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もし〇〇が仲間になったら(〇〇式異世界英才教育〜憎まれっ子よ、世に憚れ〜)  作者: 平泉彼方
第2章 波乱な8歳前半の歩み(〇〇式英才教育基礎レベル実践編)
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92 泣く子も悪霊も母親には敵わないもの

 読者の皆様投稿遅れて申し訳ないです。行間は後日調整いたします。ブックマークありがとうございます。


 さて今回は短めです。それでは今週の不憫をどぞ!




 上品さを一切崩すことなく見事な高笑いをするご婦人もとい側妃。そこに嫌味も悪意もないのが分かるだけに憎むに憎めない。さらに醸し出す空気はおっとりのんびりしていた。


 良い意味でも悪い意味でも摩訶不思議な女性、といえばいいだろうか。とにかく今までおおよそ遭遇したことのない完全に未知なタイプであることは確実であった。


 これがきっと絶滅危惧種指定されている本当の意味での『高貴な身分の人』というものなのだろう…初めて見た。



〈ライ、一応俺もお前も身分は貴族で『高貴』なんだが?〉



 親父がなんかぼやいているが、きっと耄碌してしまったのだろう。無理もない、何せ生まれて死んですでに何百年と経っているのだから。今までよく保った方だと思う…正直ミレニアム疑惑があるというのにスーパーボケ老人になっていなかったことが逆に謎だ。


 武士の情けだ、せめて聞かなかったことにしてあげよう。



〈俺の扱い…これでも社交界ではブイブイ言わせたのに……〉



 そんな調子に乗っていたから『氷の貴公子(笑)(カッコわらい)』なんてひどい厨二渾名がついてしまったのだろう。若気の至りだったのだろうけど、これはない。私もこの教訓をもとに、調子に乗らないよう気をつけるか。


 心の声を勝手に聞いたのか、影の中で親父がガックリと崩れ落ちた。


 …自分で自分の傷をえぐりに行くとは。さてはトパーズさんのマゾさがこの旅で伝染したか?それが本当なら距離を取らねば。



 …などと少し現実逃避兼八つ当たりをしていたが、そろそろ意識を戻すか。今は非常に逃げていた気分だが仕方がない。



「あの…せめてどの辺に隠したとか「だって忘れてしまったもの」…あ、そうですか……」



 しかしこの側妃様…豪胆というか大物である。仮にも息子や夫が得体の知れないナニカに感染しており自身も命の危険があるはずなのに…というか、その旦那と子供の人格とか大事なものが詰まった結晶を無くした割とシリアスな状況だったのでは?


 もう一度彼女を見ると、にこやかに紅茶を注ぎ、オホホホと砂糖菓子をつまむ。その姿はまさにおっとりした貴婦人そのもの。


 その程度の心の余裕は少なくともあるということはもう十分わかった、というか見たまま。それにこれは演技ではなく、たぶん本当に余裕なのだろう。



「…その、こう言っては失礼ですが「ああ余裕があるのは彼ら(・・)が絶対に私の旦那様と子供達へ手出しができないとわかっているからですわ」…そうですか。」



 綺麗に微笑む側妃様…さっきから疑問に思っているのだが、実は結晶のある場所知っているんじゃないのかこの人。


 じっと見つめているが、表情に一切変化がない。どころかまぶたや鼻の動き、呼吸音、心拍数、それから発汗も見られない。となると、本当に嘘ではないのかもしれない。それか嘘を異常に吐き慣れているか、慣らされたか。


 そしてもう少し観察しようとしていたところで親父が影から失礼だろと殴ってきた。なので、しょうがないが一旦引き下がることにした。


 同時に親父はこんなことを伝えてきた。



〈おい、あの貴婦人実はかなりやばいかもしれない。〉



 まさかのラスボス登場?あるいは油断させといて後ろからグサッとやる人?



〈違う違う、そうじゃない…けどなんというか俺の古傷がやばいと警鐘を鳴らしているから間違いない。〉



 いったい何がやばいの「ああそうだ、あれは俺の同類だ。」…ぎゃあああぁぁぁぁぁ



「よ、ライ…ケツは無事なようだな。」



 ケツを撫でつけんと迫ってくる大きな手に背筋がゾワッする。咄嗟に横に逸れるが今度は後ろに転移していた。



「…な、何でお前がここに……」



 いい漢スマイルを浮かべる変態。



「ずいぶんな挨拶だな、まあいい」



 青いツナギ姿の漢は、仕方がないと言わんばかりにため息を吐く。そしてこちらを射抜くかのごとき目線をいつものように向けつつ再び口を開いた。



「騙されていたようだが一応言っておくが、あれは貴婦人などではない…」



 一旦言葉を切られ、思わずゴクリと唾を飲み込む。そこで紅茶を飲んでいたのに自分の喉がずいぶん乾いていたことがわかった…なお、紅茶は逆に利尿作用があるから喉が乾くというツッコミは今無しにしといてもらおう。



「ライよ、」



 再びこちらをじっと見詰めてくる妖怪青ツナギ。


 神出鬼没で昼夜かまわず食ってやると洋館で襲ってくる全身青を纏った男。曰く、あんな家に憑く目的不明な青い霊ではないとのこと。食った後はゲイバーに紹介してちゃっかり仲介料をもらったという驚愕の事実は聞かなかったことにしといた。


 そして、目をギラギラ輝かせながら再び問うてくる。



「本当に知りたいのか?事実は時に残酷「もういいから言えよ」…わかった。」



 なお、遮ったのは私ではなくしびれを切らした親父である。もういい加減歳なのだから血圧気にした方がいいと思うのだ「余計なお世話だ!」…おっと、まだ影の中にいたのか。


 というかいつも思うのだが、影の中で何故わざわざ私の心の声が聞こえるようにしているのだろうか。そんなに気になるのか?アニメや漫画の続きとか…本人は魔導本だと思っているらしいが。



「あの女性は貴婦人ではなく貴腐「あらあら、影で話していないで折角いるのだし私へ尋ねてはいかがかしら?」…いや、だから「あら紳士たるものレディーの要望に応えるものよ?」…俺は女に興味がない、可愛い坊やにし「それでもよ?」…」



 気づいたら目の前の攻防を唖然と見てしまっていた。というのも、あの恐怖の代名詞の一つと言える『青ツナギ』を黙らせる勇者がもう1人いたという事実に驚いたのだ。


 そこで、前世から時折聞いていたある言葉が唐突に思い出された。



「ああなるほど…そりゃ最強なわけだ。」



 覗いたと思しき親父も同意する。



「「母、強し。だな…」」



 子持ちの母親は自然界ではとにかく強い…奴らはそれこそこの為なら修羅悪鬼にもなる。実際、動物などを狩る際特に子が少なければ母親の目前子を狙わないことは鉄則。むしろ雄が狙い目。


 そんな強さを持っているような女性に一介の変態が敵うはずもない。


 そう説明すると、ああなるほどと素直に納得した周囲。だが次の瞬間青ツナギが青くなるという超常現象を起こして子鹿のごとくピクピクプルプルと震える側となった。同時にこちらも珍しく青ざめるトパーズさんとエリスさん。


 そこで背後に貴婦人ならぬ鬼婦人が金棒とともに仁王立ちしていることに気づいた。


 影からニュッと出ていた親父と互いに顔を見合わせ雷雲を背負った強いオバ…お姉さんの方を一瞬見た。そして再び顔を見合わせ頷く。相変わらず顔は青白い…親父は今回に限って幽霊だからってわけではなさそうだ。


 でも、どうやら互いに覚悟ができたらしい。



 さてと。ならば…



「「こいつ(あいつ)が全部悪い。」」



 ああ美しきかな親子愛…だがいくら親子といえ、背と腹は変えられない。


 身内なはずだが互いに必死である。相手を売ってでもこの難局を逃れなければと。ばちばちと火花が散りそなほど互いにメンチを切る。



「こいつが正体を暴きたいとか思ってたのが悪い。」



 どうやら私へ全責任をなすりつけようとしているみたいだ。仮にも育ての親だというのにこんな怖いおば…おねえさんに幼気な8歳児を差し出すとかまさに血も涙もない鬼畜。


 そんなんだから『外道様』とか『陰険』とかあだ名がつくんだこの永遠の中二病め。


 さてこんなことされたら当然やり返すどころか熨斗付きで突き返すのがライくんクオリティ。故に…



「あいつがおねえさんが実はやばいとか言ったのが悪い。」



 そうして喰い違う証言。


 これはあれか、盛り蕎麦でも掛け蕎麦でもないが1回3億くらいかけて会合を開いた上で公的に凹るべきか?おう、受けて立とうではない「あらあら、私のために争ってはダメよ。」……


 ゾワリとした背筋に従って少し明るめの声のヌシを見る。すると、綺麗にニコニコしていた…だがその表情とは裏腹に暗雲はさらに濃くなっている。



「けど、私へそんな風に思っていただなんて…うふふふふふ」



 ヒュオオォォォォォオオオ、などとブリザードが部屋の中を通り抜けた。


 ああやっぱり冬だなぁと改めて実感する今日この頃です。





 母強し。 

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