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もし〇〇が仲間になったら(〇〇式異世界英才教育〜憎まれっ子よ、世に憚れ〜)  作者: 平泉彼方
第2章 波乱な8歳前半の歩み(〇〇式英才教育基礎レベル実践編)
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60 〇〇も進めば刺客に当たり、美味しく頂く他はない(その2)

 読者のみなさまどうもこんばんは。


 それでは今週の不憫第二弾をどぞ!




 森の切り株にロープで雁字搦めに固定されたモダンアートならぬ元被害者。ベリリと口に貼っておいたガムテもどきを一気に剥がすと、イッテェと涙目になっていた。ヒゲが抜けたらしい。ガチガチに固定していたロープも勿論解いて順次回収していった。


 縄術に関してはかなり重宝している。結び方さえ工夫すれば相手は中々解けないのに、こちらは一瞬で解ける。なのでこうして拘束するにしても罠として張っておくにしても、非常に便利だ。


 まあでもここまで縄極められたのも、ある意味某魔王のおかげであり某魔王のせいである。技の伝授自体は非常に感謝しているも、もう少し伝授方法は何とかならなかったのかと疑問に思っている。


 え、ナニをされたかって?


 簡単に言えば、いつも通り最初から講義も何もなく実地で学習しただけだ。実地で、実際に縄を使って感覚的に覚えろと言われ…



 長耳族の森で私を拘束した。



 しかも魔王は本気を出した挙句いつも以上に(本人曰く)張り切って縄だけではなく鎖とか魔力とか色々ぶち込んで本気の拘束をした。当時5歳だった私をあんな危険地帯に、である。信じられるか?


 拘束し終えてから魔王は森の影に潜ってそのまま姿を消した。その数秒後、ドカンと爆撃音と派手な閃光が上がった。それは親父から長耳族の集落あるから注意しろと警告されていた角度であり、ものすごく嫌な予感がした。


 その勘は嬉しくないことに見事当たった。


 爆発から数秒後、魔王が現れたのだ…背後に長耳族連れて。というか追われて。いい笑顔でサムズアップしたと思ったらこう言いながら私を置いていった。



『挑発してきた☆生き残りたかったら頑張れ♪』



 遠ざかる魔王を唖然と見ていると、弓矢から金属製の投げ槍までバタエティーに富んだ飛来物がギュンギュン音を出しながら付近まで飛んできた。擬音は残念ながら誤字ではない。あれはヒュンヒュンなんてものではなくギュンギュンだった。なんだったらドゴーンと大地の削れる音も含めたっていい。


 段々と近づいてはっきりと見えた長耳族は、全員すごい形相で完全武装していた。


 まあ確かに彼らの森に手出ししたら当然そうなりますよね?煙上がっているし、プスプスこちらまで燻っている音が聞こえるし?おまけに焦げ臭いし?


 …劇怒りした長耳族は滅茶苦茶怖かった。


 般若とか夜叉って呼ばれる連中はきっとエルフのことを指していたんだなぁ。思わずそう納得したほどホラーな光景であった。つり上がった目とか逆立った髪とか。


 涙目になりながら必死に解いたことは言うまでもない。


 なんとか辛うじてあの日は生還できたが、生きて帰れたのは奇跡だと思った…本当に、本当に死んだかと思った。


 そんな感じて長耳族から逃げるため、文字通り魔王の無茶振りという命がけ(・・・)で身につけた技の一つであった。まだまだ私のやり方では甘いらしいが、一応実用で使える状態である(魔王談)。


 なお、魔王に向かって縄術が似合いすぎると指摘すると半殺しにされるのが玉に瑕である。



 …などと回想して現実逃避していたが、そろそろ私が変態呼ばわりされている不名誉をなんとか払拭しないと。


 そう思いながら目の前で騒ぐおっさんを見る。先ほどまで全身縄で拘束され切り株に繋がれていた上で、口にガムテを貼られて目隠しまでされていたおっさんには見えないほど元気がよろしい。



「け、儂も運が悪いぜ…乗っ取られたと思ったらこんな変態なガキに捕まるなんてよ!」



 一応言っておくが、別にこれは私の趣味ではなくてだな…縄で固定した、いや、されたのは相手が勝手に絡まったから、面倒になって放置しただけだ。口に関しては、うるさかったので生存率を上げるために閉じただけだ。


 目に関しては完全についでではあったが、結果的に護衛として寄越した『銀風』のメンバーを見られないで済んで良かったと思っておこう。今後彼らがドワーフへ、同胞へと危害を加えたと悪評が立ってしまえば武具の手入れとかに困るだろうし。


 最悪まあ私か魔王がやればいいんだが…私はそもそもプロではないし、魔王に関して言うならやりすぎてしまうからな。この前も何を血迷ったのか包丁のケアを頼んだら微振動機能が付加されて帰ってきたのでまな板が一つ犠牲になった。切れすぎる件にキレたことは言うまでもない。


 しばらく食後のスイーツ無しの刑に処しておいた。



「本当になんだってこんなちっさくてなよっちいガキンチョに儂らが負けたンだ!そっちが絶対変態らしく変なことしたンだろ!この卑怯者!!正々堂々勝負すれば儂らが負けるはずなんてないンだからな!!」



 稀に見る酷い言い掛かりだ。


 確かに裏街でカツアゲする際に言いがかりを毎度毎度ご丁寧に付けてくる連中はいる。だが、変態呼ばわりされた挙句変なことしたとか言われたことなかった。というか、ここまで酷いのは初めてだ。



 それにしてもだ…



「ちっさいおっさんにチビって言われたくない。」


「うるせぇ!これは種族的なもンなんじゃい!!」



 このうるさいちっさい(以後、うるちっさいと記す)おっさん、は所詮ドワーフと呼ばれる種族である。筋骨隆々で堂々としているが、種族的な平均身長は確か110〜132だろうか?大きくて150位だったと記憶している。


 まだドワーフ最大身長には負けているが、確実に普人族の私は抜かすことになるだろう。なんせ、目の前のおっさんには足の長さで勝っているのだ。


 なお、相手の大体の足の長さがわかる理由は相手が武装していないからである。戦闘の段階で無力化した後武器と思しきものは回収し、立派な鎧なども全部取り上げた。所詮武装解除である。要するに、現在相手は完全無防備であった。


 だからまさか次の瞬間本気の攻撃を仕掛けてきたとは思わなかった。


 不機嫌そうにブンブンと肩を回し、おっさんは次の瞬間宙返りをしていた…ああなるほど、準備運動か。こちらに向けて放たれた宙返りキックを右手でそらしつつ、彼の仲間と思しきドワーフたちを縄から解いていった。



「さっきから儂の攻撃全部よけやがって!正々堂々勝負せんかいこのガ、フゲェ!?」



 木の上に縛り付けておいたホヒト(ホビットのこちらでの呼び名)を回収するためうるちっさい(やっぱり次からうちっさいで)足場を踏み台に木の枝へ飛び跳ねて縄を解いた。


 プルプルと震えるうちっさい…



「儂を…儂をコケにしやがって普人族(ノーマ)のくせ、ブグゥウウウ!?」



 突然ズゴーンとすごい音が鳴り響き、うちっさいはさらにチビっさく…よくよく見ると、地面が少し沈んでいた。


 次の瞬間白目をむいて横に倒れるうちっさい。背後から、親方らしきもう少しちい…いや、老成した灰色の髪をしたドワーフが完璧な笑顔を浮かべて手刀している姿が出てきた。


 シュウゥゥゥと倒れたドワーフのたんこぶから煙が出ており、ピクピクと小刻みに震えていた。ついでに手刀からも煙が上がっていた。同時に、なぜか手刀をしているドワーフはどこか達成感のある表情をしており頷いていた。


 それでいいのかよ…


 というかこれはあれか、ショートコントとして笑うべき状況なのか。それともこちらを混乱状態にするつもりなのか。だとしたら成功だな、今絶賛混乱中だ。


 とりあえず、さっき小さいと一瞬思った瞬間相手から寒気がしたのでどうも勘がいいらしいということだけはわかった。小さいと言うキーワードが禁句ということも。



 手刀のおっさんは銀に近い白髪の頭を掻きながら、ため息をひとつつく…そして顔を上げると同時に薄緑色の目でこちらの目を射抜くように視線を送ってきた。



「ちいとばかし短気なもんでな、この若い衆は許してやってはもらえんか?」



 温和で申し訳なさげな表情をしているが、先ほどの雰囲気と打って変わって少し鋭く感じる…完全にこちらを警戒しているようだ。まあそれは当然だし、むしろ警戒してくれない程度の相手では困る。


 それにどうやら特殊な色彩を持っているようだし。



「許すも何も、軽い運動に違いないし別に…」



 まあ貴族が聞いたら確実に侮辱したってブチ切れる発言だけど、それほど気にしないし?むしろこっちに生まれてから初めて普通のひと扱いされたよと内心喜んでいたのだが。


 相手は完全に首を傾けていたが、まあ許してくれるンだったらいいやとあっさり引き下がった。


 ただ、一つ言わせてもらうが明らかにホッとした雰囲気をしておりその様子から交渉ごとは苦手なのではないかと思った。対峙した相手、それも初対面であればあるほど相手が読みやすい表情をするのは危険である…わざと作るならばいざ知らず。


 まあ今回はそんなことしなくていい相手だと油断している可能性もなきにしもあらずだが。実際そうではあるし。



「さて、君たち拘束されていた理由についてはすでにわかっている?」


「いや、ワシはわかっていてもこいつらは分かっておらじゃろう…説明、念のためワシも聞きたいンじゃが。」



 仕方がなく簡単にかいつまんで説明した。



「かくかくしかじかということがあってだな。」


「なるほど、まるまるうまうまなのだな?」



「「『そんなんでわかるか!』」」



 おお…これだけで理解してくれるとは、さすがは頭領らしきおっさんだ!だがやはり周囲の連中は理解できなかったようで誠に残念である…



「じゃあ親方、後で改めて…周囲の説得は任せた!」


「おう、行ってこい!」



 ガヤガヤうるさく文句を言っている声が聞こえるが、じきに治るだろう。というか、親方が治めるだろう…最悪物理で。


 けど、本当にこういうところ察してくれる人は珍しい。ぜひ、後で顔つなぎのためにも我が家秘蔵の酒と肴をお出しするか…魔王と親父以下略が泣くかもしれないが、仕方がない。


 あっという間に真っ暗になった森の中を進みながら、スイーツと肉でなんとかごまかす方法をいろいろ考えた。




 ドワーフ登場。ライくん曰く、うちっさいおっさんたち。


 いつの日か、彼らがジャム爺さんと出会ったらどんな素敵な化学反応が起こるか楽しみです。

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