88 乾物1袋分の救国(その4)王宮厠爆発事件の影響
読者のみなさまどうもこんばんは。ブックマークありがとうございます!
今回は少し汚い表現があります、ご注意ください。それでは今週の不憫をどぞ!
戦場。
それは戦闘が行われる場所、すなわち戦地のことである(◯×国語辞典より一部引用)。
辞書を引くとだいたいそんな風に書かれていることが多い。だから一応戦闘が行われていればその場所は『戦場』というものになると考えていいのだろう。
だが、その場を言い表す言葉の表現として『戦場』ではなんだかもの足りなく感じるだろうこともあって然るべき、だ。
そう、例えば目前に広がるなんというか…なんと言えばいいのだろうかと思わず頭を抱えたくなる状態。こんな曖昧な表現しかできないのはきっと私に語彙力が足らないからなのだろう。
けど、以下に稚拙ながら説明を載せてみた。
【過去】
綺麗に塗装され掃除もチリ一つ内容行き届いていたであろう白亜色の壁。要所要所に施された寄木細工製と思しき華奢な洋燈台。そして角度によって様々な表情を見せる彫り物。こうした目にする者を退屈させない難い工夫は、これを手掛けた職人達の腕が確かだからこそできたのだろうと思う。
色彩こそ地味だが、だからこそ使用される素材や技術の一つ一つが一級品と理解させられる。
この宮殿を先祖が建造できたこと。またそれを長期に渡り維持し、発展させるだけの経済力。その全てがこの国の国力が非常に強大であることを示していた。
そして廊下がそんな凄ければ部屋もまた手を抜いておらず、当然ながら排泄を行う汚いはずの場所、すなわち厠も冗談抜きに美しい景観を保っていた。
そう、ここ驚いたことに水洗式だったのである。
さすがに我が家の優れた水洗式(地球同様赤外線センサーで流せるタイプ)には劣る常に流れるタイプであった。それはもう仕方がない。平成以降の、しかも日本の技術へ科学が碌すっぽ発展の兆しを見せなかった世界が敵うはずもない。
それこそ失礼な話だが、猿人類へPCのプログラミング勝負を仕掛けるのと同等な話だろう。もはや、それは勝負でもなんでもない。ただの弱い者イジメだ。
何度も言うようだが、ここは中世ヨーロッパ風の世界。つまり、糞便の処理をまともに行わないため疫病伝染放題祭りの時代。
そんな中、他国で見られる窓からポイ捨て・川へポイ捨てを少なくとも王宮では一切していない。もうこれだけで尚のこと十分評価できる。特に悪臭が発生しておらず至って衛生状態が清潔に保たれていることは私的にポイントが高かった。
さらに凄いと感じたのは、ここのトイレはコンクリートだけでなくタイルを使っているということ。
確かに宮殿内のほとんどにコンクリートが使われていた。おそらくこの国の北部に石灰の取れる地域があるからだろう。だからトイレもてっきりそれだけかと思っていた。
だが、ここでは予想を凌駕するように全面タイル張りになっていたのだった。しかもこのタイル…陶器製だとわかる独特な光沢があった。スタイルからしておそらくヴィクトリアンタイルか?
それにしても今更だが、この国も人名はスペイン系、建造物は英・仏・独のいいとこ取り。さらに食事はおそらくロシア風…お茶がロシアンティーだったので多分そうなのだろう。
これは西洋でも東洋でも同じことだが、東西南北・地形等々の様々な違いで生じた気候に応じて文化って形成されていたはず。特に衣食住の中でも食は、それが色濃く出ていると思う。
ロシアや中国〜朝鮮半島周辺地域で油を使う料理が多いのは水を多く使えない事情をそれぞれ抱えているため。インドで香辛料を多量に使用する食文化が主流になっているのは日中と夜の温度差が激しく免疫力を保つためにも体の調子を整える必要があったから。日本食の含有する塩分が多いのは、湿気が強いために汗分泌量多く体が無機質を多く求めた結果。現在ではそう分析されていた。
(※一部ライ君の偏見が入っております。)
こうして人がその土地へ対応してゆくために作られた文化。上述したことなどそのほんの一部。長い年月をかけて形成されるものなので当然、一言で語っていいものではない。
だが、その文化のほとんどはとても合理的にできていることは言うまでもなかろう。そうでもなければ滅びの一途を辿るわけだから。仮に不合理であってもどこかで辻褄合わせをしている可能性が高い。それに、そうなっている理由が外交上、つまり人間社会を維持するためだったりする場合だってあるのだ。
だからこそ、外交上の事情もなくこんな不合理でちぐはぐな文化を築くこの国へひどい違和感を覚えた。
しかし、改めてこの混ぜ方はひどい。水が豊富な国であるにもかかわらず、何故わざわざ揚げ物など油メインの料理を多くしているのか。夏場は高温多湿であるらしいのに建造物は風通し最悪なコンクリート製メイン。ついでだが街中は城の外装同様地中海風の白亜に保たれた民家が並んでいる。山間部なのに地中海。しかしなぜか屋根の形だけはあのブロック状でなく、東北とかで見られそうな急斜面。
そして最後に服装はティアンドール。いや、可愛いけど、眼福だけれども残念ながら違和感しかない。だけどなぜそこは統一しなかったとこの文化にすることを決めたやつへ小一時間問い詰めたい気分になった。
まさかとは思うがこの世界の元データは日本の誰かが考えたファンタジー小説とかではないよな?
(※惜しいですがいい線いってます。)
またもや話がずれた、とりあえずそんな疑惑は一旦置いておこう。
そんなわけで、色つきの美しいタイルの張られた珍しい水洗式トイレはちょびっとだが進みつつある文明を匂わせる仕様となっていた。
そういうのを見ると思う…ああやっぱり文化的な暮らしとそれを目指せる“人”っていいなって。
【現在】
かつては美しかった廊下は瓦礫山と化していた。
白い壁は粉々になっているところからブロックになっているところまで様々。当然繊細な出来の彫刻も見る影もない様子。寄木細工の台はかろうじて原型をとどめていればまだマシなレベル。
ただ、職人の意匠とかそういうのは全部失われていた。
なお、一箇所血だまりができているが気にしなくていい…というか見なかったことにしてほしい。ちょっと失敗して瓦礫で派手に額を抉ってしまったことが原因だ。
証拠隠滅したいのだが、できそうな奴は別の場所で今暴れまわっているので水を差したくないのである。
そして肝心な厠があった場所。そこは更地…ではなく、茶色い悪臭源が占拠した状態になっていた。
かつて表面上は少なくとも綺麗な水洗式トイレだったその場所。
今はうん●塗れ。現在進行形で抉れた地面の隙間から茶色い水柱?泥柱?が昇っており、それが茶色の池を作り出していた。また周囲は滝付近みたいに霧状の液体?物体?が降ってきており悪臭が凄まじい。
だが、それに加えてハエなどの不衛生な場所にいそうな虫がチョロチョロ蠢いていた…今って季節的に冬のはずなのだが。冬ってなんだろう?寒波ってなんだろう?
そんな、見るに堪えないひどい光景。
それをバックに今も意識を乗っ取られた衛兵や給仕が次々1人の8歳児(=私)目掛けて武器暗器食器掃除器具果てにはヘッドドレス等々を向けていた。当然対抗して肥溜め一歩手前へドボンさせていく私。
いや、確かに戦闘行為は行っている。
今も剣を跳ね返しつつその勢いを生かして相手の鳩尾へ一発膝蹴りをお見舞いし、相手が倒れる寸前足場にして宙返りしながらトマホークとバターナイフをやり過ごした。当然飛んできた方向へスタンガンぽい魔術式を返すのは同時進行で行った。
剣の打ち合いも魔術式での攻撃も、相手の攻撃を躱すのも戦闘だ。紛れもなく戦っていることに入るのだろう。
だが背景がひどすぎてこれはもう戦場どころではない。立派な惨状だ。
参考までに、以下惨状の意味を載せておく。
惨状。
むごたらしい/いたいたしいありさまのこと(◯×国語辞典より一部引用)
白亜の宮殿が肥溜めの泥試合会場に様変わりしたこの状態。果たして戦場と惨状、どちらがふさわしい言葉か。言うまでもないが、『惨状』だ。
余りの刺激臭に涙と鼻水が滝のように流れてくる…ああもうだめだ。
いい加減にしとかないと鼻が馬鹿になる。すでに頭の方はちょっと頭痛…というかおかしくなっている気がする。主に思考とかが臭いしか出てこなくて。
とりあえず魔王と共同開発した超絶最強ガスマスクを顔に装着し、さらに自分の周囲のみへ空気清浄機能を付与した結界を張った。そこから慌てて懐から出したティッシュペーパーで目元と鼻をこすった。
…ギリギリセーフ、鼻水間に合った。
拭き終わってさてどうしたものかと思案していたら、バタバタこちらへ慌て駆け寄る足音が聞こえた。ああこれ味方相手にわざと聞かせる音だな…だとすると。
「ライ、無事か…って、クサ!?」
鼻水が間に合わず、はな垂れ小僧になったロラン…黙ってティッシュあげたら慌てて拭いていた。そしてこちらの怪我を見てなんだか納得したような顔をした。
なるほど、怪我したのが契約経由でバレたか…まあ不注意だったことまでは察しなかったらしいが。もしや心配かけた?
報酬、少しだけおまけしとこう。
しかしなんで本当に、こんなことになったんだろうか…
次回こそ多分戦闘回です(嘘)




