非安地
――お前はもういらない
辞めて。
――魔法使いは要らない
辞めて!
――それでも同じ家族なのかしら
「辞めろッッッ!!」
脳裏に響く悪魔の囁きに、ナナミは声を荒らげて飛び起きる。
「はぁ、はぁ……あぁぁぁぁぁぁッッッ!」
うるさいうるさいうるさい!
頭を横に降り、声から逃げようとするも、しつこくまとわりつくヘドロに、ナナミはパニックになりながら近くに置いてあった杖を振り回す。
「ちょっとナナミ! 落ち着きなさい!」
いち早く対応したのは見張りをしていたルカ。
それと同時に起きたのはリクとミルク。
眠り眼を擦りながら、なんだ? とリクが声をかけたその時だった――
「うるせぇ……。うるせぇんだよぉぉぉッッッ! 全部……全部消えろぉぉぉぉぉッッッ!!」
「辞めなさいっ! ナナミっ!」
「ナナミさん!?」
目の色を変え、口調も全てが転調したナナミは、杖を振り回すだけでは飽き足らず、魔法をも発動する。
炎魔法で一瞬にして辺りを燃やし尽くすナナミの自我は、もう何処にも無くなっていた。
「おいおいおい! これ不味くねぇか! ……ってリン! 早く起きろ! ナナミがやべぇ!」
二人共私の後ろに隠れて! と的確に指示を出すルカの言葉に、ミルクとリクは駆け出すが、
「おいリン! ……くっそがぁぁぁ!!!」
未だに寝ているリンを放っておけない! と、リクは寝袋ごとリンを抱き抱え、ルカの元へ走る。
「リクくん後ろ!」
「ちょ! まじで――!」
背後から感じるそれは冒険者じゃないリクでも感じ取れた。
ジリジリと伝わる魔力に意識が飛びそうになる。
少しずつ赤く輝く杖を魅入った次の瞬間、燃えたひまわりが現れ、一気に小部屋の温度を急上昇させる。
「あれは……食料調達の時に使ってた……」
そう言って口を引きつるミルクは、早く逃げて……と口を震わせる。
【マッシュプラント】との戦闘時に見た炎魔法、クライシスフラワー。この場のリク以外が見た事のあるその魔法に、ミルクとルカは唾を飲み込む。
刹那――
「ナナミ……やりすぎ……」
「リン!」
花弁から火竜が現れるその直前、目を覚ましたリンは抱き抱えられたまま声をこぼす。
聞く耳を持たないナナミがガムシャラに杖を振るう中、リンは寝袋から泉色の杖を出し、冷静に杖の先をナナミに向ける。
「はぁ……あんまり魔法使いたくないのに――永久の草原に広がれ、その魂の根源の元へ帰還せよ――小眠」
「う……」
リンの杖が黄緑色に淡く輝いた直後、意識を失う様にナナミは膝から崩れ落ち、それと同時に火竜も消滅していく。
「はぁ、せっかく溜まった魔力も今ので使っちゃった……」
もう寝る。と、杖を寝袋にしまったリンは、私の役目は終了とばかりにそそくさと眠りについた。
「ありがとうございますありがとうございます! リン様最高! 危うく命を言葉通り燃やし尽くしてしまうところでありました!」
自分の懐で眠るリンの寝顔を見ながら、リクはまじで死ぬとこだったぜ……と冷や汗を流す。
「リクくん大丈夫だった? 怪我してない?」
「あー大丈夫大丈夫、リン様のおかげでなぁ……。で、ルカさんや、これどゆこと?」
「私にも、分からない…………」
本当に怪我してない? と体をぺたぺた触るミルクにドキドキしながらも、散々暴れた跡を残したナナミを見ながら、リクはルカに問いかける。
小部屋の至る所にクレーターが出来、モンスターにでも襲われたのかと思わせる程の状況に、流石のルカも顔を曇らせる。
「分からないけど……過去にも1回こんな事……。って、ごめんなさい2人共……もう長く話してる時間無いかも……」
「え?」
それはずっと皆で見張って居た小部屋に唯一ある出口。
その先に繋がる小道に転がるのは、
燃え尽きたモンスターの死体――
「嘘……でしょ……」
それは乾いたミルクの声。
――安地の特性
内部からモンスターを攻撃した場合安地の場所が変わってしまう。
それを教えてくれたミルクの言葉を時間差で思い出したリクは、背中を泡立たせることしか出来なかった――
『『ゲアァァァァァァッッッッッッ!!』』




