線に突進していった。

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