†chapter13 殺人鬼の正体08
瀬戸口と物部の2人が目の前から忽然と姿を消した。虚をつかれた貞清は「ほお」と小さく口にした。
これが瀬戸口の持つ瞬間移動のようだ。能力を目の当たりにした上条も大きく2度瞬きした。
しかし頭に拳銃を突きつけられた状態で、一体どこに行ったというのだろう?
するとそんな上条の思いを察したかのように貞清が「上ですね」と呟いた。
「上?」
そう口にすると同時に、何か黒い物体が勢いよく空から降ってきた。
「うえぇっ!」
落ちてきた物体が呻き声を上げる。見るとそれはやはり物部であった。一緒に落ちてきた瀬戸口の下敷きになり苦悶の表情を浮かべている。どうやら瀬戸口は、物部と共に空中に転移していたようだ。
「くたばれ! この変態くそじじいっ!」
瀬戸口は落ちた拍子に物部の腹部に突き刺さっていた右肘を持ち上げると、再び体重を乗せ真下に振り下ろした。
物部の口から反吐のような声が漏れる。その隙に瀬戸口は物部の右手から拳銃を奪い取った。しかし先程拓人が言っていた通り、瞬間移動の能力は体力をかなり消耗してしまうようだ。瀬戸口は奪った拳銃を遠くに投げ飛ばすと、そのまま力尽きたように地面に崩れた。中庭の中央には物部、瀬戸口、竹村亜樹の3人が倒れている。
「あかん、助けたらな!」
中庭の中央に向かって上条が走った。後ろから貞清が「銃に気をつけてください」と人ごとのように言ってくる。
口元を震わせ物部が目を開けた。だが大丈夫だ。銃は遠くに投げ飛ばされている。しかし地面を駆ける上条の目に妙な物が映った。物部の手の中に現れた黒く光る物体。あれは拳銃……?
「パンッ!!!」
炸裂音と共に物部の手から銃弾が放たれた。走っていた上条は跳ね返るような形で後ろに卒倒した。胸部に銃弾が直撃してしまったのだ。
「圭介くんっ!!」遠くから拓人が悲痛な声が聞こえる。
もう1丁、拳銃を持っていたのか……。上条は顔をしかめ胸部を押さえた。強い鈍痛が胸を圧迫する。一瞬死んだかと思ったが、カタコンベ東京で六尺棒と共に貰った防弾チョッキを着ていたことを思い出した。しかしながら衝撃で起き上がることはおろか、声を出すことも出来ない。
「てめぇ、ウチのリーダーに何してくれてんだっ!!」
怒れる拓人が声を上げた。荒れた中庭に風が旋回しだす。倒れる上条の全身にも容赦なく砂や小石が飛んでくる。
「貴様ら、誰を相手にしているのかわかっておるのか?」
倒れていた物部はゆっくり立ち上がると右手に持つアメリカ製のリボルバー、コルト・ローマンの銃口を拓人に向けた。
「デーンシングに喧嘩売る人間を生かしておくわけあるまい。全員ここで死ぬんだよぉ」
物部が引き金を引くと薄闇に閃光が走った。しかしそんなことなど物ともせず、拓人は疾風の如く突っ込んでいく。
「うおぉぉぉぉぉっ!!」
風が銃弾を弾く。地面を蹴ると拓人の身体は宙に浮き、そしてそのまま飛び蹴りを放った。物部は身体を捻り攻撃を紙一重でかわしたが、何故か交差した2人の間から鮮血が舞い上がった。
「くっ!」拓人が右腕を押さえる。その鮮血は拓人のものだった。
「た、短刀……?」
見ると拳銃を持っていたはずの物部の右手には、いつの間にか短刀が収まっていた。
「気をつけてください。物部先生は『魔躯』の能力者。彼の体内は亜空間になっていて、そこにあらゆるものを格納し、自在に取り出すことが出来るのです」
貞清がそう言うと、物部は頬が引きつるほど口角を上げた。
「そういうことだ。貴様らを殺す武器ならいくらでもある」
物部の手から短刀が消え、また拳銃が現れた。だが先程の銃ではないようだ。
「このベレッタ93Rで蜂の巣にしてやるぞ、小僧」
物部との距離が近いため、拓人の顔が青褪める。至近距離では風で銃弾を弾くことが出来ないからだ。
転がるように後方に避けると、ベレッタ93Rの連射音が鳴り響いた。
乾いた地面に銃弾が当たり、あちこちから砂煙が舞い上がる。あの銃は1度引き金を引くと、マシンガンのように複数発銃弾が発射されるようだ。
「逃げてみろ、小僧」
尚も物部は銃を連射する。だが風を使って逃げ回る拓人に銃弾を当てることが出来ない。リコイルが強いため狙いがうまく定まらないということもあるのかもしれないが、当たるのは時間の問題のようでもある。
拓人のピンチ、助けなければ……。胸の痛みが収まってきた上条は、気付かれぬよう身体を転がせうつ伏せになる。様子を窺いつつタイミングを計っていると、不意に中庭の奥の小さな階段室から人影が現れた。それはなんと佐藤みくるだった。
まずい。上条はうつ伏せの状態で「階段の下に隠れろ」と合図するが、みくるの視線は別なことを向いている。
何も気付かないままみくるが階段室から出てくると、その後ろから雫も一緒に現れた。
「何者だっ!!」
2人が出てきたところで物部もそれに気付いた。振り返り銃口を向ける。
「パパパンッ!!!」
銃弾が階段室のコンクリートを削ると同時に、悲鳴が上がった。
もうタイミング計ってる場合ではない。跳ね起きた上条は飛ぶように駆けていくと、手にした六尺棒を力の限り振り抜いた。それに対し物部は、鉤の付いた十手のような武具を出現させ棒を絡め取り下に押さえつけた。あれは釵と呼ばれる武器だ。
「貴様、生きていたのか?」
物部は額に血管を浮き上がらせると、釵で絡め取った六尺棒を一気に跳ね上げた。
「棒術使いとは面白い……」そう語りながら物部が左手を胸の高さまで上げると、再び手の中にベレッタ93Rが出現した。
「だが、今は貴様の相手などしている暇はない。死んで貰うぞ」




