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もし〇〇が仲間になったら(〇〇式異世界英才教育〜憎まれっ子よ、世に憚れ〜)  作者: 平泉彼方
第2章 波乱な8歳前半の歩み(〇〇式英才教育基礎レベル実践編)
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61 〇〇も進めば刺客に当たり、美味しく頂く他はない(その3)

 読者の皆様投稿遅れて申し訳ないです。ブックマークありがとうございます!


 さて、今話はシリアス回です。それでは今週の不憫をどぞ!





 森を逆行しがてら晩御飯もう2品分狩りながら進んで行く。


 さっきから魔王の指示通り気配をなるべく弱そうなレベルまで落として相手に油断させているが、これが中々難しい。濃すぎず薄すぎず、中途半端な素人らしい気配にしようと現在奮闘中。なお、成果は戦利品を2個得た程度…正直まだまだである。


 気配を操作する方法はざっくり言うと自分の周りの空気の濃淡を調節することである。


 気配は文字通り『存在が空気』といった状態にすることに始まり、相手を萎縮させるほどに畏れを抱かせる大きさへと広げることも可能である。これを極めれば某日本の妖怪みたいに喰い逃げしても捕まらないし、逆に視線だけで相手を石化させる芸当も某巨大な蛇みたいにできるようになるそうだ。


 なお、魔王は気配だけで敵対している相手の軍隊を全員まとめて戦闘不能にしたことがあると言っていた…ついでに未熟だったため自分のところの兵隊も、というオチがつくが。最初眉唾ものの話だと思っていたが、今となってはそんなこともあったのかもしれないと納得している。あの魔王だし。


 気配に関しては、魔力や闘気などで代用できるだとか突き詰めていけば他にももっといろいろ話題はあるのだが、今は割愛しておく。



 さて、そろそろ目的の地その2に着きそうだな。



 暗い夜道、木々の隙間を縫うように単騎で行軍しながら考えることは、先ほどまた襲ってきた刺客について。そして彼ら全員が共通して持つ解析済みの腕輪。


 『魂をよこせ』…確か、そんな内容の命令文だったか。


 ずいぶんふざけた内容だと思った。思っていた。親父が声を荒げるだけあるし、他人の魂を喰らうとか本気で最悪な命令文であると考えた。だが実際そのことを実感したのは実物が起動している状態とその結果を見てからだった。


 効果を目の当たりにして、声が出なくなるほどショックを受けた。


 ここまで葬った連中は、リカバリー不能なほどまで魂を削られ喰らわれた者たちばかりだった。殺気を放っていた彼らが急に力なく崩れ去る姿を思い出す。


 親父の言った通りある程度魂の消滅した奴は全員肉体が塵みたいに消滅していた。それも、致命傷を与えた次の瞬間。



「…結構くるものだな。」



 ただ、一番やるせない気分にさせられたのは…散っていく瞬間全員共通して穏やかな表情をしたことだった。やっと眠れると、語外に言うような。そんな顔をしていた。


 もう少し、そう、もう少しだけ早かったら助けられたのでは。傲慢にもほどがあるが、そんなことを思ってしまったのは多分自然な流れだったのかもしれない。


 自分の身が第一でなるべく危険なことには干渉しない。そんな決意をつい曲げてしまいそうになる。



「悪いな…」



 だが私は今世、血のつながりこそないが家族が待っているのだ…それこそ死人と人外だらけという端から見れば『異端』な集まりだろうけど。けど彼らを私の私情一つで巻き込むわけにもいかないからな。


 その代わり助けられる相手はこうして助ける。



「確かこの辺だったな…」



 例え、彼らがすでに『死人』であっても。



「悪い、またせた。状況教えてくれ…」



 『銀風』の行き帰りメンバーの1人…確か突撃のカルだったか?



「いえ、予想以上に早かったので安心いたしました…それより状況ですが、今のところ霊たちは混乱しているようです。」



 詳しく聞いてみると、幽霊となったのはどうもだいぶ魂のデータ…すなわち記憶や嗜好、性格などの一部を喰らわれてしまっていた連中だったらしい。ただ、無意識に相手を殺せという命令文に逆らう程度、また世界と自分を分別ができる程度には自我が残っていたらしいが。


 問題なのは、記憶が虫食い状態となり苦しんでいること。


 食われた記憶は補填することはできても元に戻ることは決してない。ただ、こういったことがあったなぁと回想を見ているようなそんな状態になるそうだ。


 親父の部下の祖先だった奴の中でも自我消失直前に殺されてなんとか存在を保てたと言っていた連中はそんな風に表現していた。


 正確なことはわからないが、仮に記憶が補填されたとしても自分が体験したという実感がわかなくなってしまう。そう私は理解しているが、あながち間違いではないはずだ。



 親父の元部下の家族である青年の幽霊は、寂しそうにこう話していた…



「いや、実は娘の顔が思い出せないんですよね…なんというの、姿形とか声とか一緒にいたことは覚えているのに、顔だけ塗りつぶされているような、そんな感じですかね。」



 その部下は現在思い出せない分の娘の顔は写真で補っている。地球にあった写真のことを思い出し、幽霊とかいるし念写できないかと試したところ、別の人の記憶を使って彼の娘の映像を映すことができた。



 余談になるが、娘の映像を他の幽霊の記憶で念写することに成功したが、それだけでは終わらなかった。いくつか念写した中で、部下の同僚にあたる独身だった人物の記憶からいかがわしい店に行く姿が念写された。結果、その写真を見た妻の幽霊に引きずられて行った。


 野太い悲鳴がその後響いていたが、満場一致で聞こえなかったことにしたのは言うまでもない。後日見かけた医務室で手足を吊った見るも無残な姿となっていた。幽霊用ベッドのベッドサイドにフツール盛り合わせをおいた上で、魔王には枕元に立たないよう再三言っておいた。


(※後日、怪談組により魔王が死神扱いされたことに気づいて酷い目にあいました)



 さて、そんなわけで記憶自体を元に戻すことは不可能だが別の手段で代替えを用意することはできる。もちろんそれで相手が納得すると言われたら疑問だが、自分を形成するもが完全に失われた状態よりはましかと考えた。


 混乱し彷徨える幽霊たちを見ながらどうこの場を収拾しようか悩む…無神経な言動で下手に怒らせるのは御法度だし、かといって何も言わなければ永遠にこのままだ。


 ちらりと冒険者を見ると、焦った様子で話しかけていたのだがどうも逆効果になっているらしい。


 ある意味仕方がないことだ…かろうじて己が世界から独立した1個体であると認識できているが、自分は何処の誰で何をして生きていたかわからない。そんな、アイデンティティーが消失している人も大勢いる状態だ。むしろ気が狂って喧嘩とか殺し合い、果ては存在自体の完全消失にまで至っていない分まだ十分糸口が見える。



「さて、待たせてしまって申し訳ないな。」



 相手を消し飛ばさない程度に威圧をする…これも気配の訓練の一環だと思っておこう。



〈君はさっきの…〉



 代表と思しき痩せ型の男が1人、話しかけてきた。若干引きつったような表情をしているのはきっと気のせいではないのだろう…及び腰だし、今にも逃げ出しそうな感じだ。


 まったくこんないたいけな8歳児を前にそんな恐ろしい相手に対峙する姿勢になんてならなくていいのに…別に取って食うわけではないわけだし。むしろすでに食われちゃっているし。



「ああ、さっき通ったが改めて…幽霊と対等な条件の上で契約している者だ。ライと呼んでくれ。」



 手を差し出す。


 それを受けて相手はピシリと姿勢を直してこちらへ向く…そこには不思議と、それほど恐れた様子は見受けられなかった。



〈初めまして、かつてドラムレーン王国領のエストレリータ商会で財務の元締めをしていたピエール・スピカと申します。〉



 言うと同時に手を互いに握った。そして相手は自嘲するようにこう続けた。



〈ええ…ご存知と思われますが現在は無職、どころか生きていれば犯罪者として奴隷落ちしていたでしょうね。最悪他国、それも同盟国の貴族を襲ったとして処刑ですか。〉



 …ああやっぱりあのおっさん素性バレている。


 さすがは商人といった方がいいのかあのおっさんの変装が変装になっていないことを指摘するべきか。なんというか、おっさんこそ女装するなりミスリードな格好をした方がいいのではなかろうかと思い始めた。


 まあ確かに知らない実力もない人が見れば一見中年中級冒険者に見えるようにしてはいるが。



「で、どの程度覚えている?無理に答えなくていいが…」



 仕事の地位とか覚えている以上は大丈夫に思えるが念のため聞いてみた。



〈そうですね…仕事、家族、他諸々大事なことは大体覚えているはずなのですが、何故エストレリータ商会で財務に甘んじていたのか覚えていないです…そのあたりに私にとって重要な理由?目的?があったことまではかろうじて覚えているのですが……〉



 その後も聞き込みをいろいろと行い、その結果幾つか判明したことがあった。



「大事にしている記憶から喰らわれる、ね…」



 己の家族、恋人、親友、同僚。あるいは長年の野望や願望。他、楽しみにしていたこと、生きる上の希望としていたことなど、人により千差万別だがその人物を形成する要素のうち重要だと本人が認識していたこと。


 どうやら本人が重視している順に記憶が抜け落ちている…ミスティフコッカスは人の生きる意味を奪っていくらしい。



「…予想以上に危険だな。銀風の仲間に注意勧告しておけ…いざとなったいくらでも逃げたっていいから。」


「ええ、我々も部が悪いと思ったらさっさと撤収しますよ。だから安心してライ殿は突き進んで下さい。」



 一通り契約をして一部復元可能な記憶がないか念のため確かめ終えた後、一言断っておいた。


 いくら積極的に襲われないタイプの幽霊だったとしても、餌がなくなれば襲われることはあるだろう。もちろん冒険者としての実力を知っている以上信頼しているが、だが死人である以上肉体という枷がない。その分無茶しがちなのも幽霊の悪い特徴なのだ。


 心配だが、こればかりはもう任せるしかない…消滅さえしなければ復元できるよう私の契約でバックアップはできている。最悪契約の機能を使って手動で強制退避させればいい。


 その場合、後でわだかまりが残ると思われるが。


 まあ悩んでいても仕方がない…これ以上の収穫はここではないので次の地点へ進むとするか。



 暗い夜道へ溶け込み、山菜や襲ってくる敵を刈りつつ目的地へ向かうのだった。



Q:ミスティフコッカスってどんな形しているのでしょうか?


A:簡単に言えば球体、それに三角形の口が開いている形ですかね。


 …よくよく考えてみると、某レトロゲームに出てくるパッ○ンっぽい感じでしょうか。

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