†chapter13 殺人鬼の正体09
物部はマシンピストル、ベレッタ93Rの銃口を上条に向けた。銃身が不気味に黒く光る。
「させるかよっ!!」
拓人が雄たけびのような声を上げると、横から突風が襲ってきた。物部はすでに引き金を引いていたが、銃弾は全て風がさらっていってしまった。
「小癪なっ!」
物部が身体の向きを変える。拓人と向きあうと再びベレッタ93Rが火を吹いた。
「パパパッ! パパパンッ!!」
連続で吐き出される銃弾を、拓人は風を吹かせながら避け続けている。
物部は左手でベレッタ93Rを撃ちながら、更に右手にもう1丁ベレッタ93Rを出現させた。マシンピストルの2丁持ちで拓人を攻撃する。
拓人もう少し耐えてくれよ……。
上条は反撃のチャンスを窺いつつ、密かに物部に接近する。
四方壁に囲まれている中庭に、通常ではありえないほどの風が吹き荒れている。
両手に拳銃を持つ物部は激しいリコイルで身体を震わせながら銃撃を続けるが、強い風に阻まれどうしても拓人に当てることが出来ない。
「自然を操るとは大した能力だ。だが、巨大な能力を使いこなすにはそれ相応の精神力が必要になってくる。貴様にあとどれだけの体力が残っているかな?」
物部が薄気味悪い笑みを浮かべると、拓人は素早く身を屈め落ちている石を拾い、そしてそれをアンダースローで投げつけた。風の勢いに乗り弾丸の如く飛んで行った石が物部の頭部に直撃する。
「くわっ!!」
その衝撃で物部のギャングハットが吹き飛んだ。頭頂部まで禿上がった額がさらけ出される。
「おのれっ!」
額から流血し、物部は鬼の形相を浮かべる。感情を露わにしているが、攻撃の手も止まってしまっていた。思わぬ反撃に動揺しているのかもしれない。これはチャンスか? 物部の背後に回り込んだ上条は、足音を消しそっと近づく。まだ気付かれていない。意識が拓人に集中しているようだ。
「貴様らの家族、友人もただでは済まさん。デーンシングに逆らったことを必ず後悔させてやるぞ」
物部が再び引き金をを引く。その瞬間を見計らい一気に距離を詰めた上条は、物部の両腕を押さえると羽交い絞めにして取り押さえた。
「よっしゃっ!!」
捕らわれた物部がゆっくりと首を回す。「くっ、死に損ないが……」
息を切らせ拓人が駆けてきた。やはり物部の言う通り、かなり体力を消耗しているようだ。
「はぁ、はぁ。……圭介くん、銃で撃たれたのに平気なのか!?」
「ああ、こんなこともあろうかと防弾チョッキ着とったからな」
上条がそう言うと、拓人は苦しそうな表情を少しだけ緩めた。「さすがリーダー、準備いいな。絶対にそいつ離すなよ!」
「防弾チョッキだと……?」
押さえつけられた状態で、物部はベレッタ93Rの引き金を引いた。銃声に驚いた拓人が飛び退いたが、拳銃は上を向けたまま動かすことが出来ないため銃弾は空に消えていった。上条の頭の上に空の薬莢が3発落ちてくる。
「何のまねや? イタチの最後っ屁いうやつか?」
「ほざけ!」
その時、物部の手からベレッタ93Rが消えた。そして次に現れたのは紙などに穴をあける時に使用する千枚通しだった。
羽交い絞めをする上条の視界にそれは入らなかったが、物部の目の前にいる拓人はその小さな武器に気付いた。
「やばいっ! 圭介くん、そいつから離れろっ!!」
後ろに退いていた拓人が千枚通しに掴みかかるが、それより先に物部は肘を曲げ上条の左肩に千枚通しを突き刺した。
「あっ!!!」
思わず絡めていた腕が外れてしまう。解放された物部は千枚通しを拓人に向かって投げつけると、くるりと身を翻しコルト・ローマンを右手に出現させた。
「次は確実に死ねるように、頭を撃ち抜いてくれる!」
まずい。この距離ではもう避けられないか? 上条は刺された肩を押さえたまま目を瞑り死を覚悟した。
しかし、どういうことだろう。銃声が鳴らない。
低い呻き声が聞こえ恐る恐る目を開けると、目の前にいる物部は重力に負けるように地面に崩れてしまった。何が起きたのかわからない上条は拓人の顔を窺った。しかし彼もまた目と口を開き、呆然と息を漏らした。
「おい!」
仰向けに横たわる物部に呼び掛ける。だが何の反応もない。
怪訝な面持ちで数歩近づいた上条は、そこで物部が死んでいるのだと悟った。ただ死んでいるのではない。物部は左目を銃弾で撃ち抜かれ死亡していた。




