62 〇〇も進めば刺客に当たり、美味しく頂く他はない(その4)
読者の皆様投稿遅れて申し訳ないです。PCが調子を崩してデータが消えたので書き直しておりました。行間は後日直します。
さて、それでは今週の不憫をどぞ!
秋の夕日がつるべ落としなら、冬の夕日はなんだろうか…ああそうか。
「閉じ蓋…冬至だけに、フッ」
ぼそりと呟いたが、当然周囲は依然としてしんとしたままだった。
日本人なら通じるか通じないかなギリギリのシャレ…というか、こじつけに近いことは自覚している。だけど、冬至という習慣を持たないこちらの人間なら当然誰にも通じないのも無理はないか。
自分で言っておいて、心身ともに寒くなった。
ベベン、ベベベベベベン…ヒュオオオォォォォォ
ついでになぜかBGMまで寒々しい音が流れてきた…うう寒い。こたつに潜ってこたつむりになりたい。ついでにみかんとせんべいとあったかい日本茶、それから餅があれば最高だな。
そういえば餅はしばらく食べていなかったな…前世食べて以来か。
ベベン、べべべべ…
餅はもちろんの事、ご飯系に関してはこちらの世界ではそういえばなかった。味噌も醤油も遥か東の国ならばあるそうだが、この西洋っぽい大陸には存在しない。
餅のことを思い出したら急になんだか日本食が食べてくなってきた。いや、ごまかしていた望郷の念が出てきたってだけかもしれないが。白米とかが食卓に上らないこととかが地味に寂しく思う日もあったりなかったりする。
せめてもの思いでなんとか見つけたシソとゴマでなんとかしのいではきたが、こう、お腹が空いた上で寒いとたまに暖かな白米と味噌汁を思い出してしまうことがある。
ベベベン
そして、この謎のBGM…
この目的地で最後のはずだったのだが、妙な気配があったので一旦隠れることにした。そしたら急に和楽器っぽいBGMの音がし始め、心身ともに冷えてきた。
そう、三味線ぽい音なだけなのになぜか寒いのだ。
そしてこっそり木陰から目的地を覗くと、目的の対象であった幽霊たちが倒れていた。ピクピク小刻みに震えていることから、一応存命?らしいことは把握した。めっちゃ寒そうだけど。
…いや、よく見ると全員凍りついていた。
中央にいるのは安物っぽいギターを抱えた薄汚い格好の浮浪者…ではなくおそらく売れない吟遊詩人。そいつが原因か。
実際、音を発するたびになぜか凍てつく風と吹雪?が発生していた。
吟遊詩人だと一目でわかったのは近くに契約精霊が漂っていたためである。特徴からすると、風の初級精霊だな。一説に、音楽関係者で旅に出る者、特に自由な気質を持つ職に就いた者には大概風の精霊と仮の契約を結んでいることが多いと聞く。
ヒュオオオオオォォォォォォ…
本人は一曲弾き終わって満足している風にウンウン頷いていたが、次の瞬間周囲を見てまたなのかとしょんぼりした表情でうなだれた。
文字通り、ガーンと言うプラカードを背負って。
よくよく目を凝らして見ると、精霊が抱えていた。どうも、実体化できるほどには力を持っている存在らしい。もしかしたら、初級精霊の姿は模擬しているだけかもしれない。あいにくここからではわからないが、そんな気がしてきた。
面白い…話しかけてみるか。
「…どういうわけか知らんが、これは貴殿がやったことか?」
どんより影を背負った売れない吟遊詩人(仮)へ尋ねると、顔を上げてこちらを凝視した。そして、随分慌てたように開口一番こう言われた。
「こ、こんな時間にこんな場所でどうしたんだい、僕?!迷子か家でか?危ないじゃないか!!お家の人がきっと心配しているだろうから早く帰りなさい!!!家はどこだい?送っていくよ?」
めちゃくちゃ心配されたようだったので、仕方がなく事実を述べた。
「…案ずることはない、親はすでに死亡している。」
まぎれもない事実である。
そして今回の遠征は心配性な親父同伴で来ています…ここまで言うと、なんだかいい大人なのに親同伴ではにと何もできない子供みたいな感じがしたので、あえて言わないでおいた。そしたらなぜか滅茶泣かれた。
つか、よく見るとチビな精霊まで号泣しているって…
「…そっか捨て子か。あ!?ごめん!!その、だけど…なんというか、こんな時間にいこんな危険な場所にいたら危ないよ?」
せめて保護者はいないのかと心配そうに(依然涙目な状態で)尋ねられたので、キャンプ場へ戻れば一応いるっぽいことを伝えた。すると、冒険気分でこんな危ない森の、しかも暗くなってから散策するなんてと今度は説教を始めた。
さっきまで泣いて、今度は目を三角にして…随分と忙しない人だな。見上げると、頭に血が上っているらしく興奮気味に語っていた。内容は主に丸腰で無力な子供にとってどれほど危険な行為なのか、また普通の冒険者にとっても森の危険性をはらんでいると言ったこと。まあ知っているなと聞き流そうとした。
だが、なんとなく相手の声に従ってしまい、いつの間にか正座して説教を受けていた。
それにしてもこの人、冒険者というか戦士?魔導師?としての実力はあると思ったのに、相手の力量を計れないだなんて。そう思って眺めていたら、そういえば自分がそれらをすべて訓練として隠していたことに気づいた。
そら普通の子供と勘違いされるのも無理ないか…
「お兄さん、心配してくれてありがとう…けど、とりあえず私の一端の冒険者もどきだ。」
丁度こちらへと迫っていた青月夜毒蝶を倒しながら答えた。
蝶はカランと音を立てて死亡し、生前の綺麗な状態のまま地面に落ちてゆく。そして、そのままだと粉々に崩れるはずの青い蝶をさっき契約したばかりの元商人の幽霊が回収していった。
よっしゃ、小遣いゲット。
使用したのは氷の魔術式…うまく凍った後乾燥したので標本ぽくなっている。余った額縁とかに入れて親父に渡そう。きっと高笑いしながら商人たちへ高く売ってくれるだろう。幾らに変わるか今から楽しみである。
「名乗り遅れたが、私はライ、現在準ギルド組織で冒険者見習いのような仕事を請け負っている…」
ついでに魔導木菟が飛んでいたので仕留める…今度は針を使用。口が開く瞬間を見極めて延髄を貫通させてやった。木菟系統の魔物はその頭脳も肉体と並んで貴重な資材として売れるので、極力傷つけないで討伐するに限る。
なお、使い魔契約をしたいと思ったことはその醜悪な生態と懐かないという特性から諦めたことをここに語及しておく。
「現在は、そうだな…ギルドからの任務中、とある人物の護衛だ。」
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「いや、失礼しました…まさか年齢が若く見える熟練の冒険者とはつゆ知らず。」
「………いや、もういい…」
「いえいえ、僕の気持ちも治りませんしここは僕も同伴して借りを返します!」
いや結構ですと、言いたいが…あんなキラキラした目で見られたら止めるに止められない。それに、置いてきたところで多分だが、この人野たれ死ぬだろう。
そうなると、目覚めが悪い…悪すぎる。
いや、実力としては確かに並よりある。それは確実だった…ただ一つ、本人無自覚な事と呪いでレベルが強制的に上がらないようになっていることを除いては。
そう、なぜかひどい呪いを受けていたのだった。しかも称号欄には王族がどうとか不穏な表示があった。そっと目をそらしておいたことは言うまでもない。
おそらく今まで生き残ってきた理由は肩に止まっている精霊のおかげだろう。
「…それにしてもあの歌は攻撃か何かか?」
まあ大体予想はついたが、念のため聞いてみたら案の定な答えが返ってきた。
「いえ、なぜか僕の場合歌えば氷柱が演奏すればひどい日には凩が吹いてくるんですよね…あはは、まあ理由はわからないですが、おかげさまで吟遊詩人のつもりですけど…」
がっくりうなだれた吟遊詩人のアレン…アレン・ゲラルド・クライブ・ド・ラ・ブラッドハイムズ。とりあえず公爵以上の地位は確定な様子です、本当にありがとうございました。
厄介ごとがまた歩いてやってきた(内心涙目になる)。つか、声かけなきゃよかったかも…思わず遠い目になるも、なんとか正気に戻って話を続ける。
「…その、多分原因はわか「本当ですか!!」あ、ああ…そ、そうだな…」
あまりの勢いで、転びかけつつ返事をする。
期待の篭った目でこちらを見てくる。その目は闇の中であるというのに無駄に綺羅綺羅しく、髪もまた輝いていた。それを見て、嗚呼、本家本元の王族って隠しきれない何というか…輝きがあるんだなぁと逆に感心してしまった。綺羅綺羅に関しては誤字にあらず…カタカナでは表せない豪華絢爛さで会ったことをそっと語及しておく。
だけど、これって伝えていいものなのかと少しだけ後悔した。
「理由だが、その「おい、遅いぞライ!って、誰連れてきたんだ!!」」
言葉を遮られて見上げれば、そこにはドワーフとホヒト族の群れがあった。
「悪い…用は終わったので、向かうとするか。」
「いやこっちこそ悪かったな…」
バツが悪そうに頭領が頭をかいていたが、今回ばかりはこの空気の読めなさ具合に助けられた気がした。
とてもではないが、相棒である精霊が原因とは言いたくなかったのだった。
吟遊詩人…ファンタジー小説などでたまに登場しますが、結構好きです。特に、伝承を伝える役割で民謡とか歌ったりするシーンなどは読んでいて感動したりしなかったり。戦闘方法も独特でいいですよね。
現在のメディアは好きではないですが、原点である彼らは割と好きです。




