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星屑のシャングリラ  作者: 折笠かおる
†chapter14 コロシアムの怪人
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†chapter14 コロシアムの怪人01

 「本当に皆さんにはお世話になりました。何とお礼を申し上げたらいいか……」

 宮益坂病院に向かう道すがら、竹村亜樹はデーンシングから助けられた感謝の言葉を何度も何度も口にした。


 山田拓人は助けに行ったのも助けることが出来たのも偶々たまたまなのだからと、礼を言われるたびそれを制した。それは実際にそうだった。魔窟大楼に行くことになったのは天野雫がカタコンベ東京に用があったためだし、霧隠れや物部もののべ連山れんざんを倒したのは拓人たちではなかった。


 「気にすることなんかないよ。なあ雫」

 そう声を掛けたのだが、雫は新調した特殊警棒にご満悦のようで、終始それを眺めており人の話を全く聞いていない。


 この新しい特殊警棒はカタコンベ東京で上条圭介に買って貰ったものだ。いや正しくは、中島和三郎を連れてきた礼として店主のやんから譲って貰ったものだ。あの楊という店主、顔もでかいが懐も大きい人物だった。

 拓人はカタコンベ東京で楊に言われた言葉を思い出す。


 「なんだって!?」

 楊が車椅子を前に動かすと、その大きな顔で上条を睨みつけた。互いに表情が固まっている。


 「せやから、拓人は風を操る能力やねん」

 上条は何か言い訳でも言うような口調でそう言うと、楊はその隣にいる拓人の顔に視線を移した。「このくせ毛の坊やが風を……?」

 「風じゃなくて疾風だけどな」拓人は小さな声で訂正する。


 「風の能力がどうかしたんか?」

 上条が尋ねる。だが楊はどこか不貞腐れた調子でフンッと鼻を鳴らした。

 「上から風の音が聞こえてくるから、まさかとは思ったけどね……」


 楊は車椅子を転がすとレジカウンターの裏に移動し、台の下の収納をごそごそと漁りだした。するとそこから細長い小箱が1つ取りだされた。何か商品を入れる箱のようだが、その漆黒を思わせる黒い小箱の表面にはロゴや文字などが一切書かれていなかった。


 「とうとうこれを手放す時が来たみたいだね」

 1つ息をつくと、楊は感慨深いような、ようやく厄介払いが出来るといったような表情でその小箱を開けた。


 何が入っているのか気になった拓人はその中を覗きこんだ。見るとそこには、色褪せた不気味なデザインのネックレスが収められていた。

 楊はそのネックレスを無造作に掴むと、拓人に向かって差し出した。

 「風使いの坊や。これを受け取りな」

 「……なんだよこれ?」

 拓人は楊からそれを受け取るとまじまじと眺めた。鎖の部分が絡まり合う蛇を模した禍々しい形状をしている。


 「このカタコンベ東京は元々は呪術品を扱う店でね。この首飾りもその頃の商品の1つさ」

 「呪術品?」

 拓人は指で摘まんだ蛇のネックレスを目の前に垂らした。不吉な感情が脳裏にぎる。とても身に着ける気にはなれない。


 「この蛇の首飾りを、風を操る亜種にくれてやれ」

 突然楊が人ごとのようにそう言った。だが正直気味が悪いので、すぐにでも返却したい。

 「いや、いらないけど……」

 ネックレスを差し出して言ったが、楊はそれを無視して話しだした。


 「今言ったのは『予知夢』の能力を持った私の爸爸パパの遺言だよ。いずれこの店に風を操る亜種が現れるだろうから、その時この蛇の首飾りを渡せと。しからば均衡きんこうは崩壊するのだという」


 「均衡って何の話だ? 崩壊って何か良くなさそうな気がするけど?」

 そう聞いてみたが、楊は目を瞑り首を振った。

 「正直その均衡が何を意味するのかも、蛇の首飾りがどんなものなのかも私の知るところではない。ただ私が知ってるのはこの首飾りがおよそ200年前の品物だということだけだ」


 「200年前!? 随分古い物なんだな」

 もしかすると価値がある骨董品なのかもしれないと感じた拓人は、指で摘まんでいたネックレスを掌に乗せた。錆ついた金属が擦れ静かに音を立てる。


 「そのネックレス、風を操る亜種に渡せって言うとったんなら、それが亜種に対して効果があるもんなんは間違いないんか?」

 上条の言葉に楊は首を捻る。

 「さあな。正確なことはわからないが爸爸パパは生前、亜種の持つ何かを覚醒させる術具ではないかと言っていたよ」


 「ふーん。けどそれっておかしないか? 何で200年も前に亜種が使うための道具が存在すんねん?」

 確かに上条の言う通りだった。ここで倒れている中島和三郎こそが亜種の起源。彼が人外の能力に覚醒したのは、今から50年前の話だ。200年前に亜種に関する道具があるのは時代的に辻褄が合わない。


 だがそれを聞いた楊は、大きな顔で不敵な笑みを浮かべている。

 「一般的にはこの中島和三郎氏が亜種の起源とされているが、つまり実際にはそれ以前から亜種は存在していたってことさ」


 「そ、そうやったんか?」

 驚いた上条がそう言ったところで、丁度気を失っていた中島の目が薄らと開いた。

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