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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter14 コロシアムの怪人
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†chapter14 コロシアムの怪人08

 「あ、おはよう」

 起き上がった雫の第一声がそれだった。捕らえられている緊張感が一瞬だけ緩和される。


 「雫、大丈夫か?」

 彼女の身を案じ拓人が聞くと、雫はキョロキョロと首を動かし何度も瞬きをした。右を向いても、左を向いても白い壁。そして白い床に白い天井。これでは自分の置かれた状況が理解できないだろう。


 「雫ちゃん。俺ら全員、デーンシングに捕まってもうたんや」上条が言う。

 雫は「そうか、キョージンに……」と呟くと、何を思ったのかプリーツスカートの裾を少しだけめくった。太腿のベルトに付けたホルスターには、ピンクゴールドの特殊警棒が収められている。それだけ確認すると雫は安堵の表情を浮かべた。持ち物を没収された拓人同様、雫も背負っていたキャンバスリュックを奪われてしまったようだが、隠し持っていた特殊警棒は無事だったようだ。


 「で、ここはどこなの?」

 「代々木体育館だってよ」拓人が答える。

 「ふーん。それじゃあ、デーンシングはここで亜種同士の殺し合いをさせようとしているのね……」

 雫は無感情にそう吐き捨てた。

 「まあ、そういうことだろうな」


 すると会話に反応した逆月さかつきが、その場から立ち上がった。

 「ちょっと天野さん。今のどういうこと?」


 「ああ、逆月さん。良かった無事だったのね」

 雫は逆月の姿を見ると、少しだけ口角が上がった。

 「良くないでしょ。殺し合いって何よ? あなたたちはデーンシングの目的を知ってるの?」


 そう言われると雫は拓人の顔を覗き込んだ。口下手な自分に変わって、今の状況を逆月に説明してあげてくれということのようだ。もはや言葉がなくても、彼女の言いたいことは何となくわかるようになってきた。これが幸か不幸かは今のところわからない。


 「デーンシングは渋谷にいる亜種を捕らえて、ショーとしての戦闘イベントをこの体育館で開催しようとしているんだよ」

 拓人はなるべく刺激をあたえないようにデーンシングの目的を説明した。だが亜種同士の殺し合いということはすでに雫が言ってしまっていたので、あまりオブラートに包んだ意味はあまりなかった。逆月の顔に絶望の色が窺える。


 「俺らは見世物ってことか……」

 岸本のしゃがれた声が部屋の中に響いた。

 部屋の真ん中に座り話を聞いていた彼もショックを受けているようだが、もう1人の男は相変わらず眠ったままでいる。もしくは雫のように何者かの攻撃を受け、意識を失ったままなのかもしれない。


 「俺たちは一体どうすればいい?」

 岸本はそう言って歯を食いしばる。だがどうすることも出来ない。上条は黙って首を振った。せめて人外の能力を使うことが出来れば脱出できる可能性もあったのだが……。


 全員が失意に沈み部屋の中が沈黙で包まれると、横になっていた男が前触れもなくハタと上半身を起こした。

 「寝過ぎて背中が痛い」

 男は一言そう言った。やはり寝ていただけのようだ。


 「こんな状況で良く寝れるもんやな。あんた何もんや?」

 上条が声を掛けると、男は寝ぐせだらけの頭を掻きこちらに振り向いた。

 「いつの間にか人数が増えてますね。あれ? あなたたちは確か……」


 男は何かに気付いたように目を開いたが、それと同時に拓人もその男が誰なのか思い出した。

 「あんた、モヤイ像でALICEアリスに絡まれてた人だよな」

 「そうです、そうです。さっきは助かりました。……その後、もっと怖い人たちに捕まっちゃいましたけどね」寝ぐせ男の顔から笑みが零れた。


 「何や自分ら、顔見知りなんか?」

 「顔見知りっちゃあ、顔見知りだな。名前は知らねえけど」

 昼間モヤイ像の前で会った時、彼はすぐに渋谷駅に走って行ってしまったので顔くらいしか覚えているものはない。だがその後、雫が男の所属するチームと名前を言っていたような気もする。しかしながらそこまでは覚えてはいなかった。


 「あなたたち3人はスターダストの皆さんですね。私はボーテックスというチームに所属する佐伯さえきと申します。以後お見知りおきを」佐伯と名乗る男は丁寧に挨拶をする。

 「俺らのこと知っとるんか?」

 上条が聞くと、佐伯は「ええ」と頷いた。


 「黒髪さんがチームに所属したことは、我々の中でちょっとしたニュースになりましたから。その黒髪さんを仲間にすることが出来たスターダストのリーダーさんも中々の器だと聞いています」

 佐伯にそう言われると、上条の頬が自然と緩んだ。

 「そうなん? いやあ、いよいよ俺らも有名になってきたみたいやなぁ」


 だが上機嫌な上条を尻目に、佐伯は辛辣しんらつな言葉も口にする。

 「スターダストはB-SIDEビーサイドやスコーピオンと敵対しているようですが、実際の所まだまだ三大勢力を倒せる規模のチームではありません。ねえ、B-SIDEの方?」

 話を振られた岸本は、まるで不味い粉薬を口にした時のような不快な表情を浮かべた。「あたりまえだ」


 上条と岸本の間で微かに緊張感が走る。しかし佐伯はにこやかに笑うと2人の肩を叩いた。

 「しかしまあ、ここは呉越同舟。今日のところは仲良くやりましょう。ね?」


 確かに喧嘩などしている場合ではない。全員で力を合わせ、なんとかしてこの白い部屋から脱出しなくては……。そんなことを考えていると、突然表からカシャカシャという金属音が聞こえてきた。


 「ちょっと待て、鍵を開けとる。また誰か来るみたいや」

 上条が言うと部屋が静まり返った。皆、扉に向かって耳を澄ます。だが扉は一向に開かなかった。


 しばらくしても誰も入ってこないので、不審に思った拓人が扉まで歩いて行き取っ手に手を掛けた。その扉は簡単にスーッと横に動いた。そして扉の前には誰もいない。どういうことだ?


 拓人は困惑の表情で、そのまま後ろに振り返った。

 「扉、開いちゃったんですけど?」

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