70 無粋だが、謎解きは焼肉中で(その8)パーチーの裏側と被害者約1名の飯テロ
読者の皆様行間申し訳ないです、明日前2話分は直します。
さて、今回は中盤シリアス後半シリアルになります。それでは今週の不憫をどぞ!
表側で開催された焼肉パーティー。だがこれに全員が参加したわけではなかった。
1人は司会をやっており途中で役目を放棄して自分ワールドへ(意識が)旅立ったピエールさんであることはご存知だろう。彼は結局パーティーが終わり消灯するまでこっち側に戻ってくることはついぞなかった。そのまま昇天しなかっただけ良しとしておく。
さて他にパーティーに参加しなかったのは…(カンペで確認)えっと、ドワーフ棟梁1名とラインハルトの影に普段潜んでいる専属使役幽霊数名・匹であった。幽霊に関しては、ラインハルト自身に付き従う私兵のことである。
またこの他にもパーティー真っ最中存在ごと現実世界から消失した“名無し”のもの数名がいた。パーティー終了後なんとなく人数が減っているのに誰もそこのとへは気づかない、もしくは違和感に気づけていても誰が消失したのかわからないままで終わった。
この2つの出来事は、全くの無関係な出来事ではない。そう、片や復讐、片や八つ当…障害避けのために彼らは立ち上がる。
そうして暗い夜の影に蠢いているモノたちがいた…ゆっくりじっくり、そして確実に相手を葬るにとどまらず存在ごと世界から抹消すために。
現在はその仕事を終えて、主人へ報告に来ている異形の霊。
〈〜〜〜…〉
〈そうかご苦労…残りカスはお前自身かお前の部下の養分にでもしておけ。破棄したら面倒だからちゃんと消化しろ、後できれば簡単に調理してから喰らっておけ。じゃないと腹壊すぞ。〉
御意と文字を浮かべた幽霊は臣下の礼を礼儀正しく取ると、音もなくラインハルトの影へと消えて行った。
上半身は牛、下半身は蜘蛛の形をしたその異形の名は『牛鬼』。不条理なこの世への怨念や憎悪が集合したものとも言われ、異国や異界の海を乗り越えやってきた災いとも捉えられている。あるいはただ始めから存在自体の呪われたものとも考えられる一種の異形。
詳細は不明だが、わかることは影を食べた存在を抹消することと殺されると殺した相手が何であれ取り付いて『牛鬼』にすること。
どうも元日本人の魂を持つラインハルトへ都市伝説や日本の妖怪など『異界』に属するものたちと移動した際同行していたらしい。だが知名度が低すぎて妖怪として存在できず、幽霊…いや、悪霊として存在することになったらしい。
〈だ、旦那…牛鬼の親分は?〉
〈見当たりませんが影ですか?〉
次に現れた牛の頭、馬の頭をそれぞれ持つ異形の霊。
〈牛頭丸と馬頭丸か…ああ、今丁度帰ったところだ。〉
ホッとする2匹。
〈若殿、回収した分は…〉〈処分ですか?〉
〈…お前らの親にも伝えたが、お前らが使え。で、とっととこっちでも力を持って役立てろ。〉
〈〈有難き幸せに存じまする!〉〉
消える2匹。
残されたのは、微妙に生暖かく湿った空気だけ。それも一瞬にして冷たい冬の風によって散らされた。ライは顔をしかめ、そして一つため息をついた。
〈で?得られるものは全部得たのか?〉
低い上質な声が空気振動を介さず脳内へ直接流れる。ラインハルトは背後へ顔を向けた。
その顔は、辛いという感情を隠すために無理矢理笑みを作ったような歪な表情を浮かべていた。
〈ああ…連中のおかげで、後十数匹で常時実体化が可能になるって。『影喰らい』の能力以外はほとんど物理だから早いところ実体化できると助かるよ。〉
〈そうだな。〉
そして、ギリアム(ラインハルト義父)は瓶を取り出した。
〈…忘れないうちにそういえば渡しておこうと思っていたんだった…ライ、撃ち漏らしがいた。次から気をつけろ。〉
〈悪い、助かる。〉
一見すると透明に見えるその瓶には、『クリスタルダイト:ミスリル:神聖銀=1:2:√3』の金属で出来たナイフが確かに存在した。ただ、ナイフ自体は見え辛い状態になっていた。何かがナイフを完全に覆っていたからである。
それは、ブヨブヨした半透明の膜…時折ピクリピクリと小さく震えていた。
〈しかしこれがあれか…意志のない魂というか魂魄分解して出来たエネルギーの塊、ね。〉
〈ああそうだよライ。これは記憶とか人生経験とか意志とか…そんな『個』を形成する大事なものを全部抹消した上で霧散させないためだけに無理矢理何らかの行動・意志に沿った動きを取るよう書き込みを受けた“モノ”だ。〉
フヨフヨしているそれは今直ぐにも消えてしまいそうなほど儚いが、瓶の外側へと強力な殺気を放っていた。常人ならばきっと既に発狂しているか意識を失っていることだろう。
だが、ラインハルトはどちらかといえば悲しそうな顔をしていた。
〈もう元には…〉
〈ああそうだ、こうなった魂はもう二度とその人には戻れない。戻らない。せいぜい成長のために使ってやれ。〉
〈そう…だ、な……〉
辛そうな表情が既に隠せなくなったラインハルト。
“それは既に生き物ですらない『素材』だ”
言葉にせずそう伝えるギリアムと、増々辛そうに顔をしかめるラインハルト。
〈…頭では狩猟で獲った野生動物の肉や皮を素材として使用するのと同じだってわかっている。本当に頭では理解している…だが、〉
バシンと鈍い音が響き、何が起こったのかわからない様子で唖然と吹っ飛ばされたラインハルト。数メートル先で樹にぶつかって停止した。頬を張られたらしく、顔の右半分が徐々に赤くなってきていた。
ギリアムは瓶を抱えていない左手が元に戻していた。その顔は、目は、普段よりも鋭く起こっていることが明白であった。
〈いいから割り切れライ!じゃないと、こいつらが報われないだろう!!〉
むくりと起き上がるラインハルト。服についた土を簡単に払うとギリアムの持つ瓶の1つを取って栓を開く…そうして口元に瓶の口を持って行き傾けた。
そうして魂の原料をナイフごと飲み込んだ。
次の瞬間、『ありがとう…』と言う微かな声が一瞬だけ彼の頭中で流れた気がした。だがそれも、急に強襲してきた激痛により気にかける余裕がなくなった。
〈うっ…〉
心臓と頭を押さえ、中腹部、腕、足…最後に下腹部を抑えてうずくまるラインハルト。ピキピキと嫌な音が筋肉から上がっており、血管が浮き出て、さらに骨までミシミシと鳴った。
しばらくしてそれが収まると、ラインハルトはギリアムの持つ瓶へと再び手を伸ばした。
〈次。〉
そんなやり取りがしばらく続いた。
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「あ、あがああああああああアァアアァアァァァァああああああああああああああああアァァアァアアァアァァアァァァァァっっっっ…」
断末魔のような声を到頭堪えられずに出したラインハルト。既に髪の色は脱色し、元から銀よりだった髪は白銀色へと至っていた。目からは黒い血が流れる。そして口からは青白い息、全身からは赤い血が流れていた。
地面にのたうち回り、おそらく現在も断続的に起こる激しい2つの痛みに耐えていた。己の身体が過剰な力に拒否反応を起こし破壊される痛み。そしてその過分な力で持って無理矢理再生させられる痛みに。
「もう少し、だ…」
ついにライの全身が青白く淡く発光した。同時に破壊と再生の繰り返しは終わった。
「……」
返事がない…いや、返事をわざとしていないだけだなこれは。
「おーい…生きているか?」
「勝手に殺すな。」
ライの前にやっていたボケを実践すると、すぐにツッコミを入った。そして、元の色彩に戻ったライが体を軽く動かしていた。
何も変わっていない様子に驚いたのか、首を傾けた。
「何も変わっていないが…なら器の方か。」
「その通りだライ。」
答えると、こちらへ目を向けた…紅目で。
最近まで段々とくすんできて紅茶色より茶色に近づいていた目は、いつの間にか真紅の目になっていた。その燃えるような紅より血に近い紅は、警戒を孕んでいた。
「これ以上ある…とか言わないよな?」
「さすがにそこまで言わないよ。でないと、死んでしまうだろう?」
宴会で使用した『クリスタルダイト:ミスリル:神聖銀=1:2:√3』金属のカトラリー。これは魂に関わる禁忌を起こした、あるいは起こされた場合、発動して対象者の魂を吸着させる性質がある。
要するに、ドワーフ及びホヒト族などの小人族にいた裏切り者というより元被害者であり加害者になるよう強要された者を吸着させたのだった。
このご一行の責任者である棟梁のみ立会いのもと確認しながら作業を行い、結果的に16名が既に人ではない素材となっていたことがわかった。
「すまぬ…すまない、儂のせいだ……」
“どうか、殺して…いや、消してやってくれ”
魂魄が壊され黒幕の玩具になっていた者達は、棟梁の代わりにと王宮へ向かった者達であった。
「こいつらがこんな…悪用されることに堪えられない。」
ショックで真っ青通り越して土気色になった顔色で、茫然自失となりながらも頼まれたことだった。
こちらとしても、陣中に虫を抱えるのは得策ではないと判断して排除させてもらった。その上消滅させると約束するならどう使っても良いと言われたので利用させてもらった。
「だけどこの金属はすごいな…まさかミスティフコッカスが入っていない素材だけを吸着してさらに食べられるようになるとは。合成樹皮っぽいのにあっちより優秀だな。」
合成なんとかは知らないが、食べられるのは胃袋及び消化力を強靭なものにすること、劇物などを含めた薬物に関する耐性があることが求められる。ああ、それとこれが一番重要だが。
「…ライ、好き嫌いしないやつしかそれは食べられない。」
えっと顔を上げるライ。
「えっとだな…食べると食べた分何かしら副次効果が得られるのだが、食べる必要性は特になかったしそれに…」
「それに?」
「…金属の取り込みが無い分吸収は楽だった筈。」
どうせ後でばれることなので暴露しておく。笑顔も付け足しまあ大丈夫だろう…現役時代はは男女ともに大体これでなんとなかった。笑顔は無料なので楽だったのだがな。
すると、ライは顔を下に向けた…なんだろう、すごく嫌な予感しかしない。
「…そういえば忘れていたよ、親父がくれる(ギリギリ)食べ(られるかられないか瀬戸際な)物は大概劇物か劇物に匹敵するひどい味のものばかりだったね……」
そうして虚ろな目で笑った。
背中に何かがツゥって落ちるような感触がした…ああこれ脂汗だな。幽霊なのになぜ汗が出るのかは一旦置いておくとして、ライのこの笑い方はまずい。今日は何をされる?
「…確か30年もののブランディーだったっけ?」
まだ顔の表情が影になっていてはっきりと見えないが、口調がもう完全に切れた際のものになっている。後、そのブランディー私が小遣いで購入し、ブランディーケーキの材料として渡した…
「あれで作ったケーキは異界の連中にのみ、渡すことになりました。幽霊組はまあ、恨むなら親父へどうぞ。」
あ。
・・・・・・・・・・
翌日、『氷の貴公子(笑)』の二つ名が爆笑しそうな姿になってキャンプから少し離れた場所で埋まっているのが発見されたのであった。
なお、ライくんは5個分の魂(ナイフ付き)を取り込みました。残りは牛鬼たちの分です。




