90 空気は読まずに壊すもの
読者の皆様投稿遅れて申し訳ないです。また行間は後日直します。
今回はちょっと精神的不安定な描写が出てきます、ご注意ください。さて、それでは今週の不憫をどぞ!
…さてと、ライ君の気配が無くなったな。
「もうそろそろ向かいます、トパーズ?」
そんなタイミングで俺…いや、私と同じことを思ったのかエリスが声を掛けてきた。なので肯定する意味で頷く。笑みを深めた彼女はやはり眩しいほど美しい。
それは姿形が違ったとしても、本質は変わらないからかもしれない。
「!?」
遠くの方で何かが破裂する音が聞こえた…一体何をあの子供はやらかしたのだろう。思わずため息が漏れた。
思い返せば返すほど年8つと思えぬ言動を取る奇妙な子供。
目の置き方や姿勢などどれを見ても中堅以上、いや一流の暗殺者だと言われても頷ける領域に達している。もうそれだけでも既に異常だというのに、死者と会話が出来る上配下に加えている。そして間違いなく他にも従えている。
でも、最も非常識であることは彼の使う魔術…既にあれは魔術なのかどうかも疑わしい。少なくとも私の知る『魔術』とは随分とかけ離れており、異端であると言えた。
無から匠の技が光る土器を中身ごと作成かと思えば頑丈な壁をジャミール爺さんの爆ぜ薬無しに爆破させる。天井の業火をあんないとも容易いといった様子で狙い通り降らせる姿には戦慄を覚えた。
どんな風に生まれれば8つであんな状態になるのか…いや、それだけ苦労を強いられてきたと考えるべきか。
でも確かに幽霊が育て親という点から見ても随分深刻なわけありだろう。むしろ幽霊、いや、悪霊だろうか相手によく生き残ってこれらたものだ。あの父親を名乗る悪霊だが、実態化していることからして相当高位であることがうかがえる。
他にも様々な関係者がいると見ているが、碌な連中でないことは確かだ。魔族とも契約を結んでいるらしいし、案外魔王とかだったり…いやさすがにそれは考えすぎか。
そんな風に考えにふけっていたら、鼻へとても…いや誤魔化しようのない酷い悪臭が漂ってきた。これはあれだ、肥溜めとかそういった類のものだろう。
…ライ君、君は一体何をしたのか?
ちらりとエリスへ目を向けると、ハンカチで口を覆っていた。同時に何かを察したのか笑みを目元に浮かべていた。一見すると穏やかで優しげでいて、その本質は妖艶で残忍でそれでいて不穏な。
…思わずゾクリとするのはもう仕方がないのかもしれない。
「あらあら、おいたがすぎますわ。」
瞬時に起動した結界内部でふぅ、と息を吐く。
その仕草だけでこちらの理性が溶けそうになるが、そこは男の意地でもってなんとか耐えた。こんな場所で醜態晒すのは御免だ…先ほどの痴態は演技だったわけだし。
それに実際、今それどころではない。
「全く…さてどうしたものかね。」
この部屋の窓の外、天井、床下、壁、他にも部屋の中の備品だろうか…少なく見積もっても20、いや、30だろうか。一人一人は大したことない。だが多勢に無勢。
こちらは幽霊入れて3人…だがそれに加えて非戦闘員1名。しかもその1名は非常に衰弱しており激しい戦闘にはとてもじゃないが耐えられないだろう。
「はてさて、どこまで対応出来るか。」
なあんてね…随分こちらはなめられたものだな。
エリスもほぼ同じ意見らしく、笑みを深めた…これは相当御冠だ。その美しい顔に背筋やあらぬところがゾクゾクと反応するが、さすがにこの状況なので自重する。私だって常時変態というわけではない。
だからそこの…えっとライ君曰くマダオでいいんだったか?そんな生暖かい目でコッチミンナ(゜д゜)
「…こっちからは手を出さ「あら、まだ来ないの?遅いわよ!」…まあいいや、さっさと来いよ相手してやるから。」
見事エリスに遮られて思ったように口上を述べられなかったがまあいい。妖艶な笑みを目元に浮かべ鉄扇で上品に口を覆ったエリスはさすがは私の女神。おかげでこちらも…
「嗚呼…ゾクゾクするなぁ」
術式を宙へと紡ぎ、次々此方へ飛び込んでくる小蝿共を雷で締めていく…嗚呼、嗚呼そうだよ、その顔だ。苦しい痛い助けてくれと叫ぶその顔が見たいのだよ私は。
もっとだ、もっと…もっと苦しめ苦痛に叫べ。
我々が受けた苦痛はこんなものではないのだからもっと思い知って我々に快感を与えろ。刺激はこんなのでは足らない。もっとゾクゾクさせろ。
そうだ、足掻いて絶望するその顔が見たいんだよ私は…その顔だよその顔。醜悪でいて美。端正であり歪。いや、完成された一つの形がそう崩れる様。その刹那の芸術が我々の心へ響くのだろう。
「キャハハハハハハハ」
自分の醜い笑い声が聞こえ、嗚呼狂っているなと改めて思う。
だけどこれだけ歪んだのはエリス、君と生きるため。君が生きているなら君がいるなら別にどれほど狂っても病んでも壊れても別にいいんだよ私は。
だから本当は壊れていない美しいままの君はそのまま…
「いい加減にせんかこの変態ども!!!」
次の瞬間、頭へ衝撃を受けた…なんというか、すごい音が鳴ってこちらにも響いた。グワングワンっと。
見ると、それは銅で出来た巨大な器だった。
「全くライもこんな面倒な連中任せやがって…チクショウあっちの方が面白そうなのに。」
幽霊のおっさんがブツブツ言いながら次々配下へ指示を出していく。その傍ら術式を組んでこちらが気づいていなかった連中をまとめて束縛していた。
「だがこちらに俺がいて正解だったみたいだな…全く。」
いや、多分気付いていなくとも対応は出来たと思うが…だがそれ以前に、場所が場所だから正気を失っていたか。
「…一体それはなんですの?!」
「ん?ああこれ?銅のタライだって。」
曰く、本来なら金箔を貼ったものを用意しておいて道化師の頭へ落とすものらしい。いや、どこの習慣か不明だが。
「他にもシトラ(=みかんもどき)の固い奴とか死んだスライムの体液とか諸々直撃させるって言っていた、ライが。」
それで道化師などが高貴な身分の者から街の連中まで“おやくそく”で笑かすのだとか…想像してみるが、一体それの何が楽しいのか全くもってわからん。だいたいその道化師っておっさんだろう?
シトラ汁で目潰しっていうなら分かるが何故固いままでぶつけるのが面白いのだろう…しかもスライム体液に関しては下手すると溶けるぞ体。いくら道化師が身体張った仕事だからといって、さすがにそれは…ないよな?
いやだってお笑いどころではないだろう?体が(自主規制)になって(放映禁止)をさらすことになるのだから。さすがにそれを笑う人はいないはず。常識的に考えて←
しかしこれの発案者がライ君なのか…自分で言うのもなんだが頭とか大丈夫か?ちょっとだけあのズレた子供の将来とかが色々と心配になった。
まあでも、確かに空気が変わるのは事実らしい。
「もう全く、私よりも貴方が狂気に飲まれるなんて…なんと生意気なの!」
エリス…
「それは私が選んだ道なのだから貴方様がそれほど気にかけずとも…と言っても無駄なのよね。」
ため息をついて悩ましげに畳んだ鉄扇を額に当てる。そしてこちらへじとっとした目を向けた。
「仕方がない人だわ。」
本当に私がいなければ…そんな声が副音で聞こえそうな様子でつぶやくエリス。おそらく君がそんなんだから私は一生こんなダメ男のままなのだろう。
君がいい女すぎるから。
「オッホン」
…幽霊のおっさんが盛大に空気をぶち壊した。だが今回は我々にも原因があったと思わなくもない。
「さてと、こいつらどうする?なんだったら適当にアレだけ排除してから縛って転がしとくか?」
その後こっそり魂だけいただくと?
「まあいいのでは?大して情報も持っていなさそうな雑魚のことなの至極どーでもいいのですわ。」
「じゃ、好きにするよ。」
私が一言も喋ることなく勝手に襲撃者共の処遇が決まった。
では私はその間に王の間へこっそり忍び込むための準備でもするか。まずは裏ギルドの仲介者もとい無事な側室の元へ向かわないと話にならないからね。
エリスさんとトパーズさんの過去は間違いなく18禁。オブタートとかクリームとかで包む努力は一応してみますが、下手するとここでは語れない可能性も…ちょっとどうするか考えておきます。まだ猶予はあるので。




