7 裏ギルドへの軌跡①(2019/4/5改稿)
読者の皆様どうもこんばんは、今週の不憫第二弾お送りします。
それでは本編をどぞ!
これは、親父関係者以外の幽霊と契約する少し前の出来事。
さて、裏ギルド行きましょうとは言ったものの、裏ギルドって何処に有るのだろうか? まさかその辺に歩いている住民へ近所の道や店聞くみたいに尋ねる訳にもいかないしな。下手をすると警邏隊行きとなる。
実体化している親父もどうやら分からない様だ。この辺の地理が前降りて来た頃と比べて随分変わったと言われても知らんがな。本当、どうしたものか……どうしようもない。
そうしてウロウロ迷走していたら、いつの間にか目前に広がるスラム街。
ボロ屋が無秩序に立ち並ぶ貧民街。前世で経験した中南米の貧民街も中々だったが、どこもまぁ酷いものだ。
その間に居る大人たちの目には生気が無い。明日への気力が感じられず、殆ど死人同然の様な有様。目につくのは打ち捨てられた老人や子供たち。そんな中へ一部死体が混じっているからか、或いは中世らしく普通街以上に色々垂れ流し野ざらしだからか、異様な臭いが漂っている。下手するとこの臭いへ病原菌も混じっているかも知れない。
ガタガタと痙攣して倒れるズタボロな老人。追剝ぎにでもあったか、碌な物を持っていなかっただろうに。真新しい血が生々しく流れているが、それ以上に恐ろしいのはそこへ沈む手の細さ。多分あれはもう遺体。視線の先には力なく横たわる老人……浮遊例の霊根がまだプラプラしている死にたてホヤホヤか。
尚、横たわった小さな子供や怪我人らしき若人からも同じ様な現象が見えた。余計なものまで見えるのはこういう時不便だ全く。
気分が悪い。
〈おなかすいたよ。〉〈さむい……〉
〈まだ死にたくない……〉
〈楽になりたい、もう苦しいのは……〉
声が響く。亡者の声が。うめき声、嘆き声……バリエーションは嫌なほど豊富だ。
顔を歪め、思わず耳をふさいだ。目も閉じた。
もう聞いているのも痛々しく、辛い。吐き出しそうだ。異世界で長く暮らしていると言ってもやっと街へ降りてきたばかりでこれはきつい。地球の倫理観による過剰反応が心を蝕むと同時に、だが深く安堵ももたらした。まだ私は『日本人』だと。
あの地球人時代の記憶が嘘ではなかったと。証拠にこうして私は苦しんでいるのだから。
呼吸を落ち着かせて目を開く。
〈少年、儂が見えているのか?〉
途端、迫ってくるさっきまで横たわっていた老人。頭に斧が刺さったままで痛々しい。死にたてホヤホヤだからか、死んだ姿そのままが投影されている様子だ。
〈見たくて見えているわけではないけど?〉
顔を歪めると、老人だった青年は声を上げて笑う。イケメンめ。つか、この世界イケメンしかいないのか畜生。
ちょいとワルそうな表情で、すると青年はこういった。
〈さっきちょこちょこ暗殺ギルドだの裏ギルドだの聞こえていたんだが、行きたいなら連れて行ってやろうか?〉
その代わり契約してくれない?
そんな青年がドン引く程早急に即契約した事は言うまでもない。
案内人ならぬ幽霊ゲット。ついでに周囲の幽霊もまとめて契約。青年(それと空気になっていた親父)は何故かさらにドン引きした表情浮かべたが、これだけゆるい条件で契約できるならしたほうが得だろうに。全く。
美味しいご飯をおなかいっぱい食べたいなんて、とても健全で緩い願い事だろう?
・・・・・・・・・・・・・・・・・
裏ギルドへの道筋はできた。そこまでは良かった。
ま、予想以上に辻契約してくる幽霊が多かった事は別として(十分問題だと騒ぐどこかの親父と契約者達は見なかった事にした←)
さて。目下の問題としては、多分私達の後を付ける人が居る事か。予想はしていたが、多分余所者がトラブルを起こさない様にとかそう言う理由ではないだろうか。いや、逆にトラブルを起こすためか?
〈…親父〉
「ああ、分かってる。」
親父の問いかけに答えると、突っ込んで来た若者の裾を掴んで地面と激突させた。恐らく先走ったのだろう。御陰様で相手の力のみで倒す事が出来た。
「左右の屋根・左の影・右の物置・正面の通り・背後……全員纏めて相手してやる。
どう言った用件か知らんが此方へ手を出すなら容赦しない。」
私の言葉でビクリと揺れる様子から、素人なんだろう。だがこれだけ人を集めているという事はただの追い剥ぎ目的とは思えない。何より幾人か油断ならない気配を感じる。
「親父、他もいる。」
任せとけ。
返事と共に放たれた濃厚な殺気。昼間だというのに周囲の温度が急激に低下した。同時に体温が奪われ、凍死直前であると身体が錯覚する。人類の根源的な恐怖を齎す様な畏れ、と称すべきか。
だがこんなものは序の口。
今の親父が本気で殺気を放つのは結構な大事につながる。信じられないかもしれないが、氷河期が来る。それこそ、翌日には周辺諸国にまで雪嵐に見舞われる程度に。
前から思っていたが、正に天気予報士と受験生泣かせな殺気である。余計な事を考え現実逃避しつつ、油断なく周囲を見回す。
親父の軽い殺気に中てられた雑魚は泡を吹いて気絶した。これで選別完了。残った連中はプロと見なしてよし。親父のドヤ顔を視界から外しつつ、実力を測る。
襲った原因は想像付く。裏ギルド何処だろうと話していたのを聞いて警戒→排除しに来たところか。或いは裏ギルドに相応しい相手か実力を測りに来たか。
後者なら好都合、前者なら脅す。
警戒はされるのは当たり前。裏ギルドは表向き『存在しない組織』であるから。知る者は自ずと後ろ暗い何かを持つ者と限定される。その上余所者だ。
しかし、だからと言って此方へ危害を加えるなら容赦しない。特に初対面の第一印象は重要、舐められたら終わる。それなのに私は7歳。このままだと絶対子供だと侮られ、絡まれる。時間無いのにテンプレ消化している暇もない。
我が家の魔王様が怖いからとか断じて違う…やっぱり嘘です。そんな雑魚に侮られたんだって知られたらどんな修行が待っているか。想像するだけで膝が震えて来た。
一旦思考を切る……ま、簡単な事だ。いつも通り向かって来る敵は無慈悲に狩って、十分凹してやればいい。
仮にギルドの連中が本当に実力測りに来ただけなら多分合格貰える。実力が中程度の戦闘集団に包囲されても逃げる以外に選択肢を持てる事だけでも、十分強者と認識した筈。
親父がいなくとも私はこの集団相手に1対他で勝てる自信しかない。スキル構成やレベル的側面から見てもかけ離れているのだから当然だ。
勿論親父と魔王が同じ規模の集団で襲って来たら真っ先に戦略的撤退謀るがそれは私に限った話しではない筈。個人単位でも国容易に潰せる奴相手に一般人連れてどうしろと?
一旦それは置いておくとして、実は懸念もある。
さっきの制圧自体は殆ど親父1人がやった。残念ながら私自身の戦闘を実際に見せていない。時間がないとはいえ選別頼んだ私が言えた事ではないが。
だが考えても見て欲しい。あの殺気を私も正面に浴びているのだ。その中で直ぐ動ける臨戦態勢を取る。一見簡単そうな事だがある程度実力がなければ不可能な話しだ。
そして、それがどう言う意味を持っているのかまさか知らない筈とは言わせない。相手はプロなのだか「おい、アイツが1番弱そうだ、先に潰せ!」……どうやら見当違いだったようだ。
舐められたら駄目だよな?
侮られるなら容赦しちゃ駄目だよな?
勿論同僚になる相手かもしれないから生かしておく。だけど舐められない程度に凹しとかないと後から絡まれる。絡まれたら…いや多分今の時点でも魔王と親父に怒られる、どんな理不尽な修行が待っているかな……なら自重しなくていいや。
八つ当たり、付き合ってもらおう。
「……メテオ改」
ヒュルルルルルルルル…チュドォォォォォン
山を燃やしたバージョンが本気なら、これは改造して被害を爆風やアフロ程度に留めたもの……やばくても、少し地面がえぐれる程度だ。人に使っても大丈夫、問題ない。
ギャアー
ナンカフッテキター
ニゲロー
逃げ惑う人々。やられる覚悟でやりにたなら、最後まで持ち場から離れてはならないというのに。
だが、このくらいはいいだろう?
私を馬鹿にしたのだ。小物だと、小粒だと。今なら山椒やミジンコの気持ちがわかる。鷹の爪だろうがミドリムシだろうが、キレたら辛いだけじゃ済まさんからな。アハハハハハハハ
「メテオメテオメテオ…」
ヒュン、ヒュン、ドガガガガガ
コッチキタゾー
ツブレル、ドケ、ヤメロー
ギャース、コッチクンナー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
気付いたら周囲が阿鼻叫喚となっていた。魔王の魔改造したメテオ改が原因か。追尾と当たったら軽く爆発する機能のついた前より凶悪な魔術。小型化した為かマグマとか発生していない。
ただ、周囲への被害は止まらなかった模様。家屋は見事潰れていた。屋根なんかは見るも無惨に穴だらけになっている。元々ボロかったからこそ最終的に崩れたか。
幸いさっき襲って来たオッサン達以外人が居なかった為か人的被害はは最小限で済んだ。被害と言えば、ボロボロになったオッサン達がいつの間にか犬神家になっていた。意味が分からない。犬神家の要素が分からない。そこはアフロじゃないのか? 念のため魔王へ改造がうまくいっていなかったと報告しておこう。
直後、親父に溜め息吐かれてズレていると指摘された。
解せぬ。爆発ネタの鉄板なのに等と現実逃避しつつ、取り敢えず引っ張り上げて汚いオッサン1人に花瓶から水掛けた。花瓶はその場て作った適当なものなので、デザインはシンプル……作風は宮川香山の琅玕釉蟹付花瓶、但し蟹はデフォルメしてある。
これで起きなかったら斜め45°からチョップするしかないか。手刀に魔力とか闘気とか色々送って準備しておく。最大出力だと被害が出るので約1/8程度にしておく。
「いや、起きたからもうやめてくれ!」
水のしたたる汚いオッサンの、とても慌てた様子で開口一番に放った言葉。何を止めて欲しいのか主語が抜けていたが流石に可哀想だったのでやめてあげた。
次々地面から沸いて来たオッサン達が安心した様に力を抜いたが甘い。
「じゃあ何で襲ったか言って?」
力供給スタンバッて手刀を向けて聞いてみた。脅したとも言う。この手刀的な技だが、普段からよく使っているので馴れている。食材がスパスパ切れるので主に解体等、重宝しています。
「ちょっ!?ああもう、ギルマスの依頼だよ、依頼……ったく、無茶な事させやがってあの糞カマ野「あら、アタシになにか意見するつもり?」…何でもないッス。」
崩れた建物の影から、また独特な雰囲気の物体が出現した……この生き物は一体全体どう分類すればいいのだろうか? 某青いつなぎ姿の阿●さんとは違う類だが、兎に角濃い。メイクとか香水が。
日本だったなら存在するだけで御近所さんから苦情を受けるだろう。今も鼻が曲がる通り越して目が痛い。ゾンビ犬より酷い。
思わず涙腺崩壊しそうなレベルであった。
「あら坊や可愛いわね、今夜どう?」
いや、どうと言われても……
それよりですね、視線がねっとりしていて怖い。手をワキワキさせながら近付いても何もあげるもの…あ、そう言えば魔王にねだられて作ったクッキーがあった。丁度ラッピングされていたし冒険者ギルドのお姉さんも喜んでいたからいいかもしれない。
「今夜無理、でもオネエさんあげる。」
第一印象大事。
特に初対面、偉い人には付け届けしておけば大丈夫だとあの経済学専攻の偉そうな貴族の霊が言っていた。幾ら臭くても、或いは幾ら気持ち悪くとも初対面相手なら我慢しろ。御偉いさん相手ならば特にだ。
その教えを忠実に私は魔王の為に作っておいたクッキーの余りを渡した。残念ながら山吹色のアレは入っていないが大丈夫だろう。
だけど、手に置くなり下を向かれた……え? 足りない? 仕様がないからともう一袋置く。次いでにあざとく首をコテンと傾げて上目遣いで見上げる。涙目になっているだろうし丁度良いだろう。
「…お」
お?
「……ト、トレビアァァァン!」
ブシャァァァ…
野太い声で叫び、鼻血吹いたと思ったら白目剥いて倒れられた……痙攣してそのまま沈黙。効果は覿面だったようだ、攻撃的な意味で。
第一印象最悪だなきっと。これから裏ギルド加入予定なのにどうしてくれよう。
そうだ、後であの幽霊捕まえたらアイアンクローの刑だ。
と言うか今回の事含めて全部アイツが悪い。冒険者ギルドの情報も持ってなかったし親父の敵対派閥の元貴族だったし、典型的な悪徳貴族だし。憎まれる要因は多くとも惜しまれる要因は少ないし、丁度いい。悪い子にはお仕置き決定★
すると視界に入るのは逃避し出した悪徳貴族の後ろ姿。尚、足はちゃんと無い(幽霊だし)。確保してブタ箱にでもぶち込んでおいてと要望を出すと、スラムの元浮遊霊数人が快諾。即行で追って行った。
そしてあっさり捕まった。報酬は数名追加で今後も傘下に入れて欲しいと言われたのでオッケー出しといた。
その横でずっと親父は何故か頭を押さえて振っていた。頭痛でもするのだろうか。気圧は変わっていないし原因不明だが痛み止めくらいは渡しておくかとポケットから頭痛薬を取り出す。渡そうとしたら疲れた様に大丈夫だと言われた。溜め息まじりに。
もしかしたら風邪なのかも知れない。幽霊が風邪引くかどうか知らないが。ここの所冷え込んで来ているしあり得る話しなのかも知れない。得に親父は生前の貴族の礼服姿、コートとかも着ない。北国では自殺行為である。十分あり得るな。
今夜の晩ご飯が生姜たっぷりの鶏鍋決定した瞬間であった。
さて、今週第二弾の不憫は誰に取ってのもだったでしょう?
それでは次回もどうぞ宜しく御願い致します。




