†chapter14 コロシアムの怪人02
目を覚ました中島は虚ろな目で辺りを見回した。
「ナカジー、大丈夫か?」
拓人は少し身構えてそう聞いた。というのも、中島が若獅子ことチャオ・ヴォラギアットの持つ『ブレインウォッシング』の能力によって、洗脳攻撃を受けてしまっていると聞いていたからだ。その能力は人の心を支配し、主義や思想を思うがままに変えてしまうのだそうだ。
中島は不思議そうな顔で目をしょぼしょぼとさせている。まだ意識が朦朧としているようだ。
「もし暴れるようなら奥に座敷牢があるから、そこにぶちこんでおきな」
楊が乱暴に言うと、中島は何かに気付いたように大きく目を見開いた。
「ここは……?」
「ここはカタコンベだよ。中島さん」
名を呼ばれた中島が声の元に振り向く。「ここがカタコンベ東京ということは、あんたは楊さんか? 随分老けたな」
「あれから多くの患者を見てきたからね。仕方のないことさ」
中島に老けたと言われた楊だったが、特に機嫌を損ねるでもなく煙管に火を点けると、静かに紫煙をくゆらせた。
「しかし何でワシは魔窟大楼におるのじゃ?」
「ナカジーは拉致られて、今まで意識を失ってたんだよ」
中島の質問に答えたのは拓人だった。
「おお、お前はいつぞやの小僧ではないか! ……何でこんなところにおるんじゃ?」
「呑気なもんだな。ナカジーが若獅子に洗脳されたっていうから俺が助けてやったんだぞ」
「ワシが洗脳? 若様に?」
中島がそう言うと店内に妙な空気が流れた。
「わ、若様だぁ……?」
今、中島は確かに若獅子のことを若様と呼んでいた。全員の目が中島に集中すると、突然中島は勢いよく立ち上がった。
「貴様、若様を侮辱する気かっ!?」
「えーっ!! 侮辱って何だよ!? 若獅子のこと若様とか言うから、驚いただけだろ!」
「若様を通り名で気安く呼ぶな! 青二才!!」
中島は憎悪をたぎらせ、獣の如く吠えた。駄目だ。完全に若獅子の洗脳に支配されてしまっているようだ。
「落ちつけよ! ナカジーは若獅子に洗脳されてるんだよ!」
拓人は言うが、中島の怒りは治まることがない。
「おのれ、またしてもっ!! これ以上の無礼は聞くに堪えない。今すぐその首を跳ね飛ばしてくれるっ!」
中島は商品として並べてあったサバイバルナイフを手に取るとその刃を拓人に向けた。
「ちょっと待て、話し合おう! 話せばわかる!」
拓人は静止すよう呼びかけたが、中島は狂人のような目で拓人に襲いかかってきた。
「問答無用っ!!」「ギャーッ!!」
その後、中島はその場にいた皆に取り押さえられ店の奥の座敷牢に閉じ込められた。襲われた拓人は、幸い首の皮を少し切る程度の軽傷で済んだので、雫に絆創膏を貼って貰うとやれやれと肩を下ろした。
「まあ申し訳ないが、中島さんにはしばらくの間座敷牢の中にいて貰うとしよう」
楊は座敷牢に続く廊下の扉を閉めた。大きな顔のその表情は暗い。
「若獅子の洗脳が解けるまで監禁する気なのか?」
「いや、私の能力で治療は試みる。それで若獅子の洗脳が解けるかどうかはわからないがな」
「そうか『リワインド』の能力やな。脳細胞の時間を巻き戻して洗脳の記憶も消してまうってことか?」
楊の能力を知る上条が言った。だが拓人にはそれが良くわからない。「何だそれは?」
「楊さんはリワインドっちゅう細胞を若返らせる能力があんねん」
「細胞が若返る……?」
それは大した能力だ。しかし一見、楊自身老けているように見えるが、その能力を己に使用することはないのだろうか? そんなことを考えていると、楊が「ただし若返らせた時間の分だけ、私自身が年老いるけどね」と言葉を付けたした。成程それなら若くないことも納得できる。自分自身に能力を使用したとしても±0にしかならないのだから。
「脳細胞を若返らせたからといってこの1年の記憶が消えるとは思えないが、まあいずれにせよ中島さんが落ち着くまではリワインドの能力は使えないねぇ」
「残念やな。折角の機会やから、その奇跡の能力っちゅうもんを実際に見たかったんやけどな」
上条が指を組んで後頭部を押さえると、切られた首を押さえた拓人が「いやいや」と手を横に振った。
「前にも言ったけど、奇跡の能力は指先から灰が出てくるだけのサイババみたいな能力だぞ」
奇跡の能力とは空間の物質化。中島が右手で空気を握ると、それが灰となって掌から現れるのだ。
「ババアというか、じいさんの間違いやろ?」上条はどこかとぼけた顔でそう言った。
「いや、サイババのババはババアのことじゃねえよ……」




