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もし〇〇が仲間になったら(〇〇式異世界英才教育〜憎まれっ子よ、世に憚れ〜)  作者: 平泉彼方
第2章 波乱な8歳前半の歩み(〇〇式英才教育基礎レベル実践編)
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86 乾物1袋分の救国(その2)

 読者のみなさまどうもこんばんは。今回はちょっとだけいつもより長めです。



 それでは今週の不憫第2弾をどぞ!




 豪華絢爛な見た目の柔な作りをした普人族の“城”は、はっきり言うが我々からしてみたら触れれば簡単に崩れる砂上の楼閣と同義。今も力を封印しているが、正直なところ不安しかない。


 アタシ、別に諜報とか潜入とかそんな得意な方ではないのに…


 初回の依頼は身内兼師匠だと言う魔王から匿ってくれなんてとんでもない内容。次は数種類の薬草の場所。それからちょこちょこ地域ごとの噂話にはじまり裏社会の内情とか現時点での世界情勢を教えてくれなんていう内容。そんな、小さいか大きいか判断し難い情報関連の依頼が来ていた。


 確かに普人族よりそういうのは得意だが、同じ魔人でももっと特化して得意な奴は掃いて捨てるほどいる…依頼に応じてくれるかは別として、と付くだろうが。


 そして前々回と前回の依頼は珍しく少し物理な内容。


 変態ショタコンストーカー男への鉄槌だっただろうか。ストーキングしてくるしつこい変態を飛ばす。できれば命の危険がそれほどないけど確実に寿命縮みそうな場所へポイ捨てしてくれ。そんな内容だったと記憶している。



 そして今回は王宮で存命中の王家全員の魂を回収すること。



 ラインハルト(依頼主)からの依頼は毎回とんでもない…というわけではない。内容的に問題がありそうでもだいたいちゃんと理由がある。それをちゃんと依頼を受理する側のこちらへ説明してくれる。


 けど、一聞しただけでは大概な依頼が結構あるというのも事実。


 例えば初回の依頼。曰く、魔王から匿ってほしいと。最初聞いた時は耳を疑った。魔人族及び魔族の王たる魔王様にこんな小っ端魔族が逆らうとか無理なのにふざけているのかと。


 目が本気(マジ)だったのを見て冗談で言っていないことに気付いたが。初対面なのにコイツ頭大丈夫かと真面目に心配したのを覚えている。


 余談だが、あの依頼も出だしはともかくとして、結局(魔王様がらみにしては)穏やかな内容だった。


 具体的には菓子の素材を探すために魔王様(の視界)から一時的に匿ってほしいということだった。魔王様へサプライズとしてお出しする予定だった作品を試食と称してあの悪霊な父親さんに食べられたらしく、新たに作り直す必要があったとか。


 依頼完遂した後依頼料とは別に余計に作ったからと菓子をくれた。その菓子…確かほうれん草のシフォンとかぼちゃプリンだったか?それが美味過ぎたことが我ら兄弟の契約理由だったりする。


 あれを食べた後では他の菓子を美味しく食べられまい。普人族の街へ潜入した際にしか食べられない極上の菓子でさえも犬の餌以下に思えてくる。


 今では弟が上手く交渉して長持ちする食べ物を依頼の対価にしてもらうことが多くなった。



 …とまあ、話が思いっきり脱線したが、とりあえず結局問題になっているのは、奴が、ライが毎回言葉足らずだってことだろう。それ以外は本当に良い契約者だった。それこそ歴代五本指に収まるくらいには。



「けど姉さん、別に試す必要なかったじゃん結局…あ〜あ、報酬減っちゃった。」



 愚弟が何か生意気言ったのでヘッドロックをかましてやった。上に引っ張ってやればグエッと苦しげに啼きながらアタシの腕をパシパシ叩いた。



「…ナマ言ってるんじゃないよ、まったく。我らの歴史を忘れたのかこの愚か者。」



 依頼中でもなければ腕の一本でも綺麗に折ってやるのに…命拾いしたな。そんな風に思い出して納得する弟を見ながら考えた。



「ああ…だがライはあのお方の弟子兼身内兼契約者だからそれは絶対ないと言えるだろ?」


「そう言って油断した結果本当にあの悲劇が再現されないとは言い切れなだろうが…わからないのか?」



 良い依頼主が永遠に良いままで居た例は過去如何程だったか、知らないはずがない。


 驚きの0だ。


 我々を呼び出すのは大体が純粋無垢な子供の普人族。そしてその子供が成長して老けた大人。


 子供の頃出会うのは偶然。そのほとんどは魔術式へいたずら書きをした結果の副産物。ライなどの例外を除けば意図せず我らを呼び友となることが多い。


 まだ常識などの柵もない見たままを信じる子ら。それは長い刻を生きる我らからしてみるととても微笑ましく愛らしく、つい彼らの可愛い願い事を叶えてしまう。彼らもまた、我々を姉や兄、果ては親へ対するように純粋に慕ってくれる。


 だが、成長すると豹変する。幼少の美しい記憶に味を占め、我らを酷使した後ある日いきなり恐れを抱いて悪者として闇へと屠らんと動く。


 現に、奴らの騙し打ちで命を落とした同朋は多く存在した。



 だけど、それだけではなかった…



「忘れもしないよ。勇者とかいう不法侵入者との不毛な戦いの上で一方的にこちらのせいにされた件…というより忘れられるかよ。」



 普人族のどの寝物語にも必ず出てくる魔人族。そのほぼ全員が例外なく“悪”として描かれている。


 ある物語では子供をさらい生贄として苦しませ愉しんでから喰み、またある童話では城を一夜で破壊し尽くして同日異国の王族に討たれる。


 ある歴史書では人を壊す悪しき魔薬は魔人族がもたらしたとされており、ある伝承では洞窟や深淵、あるいは廃墟を創り人を惑わし入れて糧にすると記されていた。



 …念のためここではっきり言っておくが、魔人族は普通人族とそれほど大きく変わらない性質の種族である。それこそ寿命が長い事とちょっとばかり頑丈な体と魔力量を持っていること以外はそれほど相違ないと言えるだろう。数で言えば圧倒的に普人族の方が多い。


 強いて違いを挙げよと言うなら普人族と比べて姿形や生態が少々異なるものが数種存在することと一部が魔族をも従える王、すなわち魔王という座に就くことが可能(・・)ということくらいだろうか。食生活や繁殖方法はそれほど変わらないし…確かに我々は好戦的だがそれだって別に魔人族に限った話ではない。血の気の多い奴は他種族にも多かれ少なかれなれいるはずだ。



 それともう一つ。これとても重要なことだが我々は報復こそ行うが、積極的に相手を殺しに自ら行くことはない。つまり、戦争をこちらから仕掛けたことはない。


 相手はこちらが始めたと主張しているが、事実は逆。



「…確かにあの恩知らずの件はゼッタイ忘れないよ。」



 それで失ったものは大きすぎたからね。


 そう私に同意をする弟は、だがそれでも我らと契約を交わす今時珍しい普人族…と思しきラインハルトを疑うことへ納得していない様子だった。



「けどやっぱり姉さんは気にしすぎだよ…だってライはちょっとアレ(・・)でもう既に普人族としては異質すぎるでしょ?」



 育て親2人がアレだったせいで契約した頃には既に普人族というよりもう『ヒト』というカテゴリーに分類できるかどうか怪しい状態になっていた。今も深く触れるのは危険と契約術式から探っていないが、確実に人型をしたナニカとでも呼べる存在である。


 だが、それがこれから進化するか退化するか。そんなことわかるはずないだろう?


 すなわち、我々を騙し利用する側になるかどうか等。


 一度騙されたことがあるこの身としては慎重にならざるを得ないと思うのだが…私がしっかりしていればいいか。今以上に姉らしくしっかり弟を守らねば。













 …などと思っているのだろうなぁ。


 姉の顔にそんな感情が浮かび上がっていたので苦笑してもうこれ以上逆らうのはやめておいた。感情的になったら一度頭が冷えるまでは放置しておくのが最善。


 ライの報酬は………滅茶苦茶惜しいけどしょうがない。



 けど実際、魔族・魔人族が普人族からいいように利用された過去は事実だったりする。



 我々を見てわかると思うが、魔人族の家業はその大体が傭兵である。特に力を持った者たちは持たざる者たちを守ると同時に異国で外資を稼いで足りない分を稼いでいた。この辺は今も昔も変わらない。


 だから、普人族にはあまり知られていないが冒険者ギルドには我々の血をひく者が多く所属していたりする…まあ血筋があるだけでだいぶ普人族寄りであることは否定しないが。


 我々が異国の地で傭兵稼業ができるのは単に我々の一部が普人族より肉体や魔力に優れているからである。失礼な言い方だが、普人族は弱い。彼らが1万集まったところで上位の魔人族2人の手にかかればあっという間に全滅をすることになる…我ら姉弟ならば2000人程度で勝負になるか?


 なら、そんな力を使って侵略しないのかって当然疑問に思うかもしれない。


 何度も言うようだが、我らは自分からは争わない。


 我々の先祖も元を辿れは農耕文化を築いていた。その名残なのか人間関係は円滑にすること、争いをなるべく省いて人の和を大事にする文化が残っている。特に、厳しい環境を必死に開拓し暮らしていたためか、今でもいわゆる『助け合い』の文化は根強い。


 当然だが、一方的な闘争も弱いものいじめも原則として禁じられている。


 そんなことしたら村八分にされることは確実だろう…そもそもそんな誇りを汚すようなことをするような面汚しは存在しないが。するとしても、そいつは理性無き魔族か魔物へ即堕ちることになる。


 それに、魔人族はほぼ例外なくその強大な力(権限)の対価としていくつか制約があったりする…ここでは詳しく語らないが。



 そんな理由などから普人族の治める地を襲わない。むしろ守る方へ力を貸す方の家業として真っ当な傭兵を営んでいた…少なくともそのつもりだった。


 しかし、我らの先祖は騙された。


 詳しくは語らないが、結果的に対価を貰えばなんでもしたそうだ。それこそ誘拐・暗殺や諜報活動、果ては戦争を積極的に起こしたりするなど。


 …気付いたらやめろよと思うかもしれないが、魔人族に取って契約とは約束。それはすなわち信用の証であった。だからこそ、契約や破ってはならない。結局、相手が対価を支払う以上契約は死守する必要があった。


 そのため確かに一部は人を積極的に襲う方へ力を貸していたのだろうと思う。


 けれど、歴史上都合良く全部(・・)魔人族のせいだったとなすりつけられたのもまた事実。同時に我々の恩恵で解決したことなども記録に残さないようにした、あるいは積極的に消されたことも事実。



 そんな事情から普人族は侮れない、そんなことはわかっている。



 けど、だからと言ってボクたちが普通の普人族から逸脱した価値観を持つ(・・・・・・・・・・)ライを疑うのはおかしな話だ。


 どういうわけなのかわからないが、初めて会った5歳より前からすでに人としての常識や価値観がある程度出来上がっていたらしい。今も更新はされているだろうが、根底は変わらないようだ。



 その本質だが……魔人族であるボクが心配するレベルで底抜けのお人好しであった。



 初めて会った日もライは古の魔王様の好む素材で菓子を作っていた。口では文句を言いながらも、なんだかんだ尊敬して師と慕う魔王様のために魔王様の誕生日を祝いたいのだと言っていた。


 だが、あんな相手にそんなことしてやる価値あるのかと、ボク自身はいささか疑問だった。


 ラインハルトが魔王様と契約したのは確か3歳で同年から教育が始まったと言っていた。そしてその内容を聞いて、ボクは生まれて初めてあれほど哀れんだと思う。


 はっきり言ってしまうが、魔王はライの生存をあまり考えずに指導していた。というか、そうとしか思えない。


 たまに手助けとして呼ばれることもあったが、その度に修羅場を生き抜いてきたこのボクでさえ何度も死にかけたのだ。そんな場所へ1人ほっぽることは、果たして修行なのか?


 結果的に生存できたが、それだって奇跡的だったと言える。


 幼少期、そんな血も涙も無いような殺伐とした中を生き残ってきたラインハルト。戦闘職を選んだ我らの一族でさえ年少には過保護と驚かれるほど大事に保護するのに。訓練はもちろんやるが、それだって危険なことは極力避けるようにしていた。


 なのに、なぜあれほどお人好しで呑気でいられるのか…面倒見も良く一度拾った相手は大事にするし、契約に対しても対価以上をおまけとしてつけてくれたりする。


 たまに、ボクからぼったくられるし…



 そんな相手が簡単に己の価値観をガラッと変えて契約した我々を騙す?そんな器用なことができやつじゃない。



「…姉さんもわかってるくせに……」


「ん、なんか言ったか?」


「……なんでもないよ。」



 そうこうしているうちに見つけた。見せてもらった魔宝石っぽいものと同じ波長の結晶だ。


 道中驚いたことに何事もなく平和であった。罠も妨害も、さらには結界もない。軽い戦闘を覚悟していたのにそれもなかった。何より、敵へ一度も遭遇しなかった。


 もう一度言うが、敵が一切いない状態であった。


 そういえば、さっきからちょっと遠くで戦闘音が聞こえているとは思っていたが…



「…全く、そういうのをボクらにまかせとけばいいのに……無茶しやがって。」



 ついでに面倒がないようサービスしておくか。


 ラインハルトへの評価だが、姉と意見が合わない点は実を言うともう一つある。それは、契約主としての評価。


 確かに契約主としては最高だよ。


 対価はちゃんと払うし、働きに応じてそれ以上を『ボーナス』と称してくれたりする。おまけにこちらが困っていそうだと勝手に察してわざと対価渡すためだけに依頼してくることもけっこうある。それも、自分でもできるようなことをなんだかんだ理由つけて…姉さんは上手くごまかされているけど。


 それ以外にも今回のことからもわかると思うが、なるべくボク達が怪我しないように毎回気を使う。たぶんあれはボクが一度ヘマして本当に死にかけたからだと思うけど。


 それにしたって契約主が身を犠牲にしてまで対価もらっているこっちを守るって…いや、確かにその分依頼達成率があげられるからこちらとしては喜ぶべきなんだろう。実際姉はラッキーくらいには思っているだろうし。


 けど、ボクはこう思った。



「…ったくもう!契約甲斐のない契約主だよホント、こっちの気も知らないで勝手にやりやがって!!」


「?どうした?」



 僅かだが、血の匂いがする…たぶん契約主(ライ)が負傷した。



「姉さんこのまま真っ直ぐ行った突き当りの壁、それからその右側の通路に依頼物はあるから回収よろしく!」


「お、おう!?」



 困惑した姉へもっとちゃんと説明したいが今は後だ、後。



「ボクは契約主を保護しに行くから、じゃ」



 …押しかけだけど、いいよね?こっちをめちゃくちゃ心配させたんだから。当然その分後でちゃんと請求しないと。


 そうだな…対価としてフォンダンショコラ今度焼いてもらおう。



 裏タイトルは『温度差その2』ですかね。


 以下、一応(弟君が何であんな認識になったのか)補足です。




 ライくんがどこぞに放り込まれた件ですが、魔王様暗殺魔王様なので隠遁技術がすごすぎて契約主のライ以外は誰1人心配で来ていることへ気づきませんでした。また訓練も契約に従ってライの死なないギリギリを見極めています。その上で魂と肉体どっちも操作可能になった最強の親父さんがいるので死んですぐなら助けられる状態にあったのです。


 だからこそ、むしろあんな風にライ君を心配していることを知られたら逆に弟君が心配されるでしょう。確かにお人よしですが、ただでは転ばず必ず何か掴んで帰ってくるほどには強かな面もある…はず?


 なお、弟君が死にかけたのは長耳フォレスト、あとはご想像にお任せします。

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