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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter14 コロシアムの怪人
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†chapter14 コロシアムの怪人07

 そして俺たちは、白い壁と白い天井の他には何もない会議室の様な広い部屋に閉じ込められていた。


 「何や、拓人もキョージンにやられたんか?」

 鼻に丸めたティッシュを詰めた上条がそう言って大いに笑っている。


 キョージンに敗れた拓人と雫は、共にこの部屋に連れて来られていた。気を失っていたので良くわからないが、話によるとどうやらここは代々木公園に隣接して建っている国立代々木競技場の第一体育館の中なのだそうだ。


 「うるせえな、笑い事じゃねえだろ」

 拓人は不貞腐れながらズボンのポケットを探る。財布とスマートフォンがない。デーンシングによって没収されてしまったようだ。

 「大体、何なんだよあいつは? 雫でさえ一撃でこれだぞ」

 拓人と共に連れてこられた雫は未だ意識が回復しておらず、傍らで横になっている。


 「何や拓人、キョージンのこと知らんのか? 渋谷の悪ガキたちは皆、悪さをしてはキョージンと巡査に追いかけ回されて、それで成長していくんやで」

 上条はそれが自然の摂理であるといった具合に語る。


 「こっちはあんなもんに追いかけ回されたくねえんだよ。動きは早いし、打撃も効かねえ。一体どんな能力を持ってるんだよ?」

 「キョージンは亜種ちゃうで。普通の人間や。ただ圧倒的な筋力と体力で亜種でも何でもボコボコにしてまう恐ろしい奴なんや」


 拓人は背中に鳥肌が立つと共に、殴打された右肩と左脇腹に鈍痛が走った。

 「それ普通の人間って言わねえだろ!」

 その言葉に上条は頷く。「せやな。強靭な狂人や」

 「キョージン、キョージン、うるせえな!」

 その名前がトラウマに感じつつある拓人は耳を塞ぎ、何の色気も無い壁に寄りかかると部屋の中を見渡した。


 「そういえば、みくるはどうしたんだ。一緒に捕まったんじゃないのか?」

 部屋の中には拓人、雫、上条の他に3人の人間が捕まっているのだが、その3人は面識のない人物だった。

 「みくるちゃんはどうも他の部屋に連れて行かれたみたいや」鼻の詰め物を取りながら上条は言う。


 そうか、デーンシングは亜種狩りをしているのだから、もっと沢山の亜種が別の部屋にも監禁されているのだろう。

 「じゃあ、巡査も他の部屋で捕まってるんだな……」

  拓人は部屋の中にいる3人の顔を窺う。部屋の中央に鎮座する中肉中背の男。横になって不貞寝している男。そして肌の白い金髪ショートヘアーの若い女。


 「女もいるんだな」

 その金髪の女は、1人部屋の隅で小さく丸くなっている。

 「ああ。他には男しかおらんかったから、警戒しとるんやろな。ずっとあそこにおるんや」

 それはそうだろう。デーンシングに訳も分からず拉致された揚句、見知らぬ男たちと1つの部屋に閉じ込められたら女なら誰だって心を閉ざすだろう。だが喋らないという点については他の2人も同じだった。


 「あの男2人はどこかのチームに所属してるのか?」

 拓人が聞くと上条は「ああ」と唸った。

 「寝とる奴は誰か知らんけど、あの真ん中に座っとるんはB-SIDEビーサイドの岸本って奴や。『ドーピング』とかいう筋力増強能力を持ってるで」


 「筋力増強?」

 拓人が目を向けると、あぐらを掻いて座っている岸本がすぐに視線を返した。

 「俺に何か用か? 小僧……」

 声帯の潰れてしまったようなガラガラ声で岸本が凄む。


 「いや、筋力が上がる能力があるなら、この部屋の扉くらい破壊できるんじゃないかと思って……」

 そう言うや否や、岸本はしゃがれた声で笑いだした。

 「馬鹿か。お前は亜種じゃないのか? 亜種なら感じるだろ?」


 岸本の言葉でようやく気が付いた。脳に若干の違和感がある。この辺りには能力が使えなくなる高周波が流れているのだ。

 「メビウスか……?」

 「そうだ。もしくは不破征四郎の持つ『結界』の能力なのかもしれん」

 岸本は静かに目を閉じた。長時間の拘束で疲弊しているので、あまり体力を使いたくないのだろう。


 「まあ、いずれにしても人外の能力は使えないってことか……」

 自力での脱出が無理だと悟り途方に暮れていると、横にいる上条が「なぁ、なぁ」と小声で話しかけてきた。

 「それよりあの金髪の娘って、もしかしたら拓人の言うとった雫ちゃんの知り合いなんちゃうか?」

 そう言われ拓人は女の方に顔を向ける。


 確かに歳の頃は雫と同じくらいだし、髪の色も他のALICEアリスのメンバーと同じ金色だ。何よりバッグにALICEにチームカラーである豹柄のテディベアが付いていた。瀬戸口が捜している失踪したメンバーとは、彼女と考えて間違いないだろう。


 怖がらせてはいけないので拓人はその場から金髪の女に声を掛けた。名前は回文になっていたから良く覚えている。逆月さかつきツカサだ。

 「なあ。あんた、ALICEの逆月さんか?」


 女はビクリと肩を大きく震わせると、ゆっくりとこちらに振り向いた。

 「そうだけど……」


 「俺はALICEの瀬戸口に頼まれて、お前を助けに来たんだ」

 拓人はそう言うと、不意に後頭部を小突かれた時のように軽く顔を歪めた。「まあ、今は俺も捕まっちまったから意味ないけど……」


 瀬戸口の名前を出すと少しだけ緊張が解けたのか、困惑の色を残しつつも表情が僅かに緩んだ。

 「あなた誰なの? グッチの知り合い?」


 「グッチって、瀬戸口のことか? 知り合いなのは俺じゃない。ここにいる雫が顔見知りだっただけだ」

 拓人が床を指差すと、そこで寝ていた雫がむくっと起き上がった。


 「あ、天野……さん?」

 雫の中学時代の同級生である逆月は、首を捻りながらその名を呼んだ。

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