59 〇〇も進めば刺客に当たり、美味しく頂く他はない(その1)
読者のみなさまどうもこんばんは。評価ありがとうございます!
さてそれでは今週の不憫第一弾をどぞ!
再度出発してしばらく街道…ではなく完全に道なき道を進んでいった。
言っておくが、理由は別に人目を避けるためコソコソすることではない。最初に進んでいた街道は危険であると人より少し目がいいらしいレミィリアさんが断言したからであった。
そして現在やっとギルマスの予定していた休憩地点に入った。そこで腰を下ろしたところでどっと疲れが出たが、武具や防具の点検や自身の身体の確認、そして積み荷の確認などまずやるべきことをやった。
初めての遠征で正直疲れていないと言ったら嘘になる。特に、要人ではないにせよ警護する必要があったため。
だが何よりも…
「連中既にこの国に向かっていると考えたほうがいいのかもな…」
他の人に聞こえないよう親父へこっそり尋ねた。すると、神妙な顔で親父はつぶやく。
「ああ…大体ライの予想通りだと思う。」
襲撃は初回のやつを入れて既に5回目。うち2回はいきなり街道から外れたらしい混乱中の商隊らしき連中が急に白目を剥いて襲ってきた。そいつらに関しては殺気が一切なくどこからか遠隔操作されている気がしたので、結界を張って正気に戻した。
後の3回に関しては初回と同じであった。
正直戦えない、いや、戦わずこちらを見るためうろちょろ動く連中を警護しながら戦闘するのは負担だった。
特にギルマスはどうも、レミィリアさんによってなのかは不明だが肋骨を確実に1本は折っているのかヒビが入っているらしい。そのせいで明らかに動きが鈍かった。それなのに動き回るので正直フォローするたびにヒヤヒヤさせられた。
仕方がないので道中は魔王式索敵能力を全開にしていたのでレベルもうなぎのぼりに上がっていることだろう…もう見ないことにした自分のステータス画面のことが一瞬だけ頭をよぎるが無視した。
さてギルマスの無茶?無謀?な所業を現在非戦闘員であるレミィリアさんも滅茶苦茶心配そうに見ていた。それも、何もできずにずっと。現在再び正座状態で説教されているのは言うまでもない。時折こちらへ助けを求めて視線を向けるがそれがレミィリアさんの怒りを増長させているらしく、怖い笑みに凄みが増してきていた。
自業自得なので甘んじて怒られておきなさい…そしてリア充なんて末長く爆発すればいいのに(血涙)
怪我の具合から最悪の場合、ギルマスは途中で強制的に依頼から下ろす必要があると考えた。特にもう少し進んだ箇所から親父の予想からすると相当危険なので、非戦闘員の数はできれば減らしたい。
なお、トパーズさんは密偵に見られた際に非戦闘員と言い訳ができないと困るのでむしろ現在の状態でいい。本人もわかっていてわざとやっている上で、戦闘中はおとなしくしている。それに最悪逃げ出せる実力は確認済みである。
…まあどのみち現段階ギルマスにできることとしては、親父のクソ激不味特攻?特効?ポーションを飲んでもらうか荷物として荷台に積まれて大人しくしてもらうかどちらかだろう。
特に前者はオススメ。
しばらく味覚どころか感覚が色々麻痺するが、それ以上に即効性が得られる。もう一度言うが、五感を含めたほとんどの感覚中枢が色々面白おかしく狂うことになるが。
ただ、どっちの案も飲んでくれないとなるとこれからの道のりは結構険しくなることは確実であった。
現段階でも一度の襲撃に20〜30人対してこちら2人(+1人)で割と奮闘している方だと思う。なんせ、被害も出ていない上で殺気がない相手に限り完全に無力化する余裕まであるのだ。
けどこれが100人単位、いや1000人ならどうだろうか。それとも国家単位、つまりこの時代ならば200〜300万人ならば。その上でおそらく中には殺気を向けてこない操られた被害者だっているだろうし逆に確実に殺ルべき下手人が潜んでいるかもしれない。
果たして生存できるかと問われれば、まあそこまでなら今の実力で切り抜けられる自信はある。ただし、皆殺しの上で盛大なる環境破壊を行うことになるが。
ただ、護衛を抱えて一部は無力化して対応しろと要求されれば流石に生きて帰る自信はない。おそらく魔王だったならそれは可能だろう…あのチートならば。
親父も自分の私兵を数名犠牲にすれば可能かもしれない、まあまずあり得ない話だが。ただ貴族として領民を守る段になったならば冷静に死兵として数名犠牲を払う判断を下すのだろう。
まだまだ甘さの残る私では到底できないことだ…思わずため息が出た。
さて、そろそろ切り替えるか。
今回何も戦闘で草臥儲けだけしたわけではない。多大なる収穫もあったのだがいかんせんその場で収穫可能なものではなかったのだった。
「親父、ちょっとだけ抜けたい。適当にごまかしておいてくれないか?」
「…ごはん」(´・ω・`)
相当根に持っていたようである。
あまりに情けない顔でぼそりと要求された内容がそれだったので、一瞬脱力して転びかけた。親父って外見はマジで冷徹な印象なのに中身はこう、なぜこれほど残念なのか…きっと現役時代バレていたら、さぞ生暖かい視線を社交界でいただいていたことだろう。
…案外親しい間柄の家臣たちにはバレていたのかもな。だからこその『氷の貴公子(笑)』か。
上目遣いで子供っぽくしょぼんとした顔をする親父を眺めながら、ふとそんなことが脳裏をよぎったが、騙されてはダメだと一瞬思う。
「…しょうがないから今回は許すが次はないからな?」
わーいやったー肉ゥーと無邪気に喜ぶ親父を見て、本当に懲りたのだろうかと疑問に思いつつ、まあ今回は仕方なく、本当に仕方がないからから許してやるかと無理矢理自分を納得させた。くるくる回ってガッツポーズを取る親父は子供返りした大人そのものであり、おそらく反省のはの字も現在頭の中にはないのだろう。
ため息が漏れた……ビデオカメラとかあれば映像記録取って後で黒歴史ように使えたのに命拾いしたな、チッ。
けど不本意だが、今頼れるのは親父しかいない。と言うよりもう1人いるにはいるが、頼ったら負けというかアウトというかアッーというか。
ジト目で眺めていたら、さすがにばつが悪くなったのか頭をかきながら親父は言う。
「わかった、悪かったよ…もう幻は完成したからとりあえず行ってこい。」
横を見ると、ギルマスたちは幻術にうまく引っかかっていたので返事をしてさっさと森へと踏み入れていった。なお、レミィリアさんの目でも親父の幻は解けないらしい…さすがは元悪霊。
「了解、じゃあついでにバーベキュー用の山菜とかも摘んでくる。」
「え…」
これじゃあ学校のお迎えついでに買い物へ寄る世の父さん母さんのノリだななどとセルフツッコミを内心しつつ、山菜と聞いてショックを受けた表情をするへ苦笑した。そして私は単身、金色の夕日が漏れる森の中へと溶け込んでいった。
これから向かう先は、さっきまで通った道。正確に言うなら先ほど襲撃にあった場所へと道を逆行している。
すでに日は沈みかけており、空気も冷えている。だが森がちょうどよく防風林になっており今のところ強い寒波は吹いてきていない。
音をなるべく不自然にならない程度にならし、そして風をそれほど立てないように進んで行く。背後から今回お目付役になぜか抜擢されたと思われる青いツナギもついてきているのがわかるが無視する。
まあ魔王の人選なので間違いはないのだろう…時折こちらへ向けてくる視線とかを除けば。
実際、襲撃の際にもこちらのフォローを結界でもって行ってくれている。防ぎきれなかった分を全部ブロックしてくれたのは知っている。
実力に関してはまあ間違いなくあの家でもトップに入るのだろうと思う…ただ、攻撃方法がアレであることを考えるとドン引きだが。それを含めても、である。
ふと、暗がりのさらに深まった場所でヒソヒソブツブツとしゃべる複数の声が聞こえてきた。
ああなるほど…急げってことか。
念のため護衛として表裏両方で雇った冒険者と商人の放った術式を察知した。忘れられているかもしれないが、以前ウォルターさんを助けるついでに道中盗賊を懲らしめるので契約したA級冒険者『銀風』と『フランベルク商会』の会長といった中々に有名な面子である。
現在、本契約してそのあとレベル上げをした結果なのか普通に人として暮らしても問題ないほど仮初めの体が人の体に近づいた状態になっている。そのため普段は外で基本活動してもらっており、情報の裏付けなどをはじめとする諜報を主にしてもらっていた。
なお、巻き込まないためにも家族や冒険者の仲間へは話していないとのことだ。そのうちバラすかその前に復活するか…まあその辺は彼らに任せるとする。
さて今回彼らへ協力願ったのは、彼らが適任だと感じたからである。親父曰く、魂を餌食とする相手には一度昇天しかけた少し饐えた香りのする魂はお気に召さなとのこと。
死者の魂で彼らが好き好んで狙うのは意志が相当強い魂。とりわけ死後の姿が生前一番漲っていた頃であればなおよしとのこと…まず間違いなく親父は標的確定だろう。
そんな理由から彼らはターゲットになる可能性が限りなく低く、なおかつ商人と冒険者なのでさっさと逃げられる身軽な身分である。身の程をわかっており、殺された際みたいな相当に想定外な事態にでも遭わない限りはまあ基本大丈夫とのこと。
最悪肉体離脱して上手く帰還しますとの言葉も頂いた。クリスタル類も十分持っているし大丈夫だろう。その辺はこれまでの仕事ぶりから信頼している。
さて待たせるのも危険なので行かねば。
人…それから人外となった存在を待たせている。
次回はライくんの山菜集め、ついでに道中沈めてきたものを拾う感じですかね。
(※ライくんの暴走次第で内容に変更が生じますがご了承ください)




