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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter14 コロシアムの怪人
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†chapter14 コロシアムの怪人03

 洗脳されてしまった中島和三郎をカタコンベ東京の座敷牢に閉じ込めた拓人たちは、幾つかの護身具をやんから貰い受けると、デーンシングに拉致された巡査たちを助けるため速やかにそこを辞した。だがその前にやるべきこともある。竹村亜樹を無事に琴音の入院する病院に送り届けることだ。代々木に向かった上条と佐藤みくるとは後で合流することを約束し、現在拓人と雫は竹村と共に宮益坂を上っていた。


 「本当にありがとうございます」

 後ろから竹村が感謝の言葉を述べたので、振り返った拓人はそれを制した。このやり取りももう通算10回目くらいだ。その横では完全に自分の世界に浸っている雫が、新調したばかりの特殊警棒をうっとりと眺めている。


 「気にいったみたいだね、その特殊警棒」

 そう話しかけると、雫はようやく自分の世界から帰ってきた。

 「うん。色が可愛いの」

 そう言って嬉しそうに微笑むと、収納された状態の特殊警棒を目の前に出した。ピンクゴールドの持ち手部分がキラキラと輝いている。確かに護身具というよりは、女子のお洒落アイテムといった装いだ。


 「確かに可愛いかもね」

 「スミス&ウェッソンの3段伸縮タクティカルバトン、お値段12800円」

 雫は特殊警棒を持ったまま何かに抱きつくようにギュッと腕を交差させた。特殊警棒にときめく女子ってどうなんだろう? 拓人はそんなことを思いながら、首に着けた蛇のネックレスを指先で触れそしてふと顔を上げた。街路樹の向こうに宮益坂病院と書かれた看板が見える。そこが琴音が入院している病院だ。3人は坂の途中にあるその大きな白いビルの中に入っていった。


 入口自動ドアのモーター音が静かなエントランスに響く。ロビーには人がおらず、受付にも事務作業をしている人間が1人いるだけだった。今の時間は午後6時30分。診療時間が過ぎているため閑散としているようだ。


 「面会時間はまだ過ぎてないよな?」

 受付にいる人の目を気にしつつ、ロビーを横切りエレベーターホールの前まで移動する。


 「確か琴音ちゃんがいるのは3階のシャワー室とか言ってたな」

 上条が言っていたことを思い出した拓人が言うと、それを聞いた竹村が「シャワー室?」と首を捻った。確かに大事な娘をそんなところに閉じ込められたら怒って然るべきなのだが、彼女の反応はそうならずにただ静かに「成程」と頷いた。


 「えっ、成程なの? いくら凍ってるとはいえ、シャワー室ってあんまりじゃないか?」

 開いたエレベーターに乗り込みそう聞くと、竹村は過去の出来事を話しだした。


 以前にも琴音は氷漬けになったことがあり、実はその時もこの宮益坂病院でお世話になっていたというのだ。琴音を包む氷塊は術者が触れている間は基本自然に解けることもなければ、暖房などの熱で溶かすことも出来ないらしい。ただ何かきっかけがあると一気に解けてしまうらしく、前回その氷解が一般の病室で起きたため部屋中を水浸しにしてしまったのだという。


 「それでシャワー室なのか。医者に意地悪されてるわけじゃないんだな」

 「そういうわけではないでしょう。前回の教訓ってことですね」


 3階に到着しエレベーターの扉が開いた。そこから降りた3人は目の前のフロア案内を確認し、廊下を左に進んだ。そのまま道なりに歩いて行くと、突き当たった場所にその部屋はあった。

 「じゃあ、どうぞ」拓人は竹村に扉を譲った。


 久しぶりの親子の再会の為か竹村は幾分緊張しているようだった。少しばかり扉の前で立ち尽くすと、意を決したように取っ手に手を掛けた。巨大な冷凍庫を開けた時のように、中から白煙が漏れてくる。沸きだした冷気が露出した肌に触れると、身震いと共に鳥肌が立った。


 「うわっ、寒っ!!」

 その冷気は後ろにいた拓人の所まで届いて来た。開けた扉から空気が入れ替わる。白く濁っていた部屋の中が徐々に晴れていくと、中から巨大な氷塊が姿を現した。


 「琴音……」

 竹村はドアを潜ると浴槽の中に入れられた氷塊の前に立った。半年振りの娘との再会。だが琴音には意識も無く、曇った氷に覆われているためその姿すらはっきりとは見ることが出来ない。


 「娘がこうなってしまった以上、しばらくは氷に閉ざされていることでしょう。けど今は返って好都合なのかもしれません。この状態ならデーンシングも簡単に手を出すことは出来ないでしょうから……」

 琴音はオッドアイ。異形の人身売買をしているデーンシングに狙われてしまう恐れがあるのだ。


 「大丈夫。デーンシングは私たちが潰しますから」

 氷塊に包まれた琴音を見ながら雫がそう宣言する。しかし竹村は心配そうな顔でこちらに振り返った。

 「世界的な犯罪組織ですよ。拉致された人達も心配でしょうが、ここは警察に任せた方が良いのでは……?」

 そうは言ったが、警察とデーンシングが癒着関係にあるのは公然の秘密。自分が浅はかなことを言っていると気付いたかのように、竹村はすっと視線を落とした。


 「けどまあどちらにせよ、俺たちは既にデーンシングに喧嘩売っちまってるからな。世界的犯罪組織だか何だか知らねえけど、俺らの街で好き勝手したらどうなるか? あいつらには身をもって思い知らせてやるよ」

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