76 8歳児による金策講座 in 異世界(その1)
読者の皆様投稿遅れて申し訳ないです。ブックマークありがとうございます!
さてそれでは、今週の不憫をどぞ!
表通りを少し進んで行くと、先ほど通った際に目をつけた丁度良い塩梅の『隙間』が目に入った。建造物と建造物の間には最低成人男性2人分が入れる距離があり、かつ先が見えないほど昼間だというのに薄暗い状態となっていた。
ああこれならいけるか。
しかしどこにでもなぜこんな危険な入り口がこんな賑やかな中央通りに限って存在するのだろうか。毎回疑問なのだが、きっとそれがこの世界の仕様なのだと半ば諦めている。
薄暗い中を進んで行くと、無数の光る目がこちらへと向けられた。これはあれだ、よそ者へ警戒するような目だな。ゆえに、お供え物をひとつ亜空間バッグから取り出して置いた。
あれだ、北海道土産の荒巻き鮭…ではなく我が家の近くで放し飼いにしている海賊と海坊主とクラーケンが時々持ってきてくれる鮭っぽい何か。
ぐぬぬ…いつか絶対白いご飯見つけてやる。今はまだムニエルとかスモークとかで食べるしかないのが悔やまれる。
同時に裏ギルド付近でもらった通行証を取り出して見せた。
「あっちでは認められたがこちらでも試験かなんかあるのか?」
明らかに雰囲気が変わった。
警戒は解かれずこちらを見る視線の数は多いも、明らかに先ほどより好意的な目線が増えた。まぁ置いたものが置いたものなので、納得はするが。
「通航料置いておきますね、野良連合ジャルダーク支部ご一行様。」
桐箱から少し離れて一礼をすると、暗闇の中で光る目がズザザザザ…と一気に箱へと殺到した。そのあと数秒もしないうちに箱が跡形もなく消えた。
「ブニャ」
ひときわ大きな個体が出てくると、こちらへ鈍い鳴き声をひとつ。直後…
〈お前のミケジメ料は受け取った…肉球印を持って行くがいい。〉
ダミ声が聞こえたと同時に光る眼の持ち主たちは一匹を除いて去って行き、残されたのは肉球の押された紙一枚。そこにはこちらの古代語で『通行証』と書かれていた。
「フナァーゴ」
やる気ない声で着いてきなさいと言わんばかりの猫に誘導されて狭い道を行く。そして廃墟のドアを通り抜けると隠し扉みたいなのが見つかった。
「ナァーゴ」
着いたわよ。
そう指ししめすように尻尾をドアの側へと向け、こちらを半目で見てくる猫は、よく見ると毛並みが綺麗であった。そして、ここに来るまでに猫を探していますというポスターに貼ってあった猫の絵に少しだけ似ているような気がした。
…まあきっと気のせいだろう。そういうことにしておこうかな。細かいこと気にしてもしょうがないし、恨み買っていい感じに稼げて情報も集まる場を失うほうが惜しい。
「案内ありがとう。ボスによろしく。」
「ニャン♪」
魚クッキーをひとつあげたら嬉しげに離れていった。やっぱり異世界入っても猫は猫だ。変な能力持っていても猫は猫。裏路地への通行路を牛耳っていても、猫は猫。
…姿形は可愛いが、時にエグいのが彼らの正体である。まあそれがまた可愛いのだが。
とりあえず話は通じるので『ミケ猫連合』とは程よく距離を保ちつつ接するのが一番だ。それに何も、彼らは悪い奴ではない。利益を示せば下手すると人よりもちゃんと返してくれる。
「…確かにあの鮭はあそこの海でしか取れない上あれだけの大物、だから冒険料・行商料・ついでに税金込みで最低9ミスリル(=90,000ストーン)の稼ぎ場か。」
ここで湧いて出るチンピラの財布は大体合計すると日本円でいうなら90万円くらいになるかといったところ、ね。後はうまく探せば大物もちらほらいるという感じか。
元手がタダなのでどのみちこちらは黒字だが、いい場所を紹介してくれたものだ。
「さぁてと。お楽しみの時間がやって参りましたぁ、張り切って行きましょう!」
哀れな薄汚い裏街のヒャッハーどもへ攻撃【睨めっこ】を発動。ヘイトがいい感じに集まってきたところでさらにあっかんべーをして挑発したった。
「おいガキ!やるのかアァン?」
芋づる式に次々引っかかってくれる世紀末風厨二ファッションども…いつも思うのだが、あの革のズボンとかシャツって動き辛くないのだろうか。ジャージに竹刀な体育教師ファッションの方が合理的な気がするのは気のせいか?
まあこちらとしてはこう都合なので別にどうでもよし。ついでにお尻ぺんぺんからのお猿さんポーズコンボ。決まった。チンピラホイホイ奥義が14により隠れて様子を見ていた奴らが湧いて出た。
ヒャッハーへの状態異常付与がやばい件。
「おい覚悟はいいだろうなぁ?」
壁際袋小路へ誘導され、というかこちらがあえてやって、見事道がチンピラ雑魚風味の世紀末ヒャッハーで埋まった。きっとどこかのビジュアルバンドのライブみたいにヘッドバンギングとかやれば似合うんだろうなぁなどと一瞬思った。
…まぁ明らかに髪の毛の色が地味すぎてつまらんかもしれないけど。なんでこう、庶民は茶色って決まっているのだろうか…いや、原因は知っているけどなんとなく釈然としない気分にさせられた。
「うん、おじさんたちも覚悟はいいよね?」
さて、収穫量は如何程に。
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「ぼ、ぼうやべで(も、もうやめて)…いぎゃあああぁぁぁぁ!!!」ブチッ
入れ歯を引っこ抜いて、ついでに鼻輪とかピアス…あらぬところにあったやつも込みで回収しておいた。やっぱり弱い連中はいくら集まったところでダメだな。
後でまたアシのつかない鍛冶屋の炉で溶かして加工しようと考えた…武装解除したチンピラの山の上で。
それにしてもなんて場所を純粋無垢な8歳児に暴かせるか。
〈…純粋無垢ってなんだっけ?〉
哲学の勉強をしたいならもっと静かなところで自分の世界に引きこもってやらないとね。なんなら永遠に考えられる場所へ送ってやろうか?などと後外に目線で伝えてみると面白いくらいにガタガタガタ…と震え上がった。
「で、自分世界紀行は終わったか?」
はたから見れば紀行というより奇行。ぶらり遭遇したらゆっくり後ろに下がって関わらないように一目散逃げるタイプです。どうもありがとうございました。
そっと他人のふりをしたことは言うまでもない。
〈俺の扱いが雑な件〉
それはきっと気のせいだよ、多分。気にしすぎると幽霊でも禿げちゃうから気をつけてね。ソースはザビエル…ではなくエストレリータ商会のピエールさん。もう治したけど。リー●21風に。
涙目なオッサンを見ながら、そういえば仕込みはうまくいっているだろうかと思いを馳せた。
なお、このオッサン幽霊の前世におけるあだ名は『キンカン頭』とか『はげねずみ』であったらしい。なんでも、慕っていた主君の暗殺を防げず冤罪を被せられて3日間首謀者に壊滅させられたとか。で、その後成仏せずずっと漂っていたとか。不憫な。
嘘か誠か謎だがそんなことへこだわることは無意味。
ただ一つ思う事としては、地球からとうとう有名な武士戦国武将まで召喚してしまったことを気にするのはもうやめよう、ということ。時々やばい見た目のやつが出てくるけど、あれもきっと気のせいだ。
勝利の雄叫びをあげながら舞う生首複数や色々用心棒をかって出た精神衛生上色々ピンチな落武者ヘアーを視界に入れないよう、そっと背をむけるのだった。スズメ2羽の家紋なんて見えないったらないもん、ぐすん。
なお、猫さんは今の所テイムできないようです…幽霊が多すぎるせいで。




