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もし〇〇が仲間になったら(〇〇式異世界英才教育〜憎まれっ子よ、世に憚れ〜)  作者: 平泉彼方
第1章 7歳までの軌跡(〇〇式英才教育基礎編)
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5 御子息様のためにもご契約は慎重に(〇〇教育協会より)

 読者の皆様どうもこんばんは。


 さて前回ぶち切れたライ君ですが、今回再び不遇な目に遭います。それでは今週の不憫をどぞ!



 私の気絶原因が親父の料理であることが魔王の証言から判明した。約1年ぶりの定番オチであった。魔王と一緒に調理道具を取り上げ、料理作るなと説教しておいた。

 しかし相変わらず恐ろしい威力であった。

 ステータス表示が文字化け起こしている魔王でさえ一口でダウンしているのである。あれだけで耐性系ステが数世紀ぶりに軒並み上がったと遠い目をしながら報告された。

 親父の料理はきっとこの世界の最終兵器なのだろう…よく生き残ったな、私。もう二度と料理させないように頑張ろう。アレは食べ物ではない、食べ物だって認めてはならないのである。異世界に存在する全生命体のためにも。

 魔王も同意見らしく、2人で『親父毒創料理被害者の会』設立を誓った。

 また、魔王のステアップの話を聞いて嫌な予感を覚えたのでステータスを確認した。すると、妙な称号とスキルを獲得していたことが記録に残っていた。

 これは喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。

 それ以前にハイな状態で行った環境破壊でまた一段と狂化もとい強化されていたことへは、本当にごめんなさいとしか言えない。異世界の惑星……名前知らないけど本当にごめん。

 だけど、世界へ害悪を撒き散らす存在は私や親父の毒料理以上に存在したのだと沁みる程実感させられる今日この頃。井の中の蛙で本当に申し訳ない。

 そう、上には上が居たのだった。


「オルラ!もう一度だ!!」


 パシュン、などと竹刀では到底出せないと、出してはいけない音。同時に飛んできた怒号で訓練開始。

 いつも通りの光景だ。

 抉られた大地は不穏な音を立てながら蜘蛛の巣状のヒビが入った。次の瞬間ポロポロと崩れ、音を立てて壁を跳ねる。そして、遥か下に広がる雲を抜けていくのだろう。ここからでは下過ぎて見えないけど。

 魔王の教育はスパルタ式である。

 現在行っているのは主に『基礎運動能力の向上』。別名『全身筋肉苛め』。連日の筋肉痛で既に痛覚が麻痺している。皆知っているだろうか、痛すぎると痛くなんだ。地球時代は知らなかった、知りたくなかったことの一つである。

 可笑しい。

 異世界転生の際希望を聞かれて私は平穏無事な動物王国での生活を望んだことをちゃんと伝えた。なのに、何故こんなところでこんな仕打ちを受けているのだろうか。

 燦々と降り注ぐ太陽の光に焼かれながら、ボーッとしだした意識をなんとか保とうと踏ん張る。魔王の怒号がどこか遠い気がする。

 ……気のせいではなかった。

 魔王が大空を飛んでいる、片手で竹刀振り上げて。逆光なのに見える顔面凶器な笑みがなんとも、折れかけた心へとどめを刺す。

 こんな筈ではなかった、一体どこで人生間違えたのか。



「腕立て1000回。弛んでないでやるぞ、オラァ!」



 魔王の作った契約書へ不用意にサインした事を後悔しながら、今日も日課の急勾配な峠の頂上で逆立ち腕立てを行うのであった。なお、下は雲の海が広がっており、その下は魔境が広がっていることを追加しておく。



◆□◆◇◆□◆◇◆□◆◇◆□◆



 魔王に稽古をつけてもらう事になった件は覚えているだろうか。あのことに関してだが、予想通りスムーズに話は進まなかった。

 親父が参入して来たのである。

 曰く、自分が教育して立派な死霊皇帝にしたいとのこと。初耳なのだが。

 曰く、魔王より元普人族である自分の方が教育上良いだろうと。どっちもどっちと考えてしまった。

 曰く、暗殺術を防ぐ方はいいが暗殺術自体は死霊術で代用できると。だから死霊術とか持っているけど知らん。

 反論できずオロオロしている間に始まった喧嘩。3歳児の私が成人どころか数世紀程存在している人外など止められるはずもない。巻き込まれないよう逃げ回るのがせいぜい。

 仕方なく、唖然と地形が変形したり溶けたりするのを見学する他なかった。



〈俺の息子だから死霊術を…〉


「吾の魔王式暗殺術が…」



 不穏な私の未来(推定)を叫びながら殺りあう2人。

 嗚呼、平和な森はあっという間に更地どころか抉れた盆地になっていく。被害は周囲に留まらず、周囲の地域へ豪雪や鎌鼬(魔術の方ではなく自然現象の方)が発生して拡大。

 もう喧嘩するなら宇宙行けよ。

 魔王と悪霊が本気で戦ったらやばいことは十分わかった。十分理解したのでもうやめて。隣接する国の農家さん涙目だから。

 だがそんなの御構い無しに争うのが魔王と親父クオリティー。

 盆地から穴へクラスチェンジした場所の中央に立つ2人。まだ闘志は消えておらず、逆に滾っているようであった。



「ククククク」

「ガハハハハハハ」



 2人の衝突音と同時にモザイク掛る光景。なんとなくピンク系……いや紅色と白もある。多分グロ注意の方向で18歳未満保護の異世界謎現象が生じたのか。

 だが臭いと音だけは消しきれない中途半端な効果。

 次々メキョやグチョ、ドパパパと勢いよく流れる音が聞こえる。そして鉄やその他グロテスクな臭いが漂ってきた。

 この間、やっぱり地面が抉れていく。

 もうやだこの人達……あ、人でもなかった。やだ、この人でなしー、鬼畜、人外、外道。悪霊、魔王。最強……最後だけ何か褒め言葉になっていた。

 その瞬間2人分の睨みを感じた。

 振り向くと、大怪我して振り返る親父と魔王。タイミングがシンクロする様子を見ると、案外気が合いそうだと感じる。

 そんなトチ狂った感想を抱きつつ、現実逃避した。


 それからしばらく、話し合いと言う名の肉体言語で相互理解が出来たらしく、結局私を最強へ育てようと決定したとか。思わず殴りたくなる笑顔で2人から言われた。

 世界最強の男なんて別にどうでもいい。それより夢マイ牧場、無理なら平穏無事な生活の保障が欲しい。

 そう答えたいが答えられない悲しい日本人の性。所謂『空気読めよ』状態の雰囲気には弱い。ここでは2対1なので最初から分が悪い上、2人とも実力が遥か上。逆らったらワンパンで沈められる自信しかない。

 日本なら児童相談所案件。だけど異世界では福祉が未発達なので保護は受けられない。それ以前にここは人外魔境だった……福祉どころか人すらいない。

 ドナドナドーナと歌いたくなる気分で引きずられた先には机と椅子。机には髪が一枚と魔力の入る特殊インクと専用の羽ペン。



「じゃあ、この契約書にサイン書け。ほらさっさと書けよ!」



 半分脅されながら契約書へ目を通す。

 こういった魔力を感じる契約書は育て親や師範(予定)といえ疑ってかからないと後で碌な目に遭わない。財産より奴隷契約詐欺の手口で多いとか。

 ソースは親父。なのに、親父が悪用しているこれ如何に。

 案の序命の危険とか不味いキーワードがあったので指摘した。強面が迫って来ても負けない強い心を持て。命掛かっているので気持ち萎えている暇も余裕もない。人間必死になれば何だって出来る。

 そう言っていた親父。なのに、屈しろとは。

 そして顔面凶器のオッサン2名のテヘペロ☆。怖い。ものすごく恐ろしい。悪夢そのものの光景だったと言っておこう。きっとごく一般的な3歳児だったら泣いていただろう。



「うぬぬ……覇者を目指すならこの程度の覚悟普通じゃないのか?」



 だから覇者とか覇王目指していません。



〈そうだ、どうせ目指すなら俺の現役時代みたいな立派な武闘派貴族か俺の息子らしく亡者の皇帝目指せ。〉



 貴族とか面倒だし、皇帝なんて柄じゃない。そも、権力持つとそれなりに責任伴うので素敵異世界隠居ライフが遠のくので絶対無理。それに亡者って……親父よ、私を亡き者にする気なのか(錯乱)



「ふぇ、ぐずぅぅン、ヒック」



 もはや内心を隠すことなく大号泣しながら凄く嫌だと主張。まだ死にたくない、安全第一命大事と訴えかけた…前世と今世合わせて一番必死だったかもしれない。

 断固として譲らない姿勢へ、契約内容変更が決定。

 でもあまり期待しないでおく。常識知らずの人外コンビなのでギリギリ命取らない方向で調整してくれれば御の字。日本一般人時代の私が見たらびっくりの妥協である。

 でも本当、切実にお願いします……命だけは取らないで。思わず膝が震えた。

 だが、やはりどう考えても可笑しい。何をどこで間違えたか。

 平々凡々で地味で力もカネも速度も効率も魔力もまして情熱にも欠ける、凡人然とした小心者かつ一般庶民。そんな私を捕えて覇王にしてやるとか、タチの悪いドッキリにもならないのでは。



「ダメならダメで、それなりに鍛えればなんとかなるものだ。精進しろ。」


〈そうだな……息子よ、ちょっと頑張ればなんとかなるぞ、多分。〉



 無責任な大人の台詞へ項垂れながら、これ頑張るしかないのか等と諦めの境地に入った。きっと今頃目が死んでいるだろう、鏡がないので確認できないが。


 こうして『命は取らない』と言う内容を含んだ契約書をサインした。これ以上の条件は妥協しないと言われたので仕方がない。セーフティーネットがつけられ多分まだマシだと思っておこう。

 そう思っていないとやっていられない。



◆□◆◇◆□◆◇◆□◆◇◆□◆




 それから続く、地獄の日々(修行)。早速後悔している。

 迷宮、魔境、秘境、深淵、海底、空中……酷い日には雪山登山や噴火中の火山を行軍した。下手な地球諸国の武官の実力ならまだ若輩者ながら上回る自信がある。

 どんな修行だったか聞くか?

 ある日連れて行かれたのは豪快にマグマ流れる超危険区域。

 魔王に連れられて数時間、噴火中の火山が見えた日にはこれ終わったと完全に生存を諦めた。そんな私を他所に、魔王はニヤリと笑いながら修行場としてちょうど良い場所だと頷く。

 豪快に笑う声が山彦し、私は顔面蒼白になった。

 そんな私にお構いなく突き進む魔王。必死に追った数時間、追われた数時間。魔物が道中出ても振り返らない外道魔王。

 火山の頂上まで登って一息つく前に火口へと突き落とす鬼畜魔王……内部はSS級のダンジョンだから大丈夫、命の危険は無い。自由落下しながら見上げる魔王のサムズアップは、歪んでいた。

 ダンジョン攻略は、修行だからと追尾式の怖い魔術式の嬉しく無いおまけ付きであった。何度も死んだと思ったことは言うまでもない。


 ある日連れて行かれたのは…目隠ししていたため外の状況は分からなかった。

 現地に着くと暗い建物。人工物だと安心しつつ親父の後を追う…曰く、知り合いの居城らしいので今回は大丈夫なのだろう。信じている。

 信じるものはだが、救われない。

 向かった先は地下。光源が蝋燭から白紫の火の玉になった時点で気付くべきだった、なんかやばいって。

 地下の扉を開くと、光源の無い真っ暗闇が広がっていた。そこへ二つの火の玉。段々目が慣れてくると、その光源の正体がわかる。大きな鎌を構えたドクロな顔面。その下には時代の最先端を走る無駄を完全に削ぎ落とし臓器や筋肉、脂肪なども除いた骨だけのモデル体型。そこへ、前衛的かつ個性的な布をモダンな感じに掛かっていた。骸骨ですね、本当にありがとうございました。

 大鎌の猛攻を避けつつ、色んな意味で涙目な私。

 親父の独特な知り合いは、こちらへ指差しガタガタカチカチ歯を噛み合わせる。親父が頷くと、ケタケタ笑い声を上げながら鎌を片手に追いかけて来た。

 そして、逃げながらこの場所が彼の有名な『地獄の門』というダンジョンに似ていると気付く。恨み言を言いながらも避けねば死ぬ。ブオォンと音を立てながら頭上を通り過ぎるデスサイズ。生きた心地がしなかった。


 結局何とか生き残ったが、どっちの修行でも昇天しかけた。いや、おそらく一度は昇天しているのだろう。

 修行の終盤では、いつも河原の向こう側からGGYに押し返された。毎度早いは莫迦者!と罵られながら三途リバー上空にて蹴・殴り飛ばされた。まさにフライイング爺さん。

 恐怖体験である。迷宮とか幽霊とか魔王とか修行よりよっぽどホラーだった。

 骨皮筋右衛門で白装束着た老人。頭の白い三角巾がずれるのがチャーミングポイント。そんな爺さんが老骨に鞭打ち河の向こう岸へ飛ばす。光景自体が既にトラウマ級である。いつポックリ逝くのか、毎度心臓バクバク案件だった。

 おじいちゃん本当無理しないで。

 毎度来る度に、湿布や絆創膏の面積が増加していく。最後の方は満身創痍の老人超えてゾンビで通用する姿となっていた。全身包帯ぐるぐる巻きで、首や腰へはコルセット。上腕や大腿骨は4本とも固定され、松葉杖もついていた。

 見ているだけでとても痛そう。そんな状態で大声張り上げて私を向こう岸へ飛ばすおじいちゃん。本当、ご自愛下さい。

 いつ逝ってもおかしくない姿のそんな老人。付き添いもなく、だが毎回私を送り還さんと飛ぶ姿。アイキャンフライ、はなんか違う気がするが。大河川上を蹴飛ばされた私は毎回ハラハラしながら見ていた。

 きっとこんな風景、高位な夢魔でも喰いきれず逃げ出すだろう。

 だからなのか、修行休みも夜中死にかけ老人思い出しては悩まされた。馴れるまでは魘されて何度か中途半端な時間に目が覚めた。本当にどうしてくれよう。成長になのに。

 御陰様で身長は普通に伸びなくも無かった…栄養状態は良いので。


 それと、これだけ迷宮や深淵に行ったのに今の所何故かマトモな獣とは出会えていない。これはもしかすると、一種の呪いかもしれない…最近誰かの恨みでも買っただろうか。いや、そもそも人外魔境に人は見かけない。

 だがどのみちこのままではモフモフ牧場、ツルツル遊牧地への夢が中々叶わない…なんとかできないものか。

 魔王の連れて行く迷宮で見付かるドラちゃんとかリザどん。だが表面は火だるまだったり氷針千本だったりと独特な形態。私にとってはまさに『触れるな、危険』とラベリングしたい連中ばかりであった。

 親父の所なんてもっと酷い……全員アンデッド、腐っていました。

 良くて骨、悪くて蛆とカビ生えている。目玉とか脳とか臓物とかが良く飛び出ており、ただ只管グロテスク。毛も良くてゴワゴワだしモフモフ成分なんて無かった。数種類の個体にはモザイクまで掛かっており、諦めの境地に入った。

 そしてこれ重要。ビジュアル以上に臭いがアウトだった。

 仮にアンモニア臭だけだったならまだ妥協した。だけど、それ以外にも中々個性的、独創的……正直に言うと本当にクサイ。死んだ魚を数日放置した臭いの方がまだマシ。そんなレベルの臭いが骨だけの連中からも漂ってきた。

 親父曰く、それこそが死臭なのだとか。知りたくなかった。

 もうわかったと思うが、奴等はグロさと臭さだけ折り紙付きだった。本当にありがとうございましたそして還れ。主に土とか棺桶に。

 私の素敵な隠居生活は、果たして実現するのだろうか……



 おじいちゃん、お大事に。


 次回もどうぞ宜しく御願い致します。



H29/08/23: 訂正 臭→臭い ご指摘ありがとうございます。

H30/10/22: 全面差し替え 行間調整は後日行います。

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