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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter14 コロシアムの怪人
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†chapter14 コロシアムの怪人06

 「あいつ、大丈夫かな……?」

 拓人は真っすぐに続くレンガ道を駆けながら少しだけ振り返った。50人はいるであろう黒服の屈強な男たちを、蛭川ひるかわはヘッドクエイクの能力を使い1人で食い止めている。


 「けど、大変なのは私たちも同じかもね」

 雫が事態を憂慮ゆうりょしそう言うと、横から制服姿の警察官が姿を現した。

 これは蛭川のことを助けて貰えるチャンスだ。そう思った拓人が足を止め声を掛けようとすると、警官は突然横にいる雫に向かって右の拳を振り上げた。


 「は!?」

 状況が飲み込めない拓人をよそに、雫は警官の拳を冷静に受け止めると後ろ手を掴みそのままきつく上に締めあげた。

 「ああああっ!!」

 右手の関節があらぬ方向に曲がってしまった警官は、うつ伏せに倒れるとぴくぴくと身体を震わせた。


 「そういえば、警察も敵だったな……」

 警察が味方にならないことはわかっていたが、ここまであからさまに敵視されるとは……。拓人はうんざりと口を閉じると、今度は2メートルは超えるであろう大男が100メートル程先の道に立ちはだかっているのが見えた。


 「くそっ! あいつも敵か?」

 その大男は筋骨隆々としており、盛り上がった肩は異常に幅が広い。遠目で見ると人間というより大型の類人猿のようなシルエットをしていた。


 「まあいい、返り討ちにしてやる!」

 拓人と雫はそのまま大男に向かって駆けていく。近づいて行くにつれ大男の顔がはっきりと浮かんできた。眉骨が大きくせり出し鼻は潰れ大きく広がっている。進化論を逆行するようなそのフォルムは正にゴリラそのものだった。


 「ちょっと待ってっ!!」

 雫は柄にもなく声を荒げると、その場に立ち止まった。異変を感じ取った拓人もすぐにその場に立ち止まる。

 「どうした!? あいつのこと知ってるのか?」

 「彼は渋谷最強のセキュリティガードと言われているウエスタン警備保障のガードマン。通称『キョージン』と呼ばれている男よ」


 「きょ、キョージン? けど警察じゃなくて警備員なら、俺らが恐れることはないんじゃないか?」

 拓人は正面を横目で見やる。キョージンという名の大男は右手に持つ黒い鈍器のようなものを強く下に振り抜くと、肩を鳴らしてこちらに歩いて来た。

 「あの武器はブラックジャックか? 何でだ? 俺らを見て近寄ってくるぞ」

 ブラックジャックとは革袋の中に砂を入れ絞って棒状にした殴打武器のことだ。通常の鈍器と違いしなり易いので遠心力がつく上に、ダメージを広範囲に与えることが出来る非常に殺傷力の高い武器だ。


 「多分キョージンはデーンシングに雇われたんだと思う……」

 「えっ!?」

 真横から風圧を感じる。その風圧の正体が何かわからぬまま、今度は地面から割れるような音が鳴った。


 「何だ!」

 拓人と雫は左右に散る。拓人と雫の間にはブラックジャックを振り下ろしたキョージンの姿があった。でかいくせに異常に動きが速いときてる。これは厄介な敵だ。


 「最近の警備会社はマフィアの用心棒まで務めるのかよっ!」

 一旦後ろに退いた拓人は、突風に乗るとキョージンの懐に飛び込んでいった。拓人の左肘がキョージンのみぞおちに激突する。だが何故なのかダメージを与えた感覚がない。鋼のような腹筋に跳ね返されてしまったようだ。


 「駄目、拓人! キョージンには急所以外の打撃は効かないのっ!」雫が叫ぶ。

 だが急所というなら、拓人はしっかりみぞおちに肘を当てていた。しかしキョージンにはそれが全く効かないようだった。

 一体何の能力を持っているのかと困惑していると、キョージンのブラックジャックが目にも止まらぬ速さで右肩にぶつかってきた。


 左に吹き飛ぶ拓人。追撃がくることを警戒しすぐに体勢を整えるが、キョージンはいつの間にか視界から消え去ってしまった。

 「どこに行ったっ!?」

 そう叫んだ瞬間、背後から「ブンッ!」という空気を切り裂く音が聞こえてきた。拓人は慌てて振り向く。そこには鼻で息を鳴らすキョージンと、うつ伏せに倒れている雫の姿があった。


 「お、お前、何をした……。雫に一体何したんだよっ!!」

 拓人の周囲に旋風が巻き起こる。だがキョージンはそんなものは目に入らないとばかりに拓人に向かってきた。

 横に薙いだキョージンのブラックジャックを、拓人は風の力で勢いを殺しつつ素手で上に弾いた。

 手の甲が赤く腫れあがったが気にしてはいられない。拓人は気流に乗りそこから高く上昇した。


 意外な動きを目の当たりにしキョージンが呆然と立っていると、3メートル程飛び上がった拓人が今度は下降気流に乗り相手の眉間目掛けて勢いよく踵を落とした。キョージンの出っ張った眉骨を右の踵で蹴りつけ、そして逆の足で顔面を踏みにじると、拓人は今一度高く飛び上がった。


 「これでどうだっ!!」

 さすがにこの攻撃は効いただろう。拓人は宙返りしながら下方にいるキョージンに目を向ける。キョージンは蚊にでも刺されたかのように眉間をポリポリと掻くと、空中にいる拓人に向かってブラックジャックを振り上げた。


 「なぶっ!!」

 ブラックジャックが脇腹にめり込み身体をくの字に曲げた拓人は、そのまま地面に落下した。口から血反吐を吐き出すと、目の前の景色が徐々に暗くなっていった。

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